己れを知る
ショコラちゃんと一緒に食事してから、ショコラちゃんの立ち位置が、僕に近くなった気がする。
気が付くと自然に隣にいたりして、ギョッとびっくり。
…や、やりますね。
僕に気付かせないなんて相当な隠形術です。
お近づきになるのは嫌では無いですけど、心臓に悪いので、お声を掛けてくださいね。
それにしても、一般庶民の、何の取り柄の無い僕が、侯爵家のお姫様と、こんなに仲良くなるなんて考えもしませんでした。
うんうん…ギルドに入らなければ会うこともなかったし、ギルドが実力至上主義で無ければ話すことも出来なかったに違いない。ギルドに入って良かった。
今回の件で立証されましたが、仲良くなるには、やはり、協力して作業したり、一緒に食事するのは仲良くなるのに友好なのですね。よし、これからも一緒に食事しましょう。
でも、こんなに接近してれば、もうショコラちゃんと僕、友達と言っても良いのでは?
ここで、僕は前世の青春時代を思い出した。
いや、まてよ。…まだ分からない。
仲良くなったと思っているのは僕だけかもしれない。
女の子って、気が無い相手でも優しいことを、僕は経験で知っている。…勘違いしちゃダメだ。
でもでも、せめて、今回で友達に一歩、近づいたと思って良いよね。
よし、僕、頑張るよ。
ちなみに、カレーライスは、フォーチュン曹長が、美味い美味いと言って一番多く食べてました。
作った食事を暖かいうちに美味しそうに食べてくれるのは、一番嬉しいです。
僕の中でフォーチュン曹長の株が少し上がった。
それにしても、あの食べっぷりは、呪術ってエネルギーを多量に必要とするのかな?
食べるだけ食べたら大の字になって、木陰で寝ているフォーチュン曹長を含めたブルー達に、休憩を十分取らせてから、再集合させる。
さあ、模擬戦の続きです。
下から順番だとウバ君だけど、彼は魔法特化だから、一旦保留。
「アッサム曹長、前へ。」
次のクール・アッサム曹長を、呼び出して対戦する。
僕が、礼をすると、アッサム君も返礼した。
「何処からでも、掛かってきて良いよ。」
先手をアッサム君に譲る。
アッサム君の戦闘力は、普通の武道を嗜わない一般男性を50と設定すると、数値は150を越える。これは、かなりの武道の高段者と同じ数字で、化け物と対戦しない限り、まず負けることは無い。だけど…上限突破はしていない。
上限突破とは、武道における悟りのようなものだと、僕は解釈している。なんとなく、してる者としてない者は、区別できる。雰囲気で分かるのだ。
この差は、分かりやすくゲームで例えるならば、クラスチェンジが一番近い概念ではなかろうか。
つまり、一般職から上級職、又は達人クラスへの昇格。
僕自身は、幸いにも一回経験がある。でも達人には程遠い。
どうやら達人に至るまでに突破しなければならぬ上限は、何枚もあるようだ…やれやれ。
アッサム君は、強い。
でも彼に負ける気は全くしない。
だって同じクラスでは無いのが分かるから。彼とは同じ土俵にすら、立っていない。
限りなく違いを見せて、分からせるのが良いだろう。
本人が、違いを意識しなければ話しにならない。
アッサム君が、突いてくる。練度の高い、真っ直ぐな正拳突きだ。
避けない。突いて来る分だけ下がるだけ。
付かず離れず、一定の距離を保つ。
ゆっくりの突きを何発か出し、ローキックから、急急に右上段回し蹴りが来る。
これは、避けられない。…良い蹴りだ。
右手の人差し指で、止める。
今、アッサム君の頭の中は混乱していることだろう。
だが、蹴り脚は直ぐに引っ込められ、逆から左上段回し蹴りが鞭の様に飛んでくる。
僕は、左手の人差し指で、これを止めた。
一歩近づく。
知覚で、アッサム君が、次にどう動くか丸わかりなので先手をうつ。
膝なら、動く前の膝を掌で押さえ、肘なら動く前の肘を掴む。前に進もうとする前に額をチョンと突き、脚を動かす前に引っ掛ける。
ショコラちゃん、見ててくれてるかな。
知覚範囲を拡大してアッサム君を飲み込む。
この範囲内ならば、僕は、ほぼ全知である。
滑るように移動して、体幹でアッサム君を、吹っ飛ばす。
倒れたアッサム君の手を握って、投げる。
起きあがろうとする所を、また投げる。
50回位投げた所で、アッサム君が泣くような声をあげた。
「…負けました。勘弁してください。俺の負けです。」
その悲壮な声は泣いていたのかもしれない。
俯いて立とうとはしなかった。
最後に引っ張り上げて立たせると、「ありがとうございました。」と、礼をして、皆の所に戻るよう指示した。
次は、「レイ・キームン曹長。」
さてさて、レイ曹長は、前回から何か対策をうってるかな。
なければ、それこそアッサム君の二の舞だよ。