侍
「search」「search」「search」
僕の探知魔法を大盤振る舞いです。
パターン赤、敵です。逃走だぁ。
パターン青、味方です。接近合流だぁ。
それを何回も繰り返す。
既に戦いは、消耗戦のていをなしていた。
…僕も消耗している。
こんなはずではなかった。
…お家に帰りたい。
味方部隊が何層にも、防御線を構築し、敵部隊を少しづつ削っていく。
たとえ味方の層を破られたとしても、直ぐ幾重にも間に層を創り出していく。
まるでウエハースかミルフィーユを思い浮かべる。
…ああ、お腹空きました。
この、まどろっこしいやり方は少佐の作戦なのか?
逃げるのは、常に少佐と令嬢と僕で、…何度死んだふりして、逃げようと思ったことか。
しかし、ふと見ると気づく…僕を喰い入るように見つめる少佐の眼が怖い。
きっと少佐の為人は、緻密で冷酷、目的の為に手段は問わないのだ。
あの眼は、僕が死んだふりしようものなら、絶対銃弾を撃ち込むか、剣を刺し貫いて確認しようと考えている目だ。
なにより、令嬢が僕の手を、震えながらずっと握り締めているので物理的に逃げられない。
少佐、このバームクーヘン作戦は、敵も消耗しますが、僕の精神も磨耗します。
なによりお腹が空きました。
これは、きっとストレスによるものです。
襲撃は数十回にも及んだ。
多すぎて、もう分からない。
多分…3桁では無いと思う。
しつこいにも程がある…まるで蝿の集団に集られている気分でもうウンザリです。
最初、鉄鋼弾をいきなりぶちこみ襲撃して来た小隊は、銃撃を繰り返す内に削れ、消耗し、そして、とうとう最後の一人となり、撤退した。
なんとなく少佐の作戦の効果が分かってきたこの頃、蝿のような鉄鋼弾小隊が撤退したのを機に、地下鉄を出て、都市内ながら、未だに文明崩壊後、放置されていた広場に逃げてきました。
ここは、未だ手付かずな、広場と言うには不適切な程に広大な野っ原である。
多少の起伏のある大地に、朽ちた古代の壁だけが無造作にニョキッとはえている。
その10メートル大の壁を背にして、座り小休止である。
見晴らしが良いので、少なくとも敵が来れば直ぐ分かるし、壁を防御壁にする事も出来る。
文明崩壊後5000年を耐え抜いた壁である。
頼りにしても良いと思う。
僕は、腰に巻いていた保冷バッグからお握りを取り出して一口食べる。ハムハム…美味しーです。
全く、補給しないと身体が持たないよ。
時間は午後6時を回っていた。
陽が落ちようとしている。
少佐と令嬢から、食べてる姿を、ジッと見られる。
あんまり食べてる姿をジッと見られると恥ずかしいのですが…
もちろん、あなた達…補給物資は自前で持ってますよね?
ギルド員なら、常識ですから。
え?まさか…まさかのさかですか?
僕の心の声が伝わったのか、少佐が答える。
「実は、夕食はレストランの予定だったので余分な物資は持ってきていない。」
なんですと?
な、何故に?補給は大事です。
補給は確保しないと長期で戦えません。
完璧に見える少佐が、何故?
どうやら、今まで少佐は華麗に瞬時に勝利してばかりいたので、実力伯仲する長期戦の経験が無いとのことだ。
つまり、今までは補給に至らずして勝って来たのですか…。
普通あり得ないけど、若くして少佐に至ったほどの実力なら、あり得るのか。
強いのも考えものですね。
まさか、こんな落とし穴があったとは…。
おお、なんて言うことでしょう。
僕は、上を仰ぐ。
致し方なし…致し方無し…僕は自分に言い聞かせた。
断腸の思いで、器用にお握り2個を、三等分に分け、お二人に渡す。
「食べ掛けでよければどうぞ。」
エリヤ嬢は、お握りを受け取って、ジッと見つめてから嬉しそうにパクついた。
可愛らしい。
少佐は、悪いなと言いつつ一口で食べ終えた。
少しは有り難く食べろ。
僕持参の水筒を、3人で回し飲みしながら、少佐のこれからの作戦を聞く。
今回の展開は、少佐も予想外で、既に待機部隊は無し。
拠点に入っても、何故か位置がバレるので、これからは都市外に出て時間まで逃げ切り作戦で、ギルドには緊急の応援招集掛けてるらしい…。
ここで、何かムズッとしたので、すかさず索敵を打つ。
勘は大事。
「search」パターン白が一つ。…色の着かない生命反応。
白は、敵味方判別つかない一般市民の場合か、強者の敵が隠密で接近してる場合の二種。こんな場所に来る一般市民はいない。だから、今回の場合は…。
「壁後ろ直近。逃げろ!」
僕は咄嗟に大声を出した。
僕の声に、二人共、前に飛び込むように逃げる。
…瞬間、壁が崩壊した。
爆破ではない、斬撃線が見えた。
壁は、切られたんだと分かる。
ところで、壁って切れるものなんですか?
崩れていく壁の向こうに、刀を持った長髪の男が、こちらを睨んでいる姿が、垣間見えた。