ショコラ心情録(前編)
あ やりました。…当選です。
キャッ、嬉しくて、飛び跳ねてしまう。
ダルジャン嬢に、アントワネット嬢、実家には内緒ですよ。
もし、知れたら、はしたないとお母様に叱られてしまいますからね。
私、アールグレイ少尉の料理補助に当選しました。
やはり、これは運命ですね。
私の名は、ショコラ・マリアージュ・エペ。
只今、絶賛、レッド昇格試験中の受験生です。
もしかして、この料理も試験範囲かしら?
疑えば、キリが無いけど、今はアールグレイ少尉のお手伝いが出来て、私、幸せです。
積み重ねなのです。
会う回数、話すほどに親近感は湧くものなのです。
まずは、少尉に私の顔と名前を覚えてもらわなければ。
思わず両拳をギュッと握ってしまう。
「ショコラ様、力入り過ぎてます。リラックスです。」
「ショコラ様、笑顔ですわ。私達の分までお願いしますわ。」
エペ家一門のダルジャン嬢とアントワネット嬢から、励まされる。
わ、わかってます。
た、多少の緊張は、良い結果を導きだしますから、想定内です。私は大丈夫。私は大丈夫。
深呼吸してみる。
「ありがとう、二人とも。参りますわ。」
ああ、もう頭に血が昇って鼻血出そうな位です。
それにしても、少尉の顔を思い返すだけで、フワフワした気持ちになって腰が砕けそうになります。
この気持ちは、何でしょうか?
女の子同士だから、恋ではないです。
でも、少尉ったら、可愛さの中に、凛々しさがあって、たまにドキッとすることもあるのです。何なんですか、あれは?
それに普段は、クールぶって無表情をわざとしてるのに、私達を心配してくれてる気持ちが、全体の仕草や、微かな表情の変化で丸わかりな所も可愛い。
そして、たまに見せる笑顔が反則級に可愛いのです。
あんなに可愛いのに、強くて凛々しくて頼りがいもあるのですよ。
もう、なんて言うのかしら。
仕草が好き。強いのも憧れる。垣間見せる笑顔も大好き。
小さな身体から溢れる暖かで優しい気持ちも好き。
責任感のある厳しさも素敵。自由で楽しげな心が好き。
ああ、なんてこと、嫌いな所が一つとして無い。
少尉って、本当に人間なの?
思えば、実家にいた頃は、エペ家本家の娘として、一門の子女を取りまとめて来ました。
自然と、全体を見て、相談はするものの、判断して決断して指示を出して、確認するのに慣れていました。
実家を出て独り立ちしてからは、指示命令することは無くなりましたが、独りぼっちで相談すらままなりませんでした。
今まで、決断する時は、いつも一人だったのです。
でも一人で決断するのは、内心では怖いのです。
だから、私は、決断するまでは、いつも迷います。
そんな、辛いとき苦しいとき、支えになったのが、アールグレイ少尉の活躍の噂だったのです。
会うまでは、同一人物だと分からなかったけども。
外見が見目麗しく、中身が外見以上に輝かしい心根のアールグレイ少尉。
私よりも、歳下で後輩ですのに、初めて頼る気持ちになりました。こんな、気持ちは私、初めてです。
だから、少尉、末永くよろしくお願いします。
スススッと、アールグレイ少尉に近づいて行く。
アールグレイ少尉は、こちらをチラッと見ると、少し待ってねって仕草をだした。
両手を前に突き出している。
…
グニャッと、何かが曲がるような感じがしたかと思うと、広場の端に、ニョキニョキッと卓と椅子、料理台が、土が盛り上がって生えた。
え?土魔法?
エトワール少尉が、アールグレイ少尉の魔法を、口に手を当てて凝視している。
ウバ曹長も、今の魔法を見てしまったのか、口をボカンと開けた状態のままだ。
魔法特化のお二人は、アールグレイ少尉の魔法の異常さを認識したのでしょう。
私は、最近、初級魔法をいくつか習得して、ある程度は魔法を知ることが出来ました。でも、こんな短時間で無造作に造形できる人の話しなどは、聞いたことがありません。
でも、もう私は深くは考えません。
覚悟は、既に出来ているのですから。
もう、良いかしら?
私は、少尉に近づいて声を掛ける。
「少尉、よろしくお願いします。…まず、野菜の切り方を教えてください。」