アールカレー
うむ。カレー美味し。
目を瞑り、味を堪能する。
なんてゆーか、文明崩壊から5000年経つのに、変わらぬ味です。よくぞ、この長い年月を生き残ってくれたと褒め称えたい。
僕が王様だったら、カレーの美味さに爵位をあげちゃうね。伯爵くらいでちょうど良いかな。個人的に真ん中辺りが好きなのだ。中道と言うやつです。
アールは、元は伯爵という意味だったらしい。
だから、カレーは、アールカレー?
うん…ちょっとシックリこないかな。
今の話しは、無しで…モグモグ、ゴックン。
やっぱりカレーは辛いのが美味しい。
芋がゴロゴロしてて、牛肉の挽肉を入れて 隠し味にツユの元入れたら僕好みの味になります。
飲み物は、冷えた牛乳が飲みたい。
でも、流石に持って来ては無いだろうけど。
「お飲み物を、どうぞ。アールグレイ少尉。」
「ありがとう。ちょうど飲み物が欲しかったんだ。」
しかもグラスに入った冷えている牛乳でした。
なんて、気が利いている。誰?
受け取りざま、お礼を言いつつ顔をみる。
ニコリと笑ったショコラちゃんでした。
「いいえ、こちらこそ料理のご指導ありがとうございました。」
ショコラちゃんは、僕にキチンと対面して頭を下げてお礼を言いました。
しからば、僕も、スプーンとグラスを置いて、立ちあがり礼を返す。
「こちらこそ、どう致しまして。」
そして、魔法で隣りに椅子を作り、ショコラちゃんに勧めた。どーぞ、どーぞ。
僕自身はズボラだけど、礼儀正しい子は好き。
だって、見てるだけで、気分が晴れ晴れとして来ませんか?
僕がショコラちゃんに教えたのは、料理前の手洗いと、手を切らない包丁の使い方だけ。
あとはショコラちゃん達に指示してやってもらいました。
正に一を聞いて十を知るような優秀さで、見本を見せれば、直ぐ覚えてやっていただいたので、非常に楽でした。
食べながら、訓練方法について話したり、話題のデザートについて話したり、ラーメンについて…
いやいや、この子凄いよ。どんな話題にも付いてくるし。
どんだけ幅広い知識持ってるのさ。
僕なんか興味ある事さえ、浅薄な整理されてない知識しか持ち合わせしてないし、こちらが恥ずかしくなってしまうよ。
やっぱり貴族って凄いんだなぁ。
逆にショコラちゃんの興味あるものを聞いてみた。
だって僕ばかり話してるからね。
これも一つの礼儀だと思う。
すると、初めてショコラちゃんは言い淀んだ。
チラチラと僕を見る。
「そうですね。今、興味あるのは…ズバリ、レッドに相応しい実力を、どう付けるかですかね。」
ハラショーです。流石ショコラちゃん。
そこまで考えに至っているのであれば、近々身に着くに違いないですよ。
でも、そうですね。教えたり、お助けすることは難しいですけど、考えの参考になる一助くらいは、僕でも見せられますから、午後からは、そのつもりで見てて下さいね。
「はい、ジックリと見さして頂きます。」
うんうん…良いお返事です。
ショコラちゃんがレッドに上がって来るのが待ち遠しいです。そしたら僕達、対等の友達になりますよね。
ああ、これが幸せなのかなぁ。
何だか胸のうちが暖かくて、良い感じです。
無意識に笑ってしまう。
部下の前では、無表情に徹しなければならないのに…。
「あっ……。」
ショコラちゃんは、僕を見て、言葉にならない声を出して、真っ赤になってしまった。
どうしたの?もしかして具合悪い?超心配ですよ、僕。
思わず近づいて、オデコに手を当てる、熱無いよね。
「ひっ…。」
ますますショコラちゃんの様子がおかしい。
女の子同士だから、オデコ触っても支障ないよね。
「大丈夫?シッカリして。」耳元で囁く。
「あっ…もうダメ。」
ショコラちゃんは、一言言うと倒れそうになった。
「ブレイク!離れて。」
そこへエトワールが、突然現れ、僕とショコラちゃんの間に割り込んだ。
何故か気絶しかかっているショコラちゃんを、ダルジャンとアントワネットが抱きかかえ、介抱している。
え?
この後、エトワールから淑女のなんたるかにつき、わけの分からぬ説教を受けた。
要は、笑ってはならぬと言いたいらしい。
学生時代、同部屋の友達から言われた事を、思い出す。
で、でも、ショコラちゃん達も淑女だけど、結構微笑んでたよ。そ、それに、もうショコラちゃんは友達みたいなものだし…。
と、反論すると、それはそれ、これはこれと、又もわけの分からぬ説明をしだす。
君、本当は天才じゃなくて、頭わるいだろ。
とにかく、貴族様方は、あからさまな感情表現に慣れていないのかもしれない。
むっ、ならば、これならどうだ。
少しだけ、はにかみながら微笑んでみる。
「はぅっ…。」
今度は、エトワールが倒れ掛かった。
な、何故に…?