ダルジャン・ブルーと試練(前編)
アールグレイ少尉の終了宣言を聞いて、途端にズシリと身体が重く感じられた。認識したら、足腰が砕けるように力が入らなくなって座りこんでしまった。
私の名は、ダルジャン・ブルー・ダーマン・エペ。
護民の騎士を志し、ギルドレッド第一次試験に、今、合格した者です。
8名全員合格。
それが何より嬉しい。
やりましたわ。アントワネット。私達合格したのよ。
疲労は、今まで経験した事が無い程のもの…。
身体中が悲鳴を上げている。
今になって、自分自身の呼吸音がうるさい事に気がつきました。
ハッとして、周りを見渡す。皆は無事なのでしょうか…?
死屍累々のていを為していますけど、何とか大丈夫そうですね。
…良かったわ。
ホッと安心していると、ふとアールグレイ少尉と眼が合いました。
私を見ていた…何故?
目線が合ったのは一瞬、でも、その刹那に、少尉の目の中に何かがあり、私はそれを受け取った気がしました。
今のって何なのかしら…?
少尉が、模擬戦前の指示を出し、バスに向かって歩いて行ってしまった。その足取りは軽いように見える。
もしかして、少尉にとっては本当にウォーミングアップだったのですか?まさか、いや…まさか…。
模擬戦前に水分だけでも、取らなければ…と思い返す。
その時、ロッポ中尉が水缶を、持って来てくれたので、皆、飲む事が出来た。
でも中尉も私達と一緒に走っていたはずなのに、少尉といい、レッドにとっては、この程度の運動はあまり応えないのか…。掠れた声で、お礼を何とか言えた。
息を整える。
水分が身体を染み透るように巡っていくのが分かる。
あーーー ーー。
その後、身体を引き摺るようにして、バスへ武具を取りに行く。
あー、この時ばかりは、後衛や体術のみの者が羨ましいです。
バスに入ったら、上半身を肌けたアールグレイ少尉が立っていた。
タオルを首に掛けて、ペットボトルからストローをくわえて、片腕を腰に当て、美味しそうに飲んでいる。
少年のように無防備な身姿に目が引き寄せられた。
女性同士だから、恥ずかしがるべきではないけど、少尉の肌はきめ細かく、出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいる。滑らかで真白で艶めかしい。
何だか目にしてはいけないものを見たような気にさせる。
身体は少女なのにポーズは少年のようで、ギャップにドキドキする。
見つめていると、また、少尉と目が合った。
フッと笑った顔が、私より歳下で小さいにも関わらず、私よりも遥かに大人な気がして、いたたまれなく、私から目を逸らしてしまった。
失礼しますと声を掛けて、武具を急いで取り出すとバスを出た。
何あれ…?
先ほどの少尉の身姿を思い浮かべる。
顔が上気して赤くなるのが分かる。
少女なのに、とても色っぽかった。
…
いけません…いけません。
私ったら何を考えているのかしら。
皆んなが居る場所に戻り、少し回復したアントワネットに、一緒に取ってきた武具を手渡す。
「…どうしたの?ダルジャン、顔赤いよ。」
不思議そうにアントワネットが聞いてくる。
「…何でもありません。」と答えておく。
だって私にも、よく分かりませんから。