銃撃
弾痕が、ブスブスと車の天井に出来る。
それも…何発も。
天井が、現在進行形で、凹んでいきます。
これ…撃たれてます?
周囲の状況を把握する為、周りを見渡す。
道路は、夕方の帰宅時間で渋滞中…車では身動きがとれない。歩道も人で一杯で。
夜は、一部を除き真っ暗となる為、この時間は、帰宅を急ぐ人達で渋滞するのだ。
運転中の蒼星が、少佐に、「渋滞で前に進めません。」と言ったら、少佐が、「あちらに広い道があるではないか。」と歩道を指差していた。
マジか?!この少佐。
そのお言葉に、少佐のお顔を振り向いてしまった。
真面目な顔で冗談を言っているような顔ではない。
ヤバイ、この少佐、マジモンだ。
古今東西、似たような言葉を吐いた者は、何人も居るが、僕の知る限り、全員碌な死に方をしていない。
もっとも人はいつか死に行く者だけれども。
もしかして、今回、少佐に加担している僕って悪人側の方?
だとすると、正義側の主人公から滅ぼされかねない。
少佐のあまりの言葉に、流石に運転している蒼星も絶句して、躊躇している。
大丈夫、あなたは正常です。
しかし、このままの状況もまずい。
打開しなければ、包囲されて袋叩きの刑は、目に見えている。
まずは、情報収集。
僕は小さく呟く。
「search。」
索敵魔法の波紋を打ち、魔力の輪が広がっていく。
ん…感じた、パターン赤、一個中隊規模。
僕の顔色が変わるのが分かる。
マズイマズイマズイ!
きっと、さっきの弾痕は勇み足で、未熟者が撃ったに違いない。または降参勧告の威嚇?
「少佐、右前方地下鉄出入口。」
僕は、出入口へ向かうよう指し示す。
少佐に対し無礼は、承知の上、僕の命の尊さには代えられない。
少佐は間髪入れず、ドアを開けると同時に、令嬢を引っ張り、車から飛び出す。
何故か令嬢にずっと手をつながれてた僕も引っ張られる。
僕は、とっさに後方に防御壁と身体に防御膜を張った。
勘だ。
こういう時の勘には、逆らわない。
魔力の無駄使いとは、思わない。
張ったと同時に、何発か防御壁に当たる音が聞こえた。跳弾となりベクトルを変えて、どっかに飛んでいったと思う。
ひゅーー ドドドドドガガガがゴン!!
一瞬後に、先程とは比べることも出来ない程の強弾が、ガトリング弾の如く車を貫く。
全損です。
車は、穴だらけとなり、ガソリンに引火して爆発した。
おそらく鉄鋼弾を魔法の力を上乗せして飛ばしている。
敵は一個小30人、一人5発飛ばしたとして150発の鉄鋼弾の嵐だ。ひとたまりもない。
敵に未熟者がいなければ、僕ら終わってたよ。
運転席にいた蒼三さんは、間一髪で逃げたけど、何発か当たってた。動かない。運が良ければ助かるだろう。
助手席にいた蒼一さんは、初動が遅れ南無三である。
彼は位置も悪かったが、運も悪かった。
運も実力も、どっちも必要だ。
僕らは、ひとかたまりとなり、地下鉄の出入口に雪崩れ込む。
残りの護衛で、出入口を守るだろうが、時間稼ぎがせいぜいだろう。
少佐が走りながら、無線で応援を依頼していた。
どうやら、いくつも応援部隊を待機させてるようだ。
流石、少佐。
流石だけど、今回な依頼は、命がいくつあっても足りないような。
10日間分の報酬では、全く割りにあわない。