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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
147/615

鬼蜘蛛

 俺には、名前が無かった。

 気が付いた時には、独りぼっちだった。


 周りのモノを喰らう。

 生きる為だ。

 食わなけれ死ぬ。


 幸い、俺は周りのモノより強かった。

 俺は生き残った。




 何故、他人は自由に生きないのだろう?

 それが、子供の頃から不思議だった。


 俺は、自分のあるがままに生きる。

 食べたい時に、食べ、寝たい時に寝る。

 良いものを着たいし、欲しいものは手に入れたい。

 そうじゃないかぁ? そうだろう?

 

 ならば、何故、他人は、そうしないのか??

 不思議だったが、考えた末に分かった。

 閃いたのだ。


 …ああ、…分かったぜ。

 そうだ。世界は二つに分類されるんだ。


 俺か、俺じゃないかだ。


 これぞ、この世界の唯一の真理だと納得できた。

 この世界の最重要事項、この真理に比べたら、他の事は鼻糞にも等しい。


 つまり、この世界は、俺だけが価値があり、俺が満足すればよかろうな世界なのだ。


 なるほど。分かったぜ。

 だから、俺は、そんな生き方をしてきた。


 善だとか悪だとか意味があるのか。何故分けるのかも、分からない。

 俺が発見した真理の前では、まるで無価値だ


 俺は自由に生きる。俺が一番大事なのは俺だ。俺の意志が全てにおいて優先する。

 其処さえブレなければ、良い。


 暴力が有効であると分かった。よし。


 俺の周りに寄ってくるもの達がいる。鬱陶しいが、便利だ。

 存在だけは許してやる。


 更に他人が金を盲信してる事が分かった。まるで自分よりも金を大事にしてるようで、滑稽だが、利用できるな。

 金が便利であると分かったから、集めさせよう。


 俺の意志に、便利で有効なのは優遇する。

 逆は排除だ。

 俺以外のモノにはルールが必要だな。

 作ってみた。…有効だな。

 組織を作ってみた。…有効だ。なるほど。組織とは便利なものだ。

 力、金、ルール、組織、有効なモノを作る、集める。


 俺が思うことは、何でも叶った。


 ある時、俺と同じ事をやっている者がいる事に気づく。同類だ。

 だが、興味は無い。

 俺に逆らえば、喰らうだけの話しで、表面上は挨拶程度の付き合い。

 周りの奴らは、俺や同類の事を[蜘蛛]と呼んでいると知った。だが名前など、どうでもいい。

 世の中は、俺か俺以外に二分されている。

 唯一の真理。

 俺自身に固有名詞は、必要無い。

 だが、周りの奴らは、俺の事を[鬼蜘蛛]と呼んでいるらしい。



 …



 …飽きた。

 …つまらない。

 俺は世界に飽きた。




 ある時、偶に俺の願いが、滞る事が、ある事に気づいた。

 そして、命令が叶わない事が稀にある事の、先にある原因に興味を抱いた。

 

 調べさせた。

 

 面白い。面白い。

 俺に、真っ向から、抗う者がいるのが分かった。


 ある日、そいつを、あらゆる手段を使い、倒して、消滅させた。

 途端、素晴らしい満足感が、俺の身体中を駆け巡る。


 抗う者を、屈服させ、俺を憎んで死んでいく瞬間の素晴らしさは表現できない程の充足感がある。

 これだ。

 まるで、美食を食べ終えた満腹感。


 だが、満腹しても、しばらくすれば、腹が減ってしまう。

 ああ、…なんてことだ。

 よし。周りの奴らに、抗う者達候補の情報を集めさせよう。


 期待する。

 見れば、俺には抗う者が分かる。

 白黒とカラーの違いの様にハッキリと見えるのだ。


 こいつらには、俺と同じ位の意志がある。本物の意志が。

 俺と同じでありながら、非ざる者達だ。


 俺は舌舐めずりした。

 ああ、楽しみだ。


 早く情報を、持って来い。

 俺が、直接会いに行ってやろうではないか。

 

 


 

 


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