問答無用
僕は、今、内外で二重に追い詰められている。
外は、とりあえずは…保留かな。
アントワネットの斬撃を、成長した分、間合いを修正しつつ、避ける。
その速さと鋭さは、驚異的に伸びている。
凄い。
自分の心にダメージを負いながらも、心苦しい言葉を投げた甲斐がある。
でも、…それでも足りない。まだだ。
これでは、ダメだ。
曹長が目指すギルドのレッドの格付けは、貴族の騎士位と同格とされる。あの傲慢たる貴族が、渋々も自分らの仲間の最下位とはいえ、認めざるを得ない理由とは、その突き抜けた実力に裏打ちされてこそ。
実力の無いレッドなど、微塵程の価値もない。
アントワネットは、曹長としてならば、見合う実力なのかもしれない。
だが、貴族と対すれば、相手が慄くほどかと問われれば、NOだ。レッド一人が、捨て身になれば、対した貴族が滅ぶ程で無ければ。
アントワネットの斬撃を避けながらも、考えてみた。
其は何ぞと、禅僧の大悟に至る問答みたいな問いかけを、いきなりされても、僕は答えられない。
また、答えがあるのかも怪しい。
其とは、おそらく僕の事だろう。
何ぞとは、誰と聞いてるわけでは無いから、名前を答えても回答に値しない。と言うことか?
すると、何ぞとは、僕自身の役割、存在理由、又は、存在の在り方、生き方を問うているのかな。
そして、最大の謎は、問うているのは誰で、何故問うのかという点だ。
人の心に問いかける程の力があるもの…?
僕には、神様に接点は無い。
転生の際も、神様は出現しなかったしね。
他の転生者は、いざ知らず、こちとらモブ山モブ太郎と名乗って良い程のモブオブザモブです。又の名を人類の最大派閥、
庶民とも言う。
世界には、もしかしたら、人が神と呼んでる存在は居ないのかもしれない。天使の受付をかいくぐり、神様の部屋の扉を開けたら誰も居なかったパターンかも。
神様の存在は不明ですけど、悪魔はいた。
黒山羊様です。会っちゃったし。
…そう言えば、最近お祈りしていない。
この場を借りて、感謝の念を送っておく。
ナムナム…。
黒山羊様は、何の気紛れなのか、この世界を滅ぼさなかった。感謝、感謝と。
ですが、善悪関わらず人智を超えた偉大な存在は、遠くで有難く拝むような存在だと思うので、実際に会話するとか寿命が縮む思いです。
私の短い寿命の間には、二度と目見え無い事を切に願う。
言わば、富士山のような存在だ。
登山するにしても一度で十分でしょう。
問いかけの主は、確実に黒山羊様では無い。と思う。
彼の方は、聞くとしたら、もっとダイレクトに分かりやすく来ると思う。
だとしたら、神でも悪魔でも無いとしたら、問いかけの主は、僕自身と考えるに至る。
実際、僕の頭では他に思い当たる節が無いので、問いかけ主は僕自身(仮)としておこう。
ならば、何故、今、問いかけたのか?
今とは、僕が、勝つ事も負ける事も出来ない窮地であり、問いかけの意味とは、回答を見出せば解決するかもしれない僕の無意識からの救援なのか?
分からない。
分からないという事が、分かった。
これは、僕が何なのか考えるのが先決だ。と、取り敢えずの回答にならない結論を出す。
因みに、この考えている間も、アントワネットの斧の斬撃は、雨霰のように降っている。
防げる傘は、持っていない。