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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
144/615

問答

 其は何ぞ? 問う声がする。

 僕は、答える。僕は、アールグレイ。

 当然の回答であるからして。


 体調は、すこぶる好調であったのに。


 僕は、今、アントワネット曹長と戦っている。

 アントワネットの得物は、斧。

 柄の年気からして、長年使い込んでいる愛用の物に違いない。

 ただ、アントワネットの体格に応じてない、大きいものだ。

 そう、まるで体格の良い大男が使うような大きさのもの。


 僕の方は、無手だ。小手は着けてるけど、斧なんか受けたら、小手ごと潰れかねないので、気休めに等しい。

 刀は、ハクバ山探索行には持って来てはいたけど、どっちみちあんな薄い刃では、受けたら折れてしまう。

 よって、僕は無手を選んだ。


 これは、傲りでは無い。と思った。

 無手の僕と、得物を持ったアントワネットの間には、武器の有無など頓着しないほどの実力の開きがあるはずだった。


 アントワネットは、もし勝ったら、師に無礼な言動を吐いたことを土下座して謝り、以後、会った際は、自分に頭を垂れることを要求した。

 そして、もし負けたら逆に自分が、それをやる事を、師に宣誓してしまった。

 僕は、アントワネットの決闘の申し込みを、受けた。

 アントワネットの覚悟を見せられて、受けざるをえなかった。

 だけど、受けてから気づいた。

 プライドの高いアントワネットのことだから、もし負けたら、死を選ぶかもしれないと。

 そんなことは、絶対に嫌。

 負けられない。

 勝つことも出来ない。


 これって結構まずい状況だよね。

 精神的に四面楚歌状態。

 好調であった身体が、妙に重く感じる。

 まるで、周りの空気がコールタールにでもなったかのような。

 アントワネットは、背水の陣を敷いた。

 それが僕を、まさに今、追い詰めている。

 もしかして、僕、アントワネットの術中にはまってるの?


 斧が、轟音をたてて、目前を通過する。

 危ない、危ない。

 もし、斧が一発でも当たったならば、身体が小さくて軽い僕は、衝撃に耐えられまい。

 

 勝ってはいけない。負けてもいけない。

 いったい、どうすれば…。


 そんな時に、まるで心の奥底から、声が聞こえてきた。


 其は何ぞ?と。

 

 僕は、混乱した。危うく斧に当たりそうになるくらい。

 それは重々しい響く声でした。

 いったい誰?


 だから僕は、アールグレイと答えてみる。

 でも声の主は、納得してくれなかったみたい。

 何回も聞いてくるのだ。


 この問いは、今の僕の状況と、何か関係あるのかな。



 アントワネットは、鬼気迫る表情で、斧を振り回す。

 怒涛の攻めを避けてるうちに、僕は恐るべき事実に気がついた。

 斧が僕の服に掠っている。

 !

 アントワネットは、僕と闘いながら、確実に上達して来ている。

 それに対抗するには、僕自身も同様に上達するしかない。

 それ、今の僕にできるの?!


 其は何ぞ?


 また、聞こえた。

 いったい僕、何て答えたらよいの?

 


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