問答
其は何ぞ? 問う声がする。
僕は、答える。僕は、アールグレイ。
当然の回答であるからして。
体調は、すこぶる好調であったのに。
僕は、今、アントワネット曹長と戦っている。
アントワネットの得物は、斧。
柄の年気からして、長年使い込んでいる愛用の物に違いない。
ただ、アントワネットの体格に応じてない、大きいものだ。
そう、まるで体格の良い大男が使うような大きさのもの。
僕の方は、無手だ。小手は着けてるけど、斧なんか受けたら、小手ごと潰れかねないので、気休めに等しい。
刀は、ハクバ山探索行には持って来てはいたけど、どっちみちあんな薄い刃では、受けたら折れてしまう。
よって、僕は無手を選んだ。
これは、傲りでは無い。と思った。
無手の僕と、得物を持ったアントワネットの間には、武器の有無など頓着しないほどの実力の開きがあるはずだった。
アントワネットは、もし勝ったら、師に無礼な言動を吐いたことを土下座して謝り、以後、会った際は、自分に頭を垂れることを要求した。
そして、もし負けたら逆に自分が、それをやる事を、師に宣誓してしまった。
僕は、アントワネットの決闘の申し込みを、受けた。
アントワネットの覚悟を見せられて、受けざるをえなかった。
だけど、受けてから気づいた。
プライドの高いアントワネットのことだから、もし負けたら、死を選ぶかもしれないと。
そんなことは、絶対に嫌。
負けられない。
勝つことも出来ない。
これって結構まずい状況だよね。
精神的に四面楚歌状態。
好調であった身体が、妙に重く感じる。
まるで、周りの空気がコールタールにでもなったかのような。
アントワネットは、背水の陣を敷いた。
それが僕を、まさに今、追い詰めている。
もしかして、僕、アントワネットの術中にはまってるの?
斧が、轟音をたてて、目前を通過する。
危ない、危ない。
もし、斧が一発でも当たったならば、身体が小さくて軽い僕は、衝撃に耐えられまい。
勝ってはいけない。負けてもいけない。
いったい、どうすれば…。
そんな時に、まるで心の奥底から、声が聞こえてきた。
其は何ぞ?と。
僕は、混乱した。危うく斧に当たりそうになるくらい。
それは重々しい響く声でした。
いったい誰?
だから僕は、アールグレイと答えてみる。
でも声の主は、納得してくれなかったみたい。
何回も聞いてくるのだ。
この問いは、今の僕の状況と、何か関係あるのかな。
アントワネットは、鬼気迫る表情で、斧を振り回す。
怒涛の攻めを避けてるうちに、僕は恐るべき事実に気がついた。
斧が僕の服に掠っている。
!
アントワネットは、僕と闘いながら、確実に上達して来ている。
それに対抗するには、僕自身も同様に上達するしかない。
それ、今の僕にできるの?!
其は何ぞ?
また、聞こえた。
いったい僕、何て答えたらよいの?