ブラッディマリー(中編)
熱が引いた朝、起きると、私の頭の中は一変していた。
ああ、私はなんて馬鹿な子だったのだろう。
初めて自分自身を俯瞰して見る事が出来た。
恥ずかしい、穴があったら入りたいほど。
侍女にも、改めて謝った。
彼女の名前は、テトラ。
私は、今まで世話をしてくれてる人の名前も知ろうとはしなかった。とても失礼な事だと今では分かる。
よく見ると巻き毛の金髪が似合う美人、ちょっと猫っぽい。
私とは5歳差の13歳。
当時の私から見たらお姉さんだけど、15歳が成人だから、まだ大人になり掛けの子供と言える歳だ。
テトラの両親が事故で亡くなり、孤児になったテトラを曾祖父が我が家に連れて来たという。
思い返してみれば、テトラには本当に世話になった。
こしゃまっくれた嫌な子供であった私を最後まで真摯に応対してくれたのは彼女だけだった。
彼女だけは信用できる。
子供心に、そう思った。
生まれ変わったと言われるほど、周りへの態度を変えた私だけど、曾祖父に勝ちたい思いは変わらなかった。
だが、テトラが説明してくれたギルドのブルーとは、人間を越えた化け物である武力の持ち主である。
年齢的に衰えてるのは生物であるから間違いはなかろうが、それでもブルーのトップクラスの現役である。
どうやって勝つというのか。
分からない。
悩んでいた私に、テトラがアドバイスをしてくれた。
「お嬢様、大昔の諺に、虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うものがあります。ルドルフ様に取り入って弟子入りしちゃえば良いのですよ。強くても男と言うものは可愛い女の子には弱いのです。お嬢様が可愛くお願いすればきっと頷いてくれます。そして、利用するだけ利用して技能を修得したら逆襲すれば良いのですよ。フフフッ。実は私もルドルフ様には、一つ恨みがございまして、ご協力しますわ。」
なんてことだ。
テトラが、こんな事を言うなんて。
採用です。テトラ。
テトラは見た目と違って、結構逞しかった。
私は、早速曾祖父に弟子入りを願った。
可愛いくお願いしたが、「気持ち悪いから止めろ。」と言われた。
なんたる事、可愛い曾孫がお願いしてると言うのに。
仕方が無い。
テトラから教えられた、失敗した時の第二作戦に移行する。
「もし弟子入りさせてくれなかったら、剛腕ルドルフはケツの穴の小さい玉無し野郎と歌にして街中で毎日歌うわ。」
意味はよく分からなかったけど、「もし断られたら、実行してください。」と、テトラと約束したので、断らないで欲しいと切に願った。
意味は分からないけど、脅迫するような内容なのだから碌な意味ではないだろう。
それを街中で、毎日歌うのは流石にゲンナリしてしまう。
でも約束した。約束は守らないといけない。
曾祖父は、最初ギョッとした顔をしたが、逆に追及されて、テトラとの約束までお話しした。
テトラからは話すなと言われてないし。
話してみて分かったけど、テトラはかなり頭が良いと分かった。だから、そういう事なんだろう。
曾祖父は、最後まで話しを聞くと、天を仰いで嘆息すると、「テトラめ、…分かった。」と返答した。
勝った、と思った。やった!テトラ凄い。
だが、条件を付けられた。
弟子入りしたからには、師匠と呼ぶこと。
師が命じた事は、絶対であること。
破った場合は、破門であること。
私は、全て了承した。
望む所である。
修行は、辛かった。
曾祖父は、厳しかった。手心はまるで無し。
曾祖父の、いつでも直球の言葉には、直球で返さなくてはならない。嘘、誤魔化しなどした際はぶん殴られた。
酷い、非道い、小さい女の子にすることか。
テトラの励ましがなければ、持たなかったかもしれない。