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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
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ブラッディマリー(前編)

 私の名はマリー・アントワネット・ディスティルリー・エペ。

 栄えあるエペ家一門に連なるディスティルリー・エペ家の長女です。

 伯爵家の遅くに生まれた一粒種。

 祖父母も父母も、私が生まれて、後継が出来たと大層喜ばれた。

 花よ蝶よと大切に育てられ、私は我儘し放題で育った。


 だから、私が願ったことは大抵かなった。

 無茶な願いも、かなってしまった。

 このまま育っていれば、私はたいそう嫌な人間になったに違い無い。何しろ叱る人間がいない。

 そんな私を叱ってくれた人がいた。

 私の母方の曾祖父である。

 それが私のファーストインパクトである。


 曾祖父は、大層高齢なはずであった。

 だが見た目の年齢は、せいぜい50歳くらい、体格が頑健で背が低い、髭を無造作に伸ばしている。

 私や母とは全く違う見た目だ。同じ血筋とは思えない。

 彼は私を一目見るなり、こう言った。

 「なんじゃ、お前、つまらんのう。」

 なんたる言い草、伯爵家の跡取りたる私に対し、なんて失礼な。

 私は、激昂し、彼に詰め寄った。

 癇癪を爆発させたとも言う。

 「なら、お前さんに何が出来る。はぁーガッカリガッカリ、わしの曾孫とは思えんわい。」

 曾孫?この時私は思い出した。お母様が今日、お祖父様が来ると言っていたのを。

 彼は、私に会う度に、つまらん、つまらんと溜め息をつく。


 そればかりか侍女を叱りつけていた私に向かって、

 「性格ブス。はー、ガッカリガッカリ、残念女。」

などと、通り過ぎながら喋り散らす。

 その言葉に侍女が、プッと笑ったのを耳にした。


 面白くない。全く面白くない。

 私に向かって、こんな失礼な、無礼なことを言う者など、今まで一人としていなかった。

 私達、ディスティルリー・エペ一族とは似ても似つかない風貌、失礼千万な物言い…私は両親に言いつけた。

 でも両親は、困った顔をして何もしてくれなかった。


 ここで、私は初めて考えた。

 今までは両親に言いつけるだけで、何もかもが、かなった。

 曾祖父は、私が初めて会った壁であり、敵であり、異物であったのだ。

 両親に出来なければ、自分自身でするしかない。


 私は曾祖父に勝負を挑んだ。

 私に会う度、つまらない表情をしていた彼が、初めてニヤリと笑った。

 完敗だった。不意を突き 武器を使ったにも関わらず、私は老人一人にすら敵う事は無かった。

 後から考えれば、不意を突くのに掛け声を掛けたのは不味かった。

 「衆に頼まず、わしに単独で勝負する潔さは良し。」と高笑いする曾祖父が憎らしく、泣いて帰った。

 それから会うたびに勝負を挑んだが惨敗であった。


 ここで、私は考えた。

 体格が良いとは言え、相手は棺桶に片足を突っ込んだお年寄りの老人だ。何故に勝てないのであろう。

 分からない。

 分からない時は誰かに聞くが良いと聞いたことがある。


 以前、叱りつけた侍女に聞いた。

 彼女に対しては、あれから格好がつかないので、以後あのような事はしていない。彼女の方も何故だか私に対し親しいような気がするから聞いてみた。

 「お嬢様は、あの方をご存知ですか?」

 洗濯物を干す手を止めずに彼女は逆に聞いてきた。

 全く主筋の者に対して、顔さえ向けずに逆に質問してくるとはなっていない。

 だけど、今は答えが欲しい。

 ここで、些細な事に目くじらを立てても益無い事は私でも分かった。

 私は素直に首を振った。

 「口の悪い、棺桶に片足突っ込んだ老人よ、私の曾祖父らしいわ。」

 侍女は、笑いながら、説明してくれた。

 「あの方は、確かにお嬢様の曾祖父様ですが、一般的には、剛腕ルドルフ、戦斧のルドルフで知られてますわ。ギルドのブルー、実力はレッドクラスと言われている強者です。お嬢様が何回挑んでも勝つことは無理ですよ。」

 彼女は、それからギルドについてと、曾祖父の逸話について話してくれた。

 話す間も、仕事の手は止めない。


 なんてこった。

 これでは到底敵うはずはない。

 彼女の語った曾祖父の話しは、到底信じがたい人間ならあり得ないだろう話しばかりだ。

 だが、彼女は本当の話しだと言う。


 世の中は、私が思っているような小さな世界では無かった。

 ショックを受けた私は、彼女の呼び掛けに応じず、部屋に帰って熱を出した。


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