トライ
「アッサム曹長、あなたは弱いよ。断言できる。何故だか分かる?」
真っ直ぐにアッサム曹長を見る。
むっ、何故視線を逸らすか。…いつも僕を見てるくせに。
見られていると、何となく分かる。
しかも、何処を見てるのかも分かるのだ。
はたして、これは僕だけなんだろうか。
他の人に聞いた事が無いから、分からない。
エトワールに聞いてみようか。…いやいや、きっとあ奴は疎いと思う。
今度、ショコラちゃんに、聞いてみよう。
しばらく待っていたが答えはなかった。
よって、アッサム曹長に代わって、僕が答える。
「あなたの体術は、高水準の域なのかも知れない。でも、それだけ。その程度で僕に勝てると思う?僕が普通に歩くだけで轢かれてしまう程度が、今のあなたの実力。戦う相手の戦闘力も把握しようとせず、漫然と自己の実力を過信し、何の術策も考えず、突進する事を選んでしまった。その慢心が、貴方の本当の敗因。あなたは今、何の試行錯誤もせずに小さい自分に満足しきっている。この場合の停滞は、後退と同じ。」
僕は、アッサム曹長を見上げて、右手の人差し指を彼の胸に突き付けた。
アッサム曹長は、一瞬ハッとした顔をしたが、僕の言葉は彼の心に届いただろうか。
カツカツと足音を立てて歩く。
ショコラちゃんの怯えた顔が見えた。
ウッ、僕の心が痛い。罪悪感が半端無いです。
何とか元気づけてあげたい。どうしようか。
「ショコラ曹長、君の戦闘の型は完成している。恐らく血反吐を吐くほど苦労して確立したスタイルなのでしょう?だけど、防御特化には、まだ先がある。僕の戦い方を見てて。あなたなら出来る。誰よりも先に僕に向かって来たあなたなら。」
GOGOだよ。ショコラちゃん。
君なら出来る。信じている。
思わずショコラちゃんの手をギュと握る。
ショコラちゃんの強張った顔が、蕩けるような表情になる。
僕の気持ち伝わったかしら。
だとしたら、嬉しい。
うんうん、やっぱり、僕には鬼軍曹役は、性に合わないや。
ムムッ、皆んなが僕を見ている…感じる。
ハッ…いけない。思わず微笑んでしまった顔の表情を元に戻す。
ショコラちゃんを励ます際、思わず二ヘラッて笑っちゃったよ。
クールだ。僕はクール。
自分に言い聞かせる。
「アントワネット曹長。」
「はい!」
この子は、おそらく何でも出来る。
自分に合わない斧を武器にしているのは、どんな武器でも扱える自信の表れだ。
何故士官学校に行かなかったのが不思議なくらいだ。
「君が、おそらくこの中で一番弱い。序列最下位だ。分かってる?」
僕の言葉を聞いたアントワネットのキレイな表情が、一瞬にして鬼の面に変わる。…まるで般若のようだ。
女の子が、そんな顔してはいけないよ。
この子は、プライドがおそろしく高い。
自信家を通り越して傲慢。
それが、今、悪い方に影響している。
今にも、飛び掛からんばかりで、握った拳がワナワナと震えている。
でも、僕に敵わないことは、骨身にしみているのだろう。
飛び掛かって来ない分別はあるらしい。
その下らないプライドを一度粉砕してやらねばならない。
どうしたものか。