模擬戦(余)
「いったい、あんたは何やってるの!」
エトワールから、こっぴどく怒られた。
何故だ?解せぬ。
ロッポ中尉が、まあまあと、取りなしてくれる。
あー、でもでも、僕悪くないもん。ねー、そうだよね。
僕、一所懸命にやったよ。見てたでしょ。
ちゃんと戦って、薙ぎ倒したよ。完全勝利だよ。
僕、褒めて伸びるタイプだから。
ねえねぇ、褒めて褒めて。
上目遣いで、エトワールを見てみる。
「うっ…だ、駄目よ。あれじゃ、全然データ取れないじゃない。倒せば良いわけではないの。」
ごもっともです。
でも、あまりの弱さに、最後にはつまらなくなってしまったのだ。気が乗らないとゆう奴です。
弱いなら、弱いなりに、キラリと光るものを見して欲しいと思うのは贅沢だろうか。
弱っちーのに、僕強いだろう的な態度を、取られて、少しイラッとした事も否めない。反省、反省。
僕、試験官では無いけど、ギリギリ及第点なのは、即時に攻撃してきた3人だけである。
判断が早いのは、何事に於いても有望です。
精神論では無いけど、常在戦場の心得があるか、切り替えが早いのかな。才能があるのは羨ましい。
他の5人は、凡人で、僕と一緒だね。
地道に修練を積むしかないない。
僕が見たかったのは、敢えて言うならば、新しきことに挑戦する開拓者精神だ。
いつまでも自分の狭い領域内で吼えてるだけでは、何も変わらない。
勇気だ。未知なる領域は常に危険が伴う。
一歩踏み込む勇気が必要なのだ。
冒険者には、必須の徳であると言える。
勇気が無ければ、造るしか無い。己の意志で身に着けるしか無い。
さあ、修練だよ。今からだ。
「今度は、長く、色々、試してちょうだい。倒す事が目的では無いからね。まずはデータ収集だから。」
エトワールから釘を刺される。
うんうん…分かってるよ。
僕も反省してるから、大丈夫。大丈夫。
安心して見てて頂戴。
ブルー達を整列させる。
皆んな、足腰がガタガタのブルブルだ。
ふむふむ…基礎がまるで足りてない。
この子達、ちゃんと認識してるのかしら。
正の憤りも、負の憤りも、一切合切を進む力にして、飛ばなければならない。
整列した前を、…台詞を考えながら歩く。
「…アッサム曹長。」
「はい!」
「アッサム家には、腰抜けかホモしか居ないと聞く…お前はどっちだ、…腰抜けか?」
「いいえ、違います。」アッサム曹長の顔面が怒りと羞恥に赤く染まる。
よしよし、想定内です。でも、キャン殿下、御免なさいと心の中で詫びておく。
「なら、ホモだな。」軽蔑した表情を、僕はアッサム曹長に向ける。
「ち、違います。自分は…決してホモではありません。信じてください。」俯いてブルブル震えている。
「あっ、聞こえないなぁ。…お前達に言っておく。上官の命令は、常に了解、質問には、常に、はいしかない。分かったか?」
「はい!」皆が一斉に答える。
「さて、アッサム曹長、貴様は腰抜けか?」
「… …はい。」アッサム曹長は小さく答えた。
「あー、聞こえんなぁ。貴様は腰抜けかと、僕は聞いている。」
うんうん、…我ながら意地悪そうな声だ。
「はい!自分は腰抜けです。」
「ああ、そうか、貴様は腰抜けか。ようやく認識してくれたか。…そうだ。貴様らは、どいつもこいつも、一歩も前に踏み出す勇気の無い腰抜けどもだ。」
僕は、整列した皆の前を、ゆっくりと歩きながら、大声で宣言した。
うんうん…何だか僕、ちょっと楽しくなって来ちゃった。
いやいや…これは、この子達の為だから。
この子達のレベルでは、一般のブルーの水準にも劣るかもしれない。
しかも、それが分かってないようだ。良くて軍曹レベルだ。
自分が優秀だと、強いと勘違いするなんて、甚だ恥ずかしい事に違いない。黒歴史だよ。
ここで、自分が弱い事を、ちゃんと認識させてあげなくては。
僕って、なんて親切なんだろう。
きっと、後で皆んな、僕に感謝するよね。