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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
134/615

模擬戦(急)

 今まで、戦って来たのは、全員前衛です。


 振り返った僕の前に、残りの者達の姿が眼に入る。

 わざと、体力を回復させる為、立たなかった者達。

 中衛、後衛の者たちかな。

 眼は死んでない。

 フフッ…良きかな。


 一人五体投地してる者がいるけど。

 よく分からないので、取り敢えず保留。


 「面倒です。全員掛かって来なさい。」

 右手の人差し指を立てて、指招きしてみたりする。



 途端に、土から冷気が立ち上る。バキバキと霜柱が立つ音が聞こえた。

 僕の眼の焦点がウバ君を捉える。…術の源は彼だ。

 お互いの眼が合う。

 [瞬動]、地球を蹴り回す感覚で、ウバ君の前に一歩で降りたつ。数十歩の距離を一歩で渡る事から魔術師殺しと言われる技だ。 

 ウバ君が、驚愕の顔で、目の前の僕を見つめる。

 瞬時、ハッとなり次の魔術を紡ぎ出そうと、地から離した掌の指先が緻密に動き出そ…。

 「遅い。」

 僕は、呟くと、ウバ君の指先を顎ごと、左脚で天空方向へ蹴り上げた。

 蹴り上げた左脚を瞬時に戻すと反転しながら、制空圏構築。

 双剣を切り付けて来た、レイ・ムーラン曹長と対峙。

 16連撃を火手で全て撃破しながら、足を一歩踏み締めて、ウバ君が描いた大地の魔法陣に魔力を注入して起動。

 魔法陣が青白く光り、冷気を噴き出す。

 辺りの地面が凍り、レイ・ムーラン曹長と僕の足が氷結の蔦に捕らわれた。

 その場を動かないガチンコ勝負だ。

 僕の両腕が左右対象に円を描く。

 相手も御同様。


 …見切った。練度が足りん。


 僕は、相手の制空圏に無造作に両手を差し込みと、両手を瞬時に掴み、そのまま握り絞った。

 声無き悲鳴をあげ、双剣を取り落とすムーラン曹長。

 僕は、凍りの蔦をバリバリと破り、右足を一歩踏み込むと、

力を入れて両手ごとムーラン曹長を、天空へ投げ飛ばした。

 退場である。

 残りは3人。



 呟いてる子がいる。

 ブツブツと呟いている

 「ああ、僕は何て付いてない。か弱い僕がこんな僻地に連れられて、アールグレイの色香に、惑わされた。止めておけば良かった。止めておけば良かった。後ろにいたら良い匂いがして付いて行ってしまった。体力の限界だ。もう駄目だ。ああ、あのお尻を、ずっと見てたら走りきってしまった。ああ僕のバカバカ。見てるだけで何も出来ないのに。ダージリンに騙されてた。チャンスがあるってニッコリ笑って。やられた。期待させといて、利用されるだけなんだ。どうせまた、僕は振られてしまう。ああ、もう嫌だ。僕は被害者、ああ、帰りたい、帰りたい、布団を被った眠りたい。ああ、仕事したくないでござる。仕事したくないでござる。ああ、嫌だ嫌だ、疲れた。眼を開けたら、夢なんだ、全てが夢なんだ…。」

 五体投地の子だ。

 話しの内容が聞くに絶えない…話しに出てくるアールグレイって僕の事?…人聞きの悪い、僕、惑わしてないよ。


 「…エロヒムエッサイム、全ての厄災は彼の者に降り注ぐべし。」

 五体投地から、両手を天に突き出し、剣呑な言葉を吐き出している。

 金髪の小柄な子。

 フォーチュン曹長だ。

 黒い波動が、煙みたいにフォーチュン曹長の周りに漂い始めている。


 これって、もしかして呪いですか?

 話しには聞いたことありますけど、使い手は、初めて見ましたよ。

 呪いは、地味に効果的だけど、効果が現れるのに時間がかかるはずで、戦闘向きでは無い。

 呪っている間は、誰があなたを守るんですか?

と、思ってたら、左横から衝撃がきた。

 フォーチュン君の、パフォーマンスに眼と耳を奪われてました。

 もしかして、計算ずぐですか。…やりますね。


 衝撃は、寸前で左手で防ぐ。

 攻撃して来たのは、クール・アッサム曹長。

 僕が気配に気づくや否や、上段右回し蹴りを、瞬時に放っている。

 早い。

 不断の成果の賜物だと分かる。

 一朝一夕で、こんな蹴りは出来ない。…本物の蹴りだ。


 ハッキリ言って、本物の蹴りを、まともに受けたら吹っ飛んでしまう。下手な受け方したら骨折する。


 それぐらい脚の力は大きい。


 よって、受ける場合は、後ろに避けるのでは無く、逆に前へ出て、受けた左手は頭に着けてブレないようにする。

 左腕だけでは、衝撃を受けきれないからだ。

 もちろん当たらない事が一番であるが。


 衝撃が来た。

 「キャアッ…。」

 すんでで受けたけど、ダメージは大きい。思わず声が出る。

 次いで、右方から剣呑な気配を感じる。

 濃厚な死の匂いだ。


 これは、いけない。…模擬戦なのに、このままでは、この子達を殺してしまうかもしれない。…一息、吐き出す。

 「僕を見て。」そっと呟く。


 煌めくほどに、明晰に周囲が手に取るように分かり出した。

 沸々と身体の深奥からエナジーが湧き出して身体中に広がって行く。

 知覚の拡大、焦点の自在、高速解析、生命力を毛細血管の隅々まで流す。

 本気は出さない…出力30%程度。

 僕は、使い辛い急速覚醒言語の劣化版を開発していた。

 それがこれ。


 戦いの場では、初お見前です。

 使い勝手は、どうだろうか。

 見える…知覚情報が脳に集約して、殺気の正体を画像にしてくれた。

 マリー・アントワネット曹長だ。

 斧を持って振りかぶっている。しかも笑っている。

 衝撃の脳内画像に、内心逃げ出したくなる。

 あわわ…怖すぎる。

 

 アッサム曹長の蹴りを、中途から身体全体を使って受け流した先で、アントワネット曹長に対面、振り下ろし途中の斧の横に手を合わせて受け流す。

 ちなみにアントワネットは、本当に笑ってました。


 あなた、前衛だったんですね…。

 人を外見で、判断してはいけない。


 

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