鬼軍曹
まさか、この僕が教官紛いの事をするとは。
発起人は、僕だけど、プランは無い。
あるわけが無い。
だって、今思いついたんだもの。
だけど、感慨一入だなぁ。
今までは、自分を鍛えることだけ考えて来た。
だって、自分が変えることが出来るのは、自分だけと言う常識があるから。この絶対の法則は他人にも当然適用される。
結局、本人のやる気次第だよね。
他人が提供できるのは、切っ掛けを作ってあげる事ぐらいだよ。
そっかぁ…切っ掛けかぁ。
前世の経験でも、教官は無い。
人を教え導くのは、ひよどりを、こっちだよと手を叩きながら、誘導するに似てる。
ピヨピヨと鳴きながら、付いてくる子は良いが、あさっての方向へ勝手に行く子がいる。…必ずいる。
僕が、幾ら手を叩こうが関係無しに我が道を行く子が。
何だろうね…実に多様で、面白いよね。
…で、結局、僕が出来る事は、見守ることしか出来ません。
だって言う事、聞かないもの。
そんな子は、ある日、フッと居なくなる。自然淘汰されたのだろう。
或いは、此処とは違う世間の片隅で生き残っているかもしれない。
そうなると、もう神様に祈るしかない。
あの子が、生き残る道に気付きますようにと。
自己の命運を自分で決める事ができるのは、生まれは如何ともし難く、頭の良さでも無く、実力でも、腕力でも、努力でも、システムでも無く、小さな気付きと実行する意志だとおもう。
そこに繋がるのは、観察と疑問と探究心で、更に、それに繋がる最初の一歩とは、心のベクトル。
好奇心、執着心とでも言い換えればよいのか。
自分で決めて、自分で実行する。
至る理屈とか、勝敗とか、成功失敗さえ、どうでもよい。
まあ、死んだらダメだけど。
自分で決めて、自分で実行する…そこに生きてる意味がある。
うん…大事な事だから2度言いました。
一つしか無い、かけがえない自分の人生を、強制されて、やらされるなんて、真っ平御免だよね?
だから、僕がする事は、教えるのでは無い。
切っ掛けを作ってやるだけだ。
舵取りは本人にさせる。
何となく基本方針は決まった。
僕は、教えない。何かしら切っ掛けを作ってやるだけ。
そう思うと、気分が楽になった。
こいつらに、無数の疑問を投げかけてやるぞ。自分で解くが良いわ。わははは…、なんか楽しくなってきた。
では、具体的に、この子達に切っ掛けを与え、誘導するのに、何か材料はないだろうか?
自己の記憶にsearchだ。目を瞑り、記憶を精査する。
…
前世で見た、ある映画がヒットした。
鬼軍曹が士官候補生をしごいていく映画だ。
確か、タイトルは、愛とか青春とか言ってたような気がするよ。
うんうん…青春だよね、そうだよね。
世間は理不尽で、社会は不公平で、大人は何も分かってくれないもんなんだ。
僕が与える切っ掛けは、試練だよ。薪の上に三年寝起きするような試練だよ。
思考錯誤する未熟な精神ならではの心の揺らぎ…仲間との愛と友情が試練を乗り越えていく糧になる。
それこそが青春。
僕自身は、今まで、やるべき事を淡々とこなすだけであったので、青春の煌めきとは無縁であった。
だから、僕も、この子達を通して青春を追体験するのだ。
前世の僕は、若い頃から何だか老成していて冷めた精神状態だったので、青春を体験した記憶が無い。
…前世の僕の馬鹿。
僕は、前世の僕とは明らかに違うけど、記憶がある以上、多分に影響を受けてしまったと思う。
しかも、大人の記憶があるせいで、同年代の子達が、皆子供に見えてしまう。
こんな、精神状態で、周りの男の子と、色恋できるわけがない。
これは、前世記憶の弊害ですよ。
こんなデメリットがあるとはね。
しかしながら…これはチャンスです。
女の子達の直近に居て、愛と青春を擬似体験するのだ。
山は、気分を開放的にさせるのです。
きっと上手く行く事でしょう。
だけど、きょうびの子供達は、か弱いから、試練は優しく軽めにしといた方がいいのかも。
皆さん、試練(微小)な感じで、よろしいでしょうか?