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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
122/615

惑う

 アリ・ロッポ中尉が言った。

 「11人いる!」


 最初、何が問題なのか分からなかった。

 その内、ショコラちゃんが、アッと声を上げた。

 11人いて何が問題?多い分には良いじゃない。


 え?多い…1人多いぞ。依頼条件人数は1個分隊10人だ。

 でも、エトワールは依頼人だから別枠じゃないの?

 僕は、エトワールを見る。

 察したかの様に、首を振る。


 え!てっきり僕、エトワールは別枠だとばかり思っていた。

 君、正規のメンバーだったの?

 そっちの方が驚きだけど、今問題なのは、1人多い事だ。

 …あり得ない。

 これは、色々とまずい。


 人事面で1人多いとは、正体不明の者が紛れている事に他ならない。大問題だ。

 人事の間違いだったとしても、金銭の問題が残る。

 余計な1人分の報酬を誰が払うのか。誰?

 少なくとも僕では無い。

 この責任の所在は何処にいくのか、いったい誰が取るのか?



 今持っている情報で、事実確認するしかない。

 「密集!」

 命令して、将校を中心に密集隊形を取らせる。

 情報の共有化の為だ。


 時系列に沿って調べるのが分かり安い。

 まずはエトワールだ。

 「エトワール少尉、依頼人は貴女だと聞いた。たしかか?」

 「その通りよ。ハクバ山の地図作りは人類の版図を広げるのに役立つの。まずは調査として、第一陣、一個分隊10人で依頼し契約したわ。経費節約の為に私が加わることは契約書にも明記されている。連絡事項にも記載されている。私は契約書通り、10人分の報酬と必要経費しか払わないわよ。」

 エトワールが立板に水の如く、説明していく。


 次、指揮官の認識及び契約した10人の名前と、今、実際の人間を結びつけての確認だ。

 「アリ・ロッポ中尉殿、あなたを含め契約を受注したのは10人で間違いないか。依頼を受けた契約者を確認しましょう。」

 「10人で間違いない。口頭連絡でも、そう聞いている。但し、私自身の契約書は端末から出せるが、今回他の名簿が手違いか何かで、原因不明だが来ておらん。出発する際、10人は居たので気にしなかった。遅刻、病気、事故で少ない事は、ごくたまにあるが、多い事など考えもしなかったわい。」

 何てこった。僕も10人確実にいるから気にしなかった。


 …失敗した。


 前世でも、確認の大切さは分かっていたはずなのに、またも僕は失敗してしまった。

 もし…2個分隊以上だったら、各分隊ごとに人員確認をしていたから、直ぐに分かった事だろう。 

 逆に1個分隊以下の少人数だったら集まった時に一目で分かったことだろう。

 10人は、確認しなければならない人数だったと今、分かった。内心忸怩たる思いだ。

 これでは、神話のエピメテウスを笑えない。


 「ロッポ中尉、全員の契約書を確認してから、本部に連絡して確認を取りましょう。」

 僕は、中尉に意見を具申した。

 現場で不明な点を推論しても、不毛である。

 本部に連絡して確認してもらうのが確実だ。

 「いや、それがだな…うーん。出来ないのだ。禁止されている。」

 禁止?…なんだそれは。

 そんな話し聞いたこともない。

 中尉に、追及しようとした時、エトワールが口を挟んで来た。

 「アールグレイ少尉、今回の依頼は訓練も兼ねてるの。ギルドの人事部も予算を出してるのよ。」


 … … …!

 全員ブルーの三つ星、豊富な予算、人事部の介入、そして、…エトワール。

 僕の頭の中で、全てが繋がった。


 この女、…やりやがった。

 僕は、学生時代のエトワールの得意技を思い出していた。

 エトワールは複数のピースを組み合わせて、結果として複数の結果を出すことを好んだ。一石二鳥の複雑化版だ。

 まさに天才の所業。


 もちろん、これは机上の空論に近い。

 エトワールの計画を成立させるには、理想と現実を調整できる優れた実務家が必要不可欠だ。

 僕が優れているかどうかは不問に伏すが、幸いなのか前世から経験だけは豊富で……ああ、頭が痛い。

 巻き込まれる立場としては、「おまえ、もう良い加減にしろよ。」と言いたい。本当だよ。まったく。

 首をギギギとゆっくりと回し、エトワールの方に顔を向ける。


 僕の顔を見たエトワールが後ずさる。

 「私は、言ったのよ。アルには話しといた方が良いって。」

 「…何を?」

 聞いたけど、エトワールは黙ってしまった。

 答えられまい。


 僕は、中尉を振り向いて再度、意見を具申した。

 「全員の契約書を、僕と中尉の複数の目で確認しましょう。それから、どうするか決めましょう。」

 中尉は、無言で頷いた。



 …




 結論から言うと、全員契約書は本物だった。


 単純に間違いだったら良いと思うが、まず有り得ない。

 明らかに故意であると考えた方が良い。

 だが、間違いであると言う事を加味して、方針を決定しなければならない。

 何故なら、試されているからだ。


 エトワールは試す側の人間だ。中尉も、ある程度、協力を要請されていると…思う。推論とも言えない…感だ。


 僕は、部隊に休憩の命令を出し、一時解散させると、僕ら将校3人で集まった。

 「エトワール、今から僕は仮説を話す。君の立場上、回答は多分出来ないかもしれないから、話しだけ聞いて欲しい。質問は勝手にするけど、立場上、答えることができなければ答えなくて構わない。良いかな?」

 エトワールは、コクリと頷いた。

 少なくとも、最低限は協力してくれるらしい。

 うーん、悪気は無いんだよね。



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