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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
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イレブン

 熊さんは、気絶から目を覚ますと、一目散で山の方へ逃げて行った。

 きっと見た目で人を判断してはいけないと良い教訓になったでしょう。

 うんうん…僕、良いことしたなぁ。


 だが、熊さん、二度目は無いと心得たまえ。

 初対面で、いきなり抱きつこうとするとは不心得者です。

 もし、また同じ事したならば熊鍋も良いかもしれませんね。



 そして、不心得者が、もう一人いました。

 結婚前の僕の身体を、まるで触るかのように上から下までジロジロ見てきた変態さんです。

 その名は、クール・アッサム曹長。

 「アッサム曹長、そういうふうに女性の身体を不躾にジロジロ見るのは感心しません。」


 そりゃ若いから、女の子の身体に興味津々なのは、僕も前世の記憶があるから分かります。理解してます。

 でもダメです。面と向かって堂々と見られたら恥ずかしいし、嫌です。


 説教です。


 アッサム君は、無造作に赤い髪を掻き上げ、「いや、それは…。」だの、「いや、違うんです。」とか、あたふたしながら言い訳しようとしている。


 むむむっ、僕は、嘘は嫌いです。

 見たいのならば正直に見たいと言えばいいのです。

 さすれば、エトワールに話しを振るのに。

 見苦しく言い訳を、あれこれ言って取り繕うのも嫌いです。



 尚も言い訳しようとするアッサム君をショコラちゃんが、片袖をクイクイと引っ張り、コショコショと囁いている。

 すると、二人でゴニョゴニョ話しあっている。

 いつからそんなに仲良くなったのですか?


 すると、アッサム君は姿勢を正して話し始めた。

 「実は、自分は、アールグレイ少尉の強さに感服しました。そして憧れました。自分も少尉のように強くなりたい。お願いします。あのトルネードブローを自分に教授願いたい。先程は強さの秘密は少尉の筋肉にあるのではないかと不躾に見てしまいました。決して他意はありません。申し訳ありませんでした。」


 そ、そうだったのか!

 ごめんね、僕、自意識過剰だったよ。

 そうか、男の子が全部が全部、嫌らしい目で女の子を見てる訳じゃないものね。

 前世の自分を基準に考えるのは先入観だよね。

 そっかぁ、男の子も個々によってアッサム君みたいなストイックな子もいるんだね。

 逆に僕が恥ずかしいよ。


 そっか…それなら好きなだけ見ていいから。

 ちょっと恥ずかしいけど、僕の勘違いだものね。


 そんなことを言いだしたら、今度はショコラちゃんが慌てだした。「いけません、ダメですから。」と手を振っている。

 エトワールも、「それは駄目だ、許さん。」と僕とアッサム君との間に割って入る。

 

 この後、ショコラちゃんから、「ソレとコレとは全く違う話しですから、淑女が殿方に、自分の身体を見て良い許可を出すなど、論外です。勘違いされますから口に出してはいけません。それは、勘違いさせても良い殿方が現れた時の為に取っといて下さい。いいですね。絶対ですよ。分かりましたか。軽々しく言っては駄目ですからね。」

 くどい程、念を押される。


 うんうんと頷く僕。


 まあ、女子としてはショコラちゃん、先輩だからね。

 いまいち腑に落ちないけど、僕のことを思って言っていることは分かったから、多分、そう言うことなのだろう。


 後ろの方で、エトワールが、「そうだぞ、アル、男は狼だぞ。そもそもアルは隙がありすぎる。」と云々、調子に乗ってアレコレ言ってくるけど、僕より女子力低いエトワールから言われたくたないですよ。



 …協議中



 「えーと、クール・アッサム曹長、協議の結果、やはり女子の身体をジロジロと見てはいけないと結論に達しました。ならぬものはなりません。あと、あなたの言うトルネード・ブローを教えるのはやぶさかではございませんが、今まで僕は弟子を取ったことがありません。よって短時間でコツだけ伝授しますから、後は僕から盗み取ってください。」

 アッサム君に、協議の結果を伝える。


 ちょうどその時、後発で、後から付いて来たバスが到着して、アリ中尉達が降りて来た。

 そして、何だ何だと集まって来て、僕の言葉を聞いて、アッサム君を、おまえ何やったんだと言う目付きで見る。


 ムッ、いけない。このままでは、僕が誤解したように、皆もアッサム君が変態だと誤解してしまう。


 冤罪はいけない。


 皆の誤解を解かなければ…

 「皆んな、聞いてください。」

 僕の声に、アリ中尉を始め、皆が注目する。


 「…確かにアッサム曹長は僕の身体をジロジロと上から下まで、ジックリと食い入るように見ていました。」

 自分の言葉に、見られたことを思い出す。

 ううっ、恥ずかしいよう。顔が赤くなるのが分かる。


 僕の言葉に、アッサム君がギョッとした顔をした。

 大丈夫だから、僕、ちゃんと皆んなに説明するから。

 「でも、それは僕の誤解でした。彼が見ていたのは僕の筋肉だったのです。彼はヨコシマな心で見ていたのではなく、純粋に僕の技を知りたくて見ていたと分かりました。」

 僕の言葉に、皆がアッサム君をジーと見る。


 あれ、何だか、「おまえ、本当に、いったい何やってんだよ。」みたいな目付きを、皆が、アッサム君に向けている。

 特に後発のバスに乗って来た女子達の目付きが剣呑だ。


 あわわ…いけない、誤解されてる。

 「誤解です。誤解なんです。彼は何もしていません。…僕も、全然気にしてませんから。」

 何だか騒動を大きくしてしまったようで面目ない。

 …思わず顔が俯く。


 皆が、アッサム君に詰め寄った。


 この後、ショコラちゃんが、皆の誤解を解いてくれました。

 言ってる内容は一緒なのに、いったい何が違うのか。

 …解せぬ。



 …




 実は、そんな事より、もっと重大事がありました。


 アリ中尉が、僕たちの人数を確認し始めて、「おかしい、おかしい。」騒ぎ出したのです。

 そして、僕らに宣言するように言いました。

 「11人いる!」



 


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