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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
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クール・アッサムの事情(前編)

 自分の名前は、クール・アッサム。


 アッサム家は、当代の都市王を輩出している。

 言わば王家の一門と言っていい。

 ただ自分自身は、アッサム本家の王家とは、面識が無いほど血脈は離れている。 

 アッサムの名を冠してはいるが、末の末、自分の代からは平民だ。


 だが、自分は自分の先祖を誇りたい。

 先祖に恥ずかしくない自分でありたいのだ。

 そして、可愛い嫁さんを貰って、いつか子孫から誇れる自分でありたい。


 そのために自分は一角の人間になりたい。 

 具体的には偉くなってやる。自分の実力でだ。

 その為にギルドに登録した。ギルドは実力主義を謳ってるからな。


 そう、取り敢えず自分の今の目標は、2つ。

 自分の髪の色と同じレッドとなること。

 もう一つは、将来の嫁さんを見つけることさ。




 思えば、子供の頃はヤンチャだった。

 親父は都市騎士で、貴族としては最低位だったが、弱きを助け、強きを挫く、自己の信念に忠実な人だった。

 自己に厳しく、他人にも厳しかった。

 もちろん息子の自分にも厳しかった。

 ヤンチャな自分は良くぶん殴られたもんだ。


 だが、身体で分かったぜ。

 約束は守る事、自分に嘘はつかない事、弱き者を助ける事、道理を曲げない事、…。

 親父は、身体を張って自分に矜持を持つ事の大切さを伝えてくれた。

 だから、自分は、自分を曲げねぇ。妥協はしねぇ。

 目標に向かって全力を尽くすぜ。


 学校は、退学になりそうながらも、何とか卒業できた。

 後から、退学決定になる時、御袋が土下座して学校長にお願いしたと聞いた。


 不覚にも、涙が出そうになった。御袋には一生頭が上がらない。貴族出のお嬢様だった御袋は、それまで人に頭を下げたことなど無かっただろうに。

 優しく誇り高い御袋だった。

 誓ったんだ。もう人に迷惑はかけねぇ、助ける人間になる。

 

 強くなる。誰よりも強くなる。大切な人を守れるように。


 グリーンの星一から始めたぜ。

 今の自分には、士官学校に入る資格も実力も無いからだ。

 毎日を全力で挑む。


 修練だ。

 頭を絞って常に考えたぜ。

 実力者の真似をした。

 真剣に相手の話しに耳を傾けた。

 だって今の自分は最低だ。周りは皆んな自分の上ばかりだ。

 周りが皆んな先生だと思って過ごした。


 常に自分の立ち位置を考えた。今の自分は何が出来るのか。

 だから自分の事を、自分と言うようにした。


 鬱陶しいとか、暑苦しいとか、余計なお世話とか、色々言われた。

 その度に、自分は自分、他人は他人と自分に言い聞かせた。

 自分は自分のやり方を貫く。


 半年後、星が2つになった。同期で一番早く昇任したグループに入っていた。

 一年後には星三つとなり、17歳になった時にグリーンを卒業した。

 ブラックになり、ある程度は、自由に仕事を受注出来るようになった。


 人生の岐路だと思った。

 集中して一つの事を極めるか、はたまた幅を広げるか…。

 まだだ、自分は新しい事にまだまだ挑戦したい…。


 自分は後者を選んだ。

 ただ討伐系や捕縛、護衛の依頼を好んで受けた。強くなりたいからだ。

 約束は守る、自分に嘘は付かない。丁寧に確実に依頼を達成した。

 次第に贔屓にしてくれる依頼主、支持してくれる協力者が増えていった。

 技を磨き、知識をインプットし、技能を使えるよう習練した。半年毎に星を一つ増やして18歳でブルーとなった。


 ブルーは、化け物揃いだった。

 まさに癖者ばかり。

 中には貴族の金星をぶっ飛ばし、大隊規模のギルド員を指揮して依頼を達成した怪物もいるらしいと聞いた。


 これまで知らぬ間に育っていた傲慢さがペシャンコに潰された。…わははははは。

 お笑い草だ。自分は又も勘違いしていた。

 自分は、有能で強いと勘違いしていた…恥だぜ。

 また一からのやり直し…自分の得意技だ。


 より素直に耳を傾けたぜ。技は何回も何回も繰り返し修練した。自然と出来るようになるまで。

 怒涛の二年間だった。一日も休まなかった。

 気がつけば、星が三つになっていた。


 ブルーになってから初めての休暇を取った。

 祖父さんの墓参りの帰り、ギルドに寄った折、噂を聞いた。

 懇意にしているギルド職員からだ。


 ハクバ山探索行の指定依頼を勧められたら、必ず受けろ。

 抜き打ちのレッド選抜試験らしい。

 士官学校出ばかりのレッドに喝を入れる為、真に強さに実力あるブルーを昇任させる方針らしい。

 望むところだ。


 次の日、受付の金髪の美人さんから、呼ばれてハクバ探索行を勧められた。

 おお、この受付の姉ちゃん、全く自然に勧めてきたぜ。

 なるほど…美人なだけの、胸の小さいただの姉ちゃんだと思っていたけど只者じゃないぜ。


 いやいや、自分の眼は節穴だった。反省したぜ。

 これからは、観察と洞察力を磨かなければ。

 それにつけても、あと胸が大きければ、せめて人並みにあれば完璧だったのに…惜しいぜ。


 と、思ってたら、今しがたまで、にこやかな顔であったのに、瞳の奥が怖いくらい自分を睨みつけている事に気がついた。


 それだけでは無い。受付の姉ちゃんは自分に向かって、とんでもない事を聞いてきた。

 「それにつけても、私は人の体型をアレコレ言う人はシネばいいと思うの、ねえ、アッサム曹長もそう思うでしょう?」

 ニッコリ笑っているけど眼が笑っていない。


 え?まさか、この人、自分の思った事読めるのか?

 怖い 怖い 何、この人。

 声も出せない位怖い。


 ジブン ソンナコト オモッテナイヨ


 カクカクと頷く。

 後の事は、よく覚えてないけど、依頼は受注したらしい。

 世の中は広い。自分が気がついて無いだけで、強者は至る所にいる。


 自分の知っている事など、僅かな事だけだ。

 また、思い知ったぜ。

 ふっ、また一から出直しだ。

 あと何回こんな思いをするのだろう。

 …当分は無いと思いたい。



 この時は、そう思っていた。

 

 

 


 

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