珈琲時間
朽ちた駅舎前に着く。
北側が、広場になっているみたい。
多分、昔、バスのターミナルだった場所だ。
ここからは、徐々に山の裾野に差し掛かって行く。
バスから降りて、同じく降りて来たアリ・ロッポ中尉と話す。…30分間の休憩だ。
よし、ならば焚火をセットしよう。…お湯を沸かすのだ。
何故だが、分からないが、僕、今、無性に珈琲が飲みたくなったのだ。
と言っても、本格的に薪木で燃やすのでは無く、バーナーを石で固定して薬缶をセットするだけだ。
珈琲は、残念ながらインスタントだ。
「御命令して下さい。私達がします。」
石で固定し始めていると、イエローちゃんが声を掛けてくれた。流石女の子、気配り上手だ。
ブルー君が、後ろで、え!俺もか…?みたいな顔をしている。
いやいや、業務じゃないし、僕の嗜好の為だから。
なんて言い訳を言う。
「でしたら私達にも奢ってくださいな。」
イエローちゃんは、笑って薬缶を手に取った。
僕も、笑い返す。
周りが、一瞬ざわついた。イエローちゃんの顔が薄っすらと赤くなっている。
うんうん、もちろん、僕もそのつもりですとも。
君達も、イエローちゃんの女子力の高さから来る気配りを、ザワザワと驚いてないで見習いなさい。
「…何故、私には笑い掛けてくれないの。…何故?何故?悔しい…あの女、キー、…酷いわ酷いわ。私には優しい言葉一つくれないのに。」
僕の後から降りてきていたエトワールが、何かブツブツ呟いていたけど、エトワールは、たまに独り言を言う癖があるのだ。珍しいことでも無いので、特に僕も反応はしない。
でも、まあ無視はしないよ。仲間だし。
「エトワール。」
「ハッ…何かしら!」
僕が呼びかけると、大輪の花が咲いたような笑顔でエトワールが僕の方に振り向く。
「珈琲飲むかい?インスタントだから、君の口に合わないかも知れないけど…。」
「ふっ、そうね…確かに私の高尚な舌には合わないかも…」
「そう、じゃあ、いらないね。」
話しが長くなりそうなので、途中で結論を出す。
「そんな事言ってないでしょう!飲むわ、飲むます、飲むでしゅう。いただきます!」
いや、そんな血相変えて、言わなくても、ちゃんと全員に上げるよ。
薬缶に水を入れる。
「water。」呟くと指先から水が吹き出す。
本当に魔法って便利だよね。
イエローちゃんが持っている薬缶に投入してから、バーナーにセット。
インスタント珈琲を、飲みたい人に呼びかけて、それぞれ持参してきたコップに入れて行く。
沸いたお湯を、イエローちゃんが、ロッポ中尉と僕に注いでくれた。
「ありがとう。」
御礼は、ちゃんと口に出す。
イエローちゃんは、皆にもお湯を注いで回ったので、最後に僕がイエローちゃんのコップにお湯を注いでいく。
二人対面して飲む。… 美味しい。
粉の珈琲と砂糖しか入れてないのに、自然の中で飲む珈琲って、美味しいよね。
はたまた水を出す時に、美味しくなれと念じたせいかも…なんてね。
二人して、美味しいよねって、心で仲良く目と目で通じあう。
あー、イエローちゃんみたいな普通の感覚の持ち主といるだけで、ホッとする。もう僕達友達みたい。
ここは、精神的に歳上な僕から自己紹介だな…えへん。
「僕の名は、アルフィン・アルファルファ・アール・グレイ。ちょっと長いから、アルとかアールとかで呼んで。」
「私は、ショコラ・マリアージュ・エペと言います。ショコラかマリアとお呼び下さい。」
二人してニッコリする。
「わっ、私は、エトワール・ヴァロワ・モロゾフ・オリッサです。」
僕とショコラの間を、大事そうにコップを両手に抱えながらエトワールが強引に割りこんで来て、僕に対し名前を言う。
いやいや、十年位前から知ってますから。
「いやー本当に、この珈琲美味いなぁ。挽いた高級豆より美味いで。どないなってんねん。」
アリ・ロッポさんが、首を傾げながら盛んに褒めてくれてる声が聞こえて来た。
やー、そんな訳ないじゃない、大袈裟ですよ、と思いつつも、褒めてくれると、やっぱり嬉しい。
流石ロッポさん、大人な対応です。
何より、こんなふうに皆んなで仲良く飲むと嬉し楽しで、美味さ倍増ですからね。