思惑
私は、アリ・ロッポと言う。
山と冒険が好きな私は、20歳代の時、測量会社を立ち上げギルドに登録した。趣味と実益を兼ねたのだ。
私の思惑は当たった。以来、都市政府から、貴族、裕福層からの支援や依頼を受け、地図を作成する日々を暮らしている。
儲けは少ないが、地図の価値は高い。
地図の作成は、世界を創造するかのような重要性に、高揚感が有る。地味だけどね。
でも、それでいい。
もし、この面白味が万人に知られたならば、もっと優秀な人達がこの役目を担うだろう。それは、まあ嫌だ。
だから、地味くらいで良いのだろう。
きっと他の測量技術者も同じ気持ちだろうと勝手に思っている。
20年近くの月日が経ち、私もかなり、この仕事に慣れた頃、郊外にある廃墟都市の森の測量及び写真撮影等の実査を請け負った。
郊外の測量には、護衛は必須であるから、ベテランのブルーの隊長格1名と1個分隊規模のブラック以上の隊員を条件に入れた。
私としては、かなり譲歩した条件だった。都市政府からの案件は依頼料が最低だからだ。
だが、蓋を開けてみれば、現実は更に下回った。
測量、観測の私と補助を含んでの1個分隊だったのだ。
本音を言えば、少数ならばレッドを隊長格にブルーを含んでの増強1個分隊は欲しかった。それほど衛星都市圏を抜けた郊外は危険なのだ。
魑魅魍魎共が跋扈している危険地帯だ。
当然一部例外を除き、住んでいる者はいない。
未知なる領域だ。
準備は万全にしなければならぬ。
特に人材の確保は必須だ。
それなのに、隊員は全員ブラック。隊長格にかろうじてブルーだ。しかも青の星一つ。
酷い。護衛だけで1個分隊は欲しいと上申したのに、何故にこうなった。
ギルドの担当に苦情を申し入れたが、大丈夫だから、大丈夫たからと言われ受付けてくれず終いだ。
…なんてこった。
せめて護衛担当の者が凄腕である事を願おう。
当日、護衛担当のブルーと会った。
卒倒しかかった。
ブルーは、まだ10代の女の子だった。
美少女だ…嬉しい。いやいや、ダメだろう。これは。
中止することも頭に浮かんだ。
女の子の名前は、アールグレイ。何処かで聞いた覚えがあるような名前だ。私の思いとは裏腹に、打合せは進む。
打合せで、彼女の印象はかなり変わった。
非常に礼儀作法のシッカリした子だ。
まるで歳上と会話してるような安心感を覚えた。
だが、実際の強さはどうなのだろうか。
ブルーは一般には下からの叩き上げの猛者だ。
ベテランのブラックの中から認められた最上の者だけがなることができる。
こんな小さくて可愛い女の子がと疑問が湧く。
…
だが杞憂でした。
歳上のブラックを指揮し、見事に押し寄せる怪異を薙ぎ倒し討伐した。逃げる必要すら無いくらいの強さだった。
人は、見た目では判断できないと改めて認識した。
後からブラックの隊員の一人から話しを聞いた。
「アールグレイ軍曹殿は、あのシナガ撤退戦で指揮を取ったテンペスト軍曹殿ですぜ、強いのは当たり前です。あっしらが100人居ても勝てる気しませんぜ。」
なるほど、どおりで屈強なブラック達が大人しく従ってるわけだ。
ギルドの担当め、分かっているなら説明位しろよ、まったく腹立たしい。
シナガ撤退戦では、指揮を取ったテンペストは、兵も民間人も一人も死なせることはなかったという。
あんな小さな女の子が…なあ…。
…
次に、アールグレイさんと会うのは、ハクバ山探索の依頼の時となる。
3月も末の春めいた日、ギルドの受付に行くと、かなり良い探索の依頼があると聞いた。
民間からの依頼で、資金は豊富、更に護衛はアールグレイ・テンペストと受注担当から話しを聞いた。
ラッキー!登山も出来るし、アールグレイさんなら護衛も万全。そりゃ受けますよ。
あれ、スポンサーも付いて来るの?…まあ邪魔しなければいいんじゃないの。
え?更にブルーのレッド選抜試験も兼ねてるの?
本人達とテンペスト殿には秘密?何故?
まだ選考の段階だから公のものではなく、試験官の資料にするためだって。スポンサーはギルドの人事担当重役なの?
テンペスト殿は、秘匿作業には不向きでバレる恐れがあるから教えるなって。まあ別に構わんが。
何故私に教えるの?
スポンサーが変わり者だからお世話しろだって。
えー、なんか不祥事に巻き込まれそうで嫌だな。
え、何、こんなに出るの?
スポンサーは、アールグレイさんの親友なの?そっかぁ。
…まあ、だったら大丈夫かなぁ。
潤沢な資金で、ハクバ行けるしなぁ。
よし。受けよう。
山が私を呼んでるぜ。わははは。
これが後に、ギルドで語り継がられるハクバ山デストレイルと呼ばれる探索行になるとは、この時の私は知らない。