思慕
学生時代のエトワールを思い出す。
何でも出来て何でも知っている。
お金持ちで、美人で、天才、スポーツ万能。
まさに完璧。ミス・パーフェクトだ。
何で彼女が学校に通っているのか分からない。
何しろ教師を全ての能力において凌駕している。
悪い処があるとすれば、性格ぐらい。
初めて会った時は、こんな完璧な人も世の中にはいるのだなぁ。と、雲の上の人に会った気分であった。
そう言えば、エトワールの方は僕を喰い入るように見て来て怖かった覚えがある。何だったのだろう。
それから何故か、偶然会う機会が増えた。
何故か、道場や食堂、風呂、図書室など、いたるところで会う。
街中でも映画館、喫茶店、本屋、公園、etc…。
親友にその旨を話してからは、逆に何故か減ったけど。
それでも、とにかく同じ学校なので、結構会ってしまう。
僕からは話し掛けたことは無い。
何しろ雲の上の人だからね。慎ましい暮らしをしている庶民の僕とは縁遠いお人ですから。
エトワールは、見た目だけでも、手間暇を掛けて磨き上げられてるのが分かる。
持ち物も全て最高級品である。彼女の身に付ける中で一番低品質なのが制服なのだから、程度が分かる。
ちなみに、その頃、僕が身に付けてる中で最高金額が制服でした。まさに天と地ほどの開きがある。
僕は、全く気にしないけれども、実際友達付き合いするとなると話しは別。所時金の差異は、色々面倒くさいのだ。
親友になったならば、又別の話しだけれども。
だから、僕は彼女を避けていた。
彼女から話し掛けてこなければ、僕達は話しもしなかったはずだ。
だが僕の思惑は外れた。
結構バッタリ会って、僕が会釈して通り過ぎようとするのを、彼女から必ず話し掛けて来る。
「あーら、庶民のアールグレイさんじゃないの。せっかくの私に会えた良い機会ですから、私がランチ奢ってさしあげても良いわよ。」
「いえ、結構です。」
「アールグレイさん、確認だけど、結構ですってことは、ご一緒しますと言う意味よね。」
「いえ、お断りしてます。」
「……。」
「…失礼します。」
などの会話の応酬が頻繁にありました。
今なら、自分の気持ちが分かるけども、僕は無遠慮な物言いとか失礼な態度が嫌いなのだ。
だから彼女と友達にはなれなかった。
最後に会ったのは卒業式。
僕は、もうギルドに内定していて、別の道を歩む親友とは今日でお別れだった。
エトワールとは最後まで食事を共にはしなかったけども、会う度に、だんだんと馴れ馴れしくなっていき、最後には僕の名前を呼び捨てにしていた。
失礼にも程がある。
卒業式では目が会って、話し掛けたそうにしてたけど、無視して親友と帰った。
だから僕達は友達でも何でもない。
それなのに、久々に会った彼女の、あの態度は何だろうか。
彼女の中で、僕の立ち位置はどのようになっているのだろうか。
何と無く不安はあるけど。
考えてもしょうがないので、今は考えないのだ。保留である。先延ばしとも言う。
だってしょうがないでしょう?
僕のせいではないし。そうだよね?
だから、今は仕事に専念。
ワクワクしている。
きっと景色は絶景に違いない。