新たなる旅立ち
レッドの戦闘服に身を包む。
ちなみに服の色は赤では無い。士官用の野戦服という意味で、階級章の地の色が赤色なだけだ。
むむっ、身が引き締まります。
今回は単独行では無い。
総勢10人の一個分隊規模だ。
全員がブルー以上の猛者達だ。
ブルーは下からの叩き上げばかりだ。
強いのは当たり前、しぶとく、一癖も二癖もある。
まあ精鋭中の精鋭と言える。
個の強さならレッドを凌駕する者もいる。
そして僕と同じレッドは、僕を含め3人。
内訳、僕、アリさん、そして残りの一人が…
「キャー、アルじゃないの。久しぶり、卒業式以来じゃないの、ねえねえ、私の事、覚えてる?覚えてるわよね。きゃは、相変わらず、あなた小さいわね、ちゃんとご飯食べてるの?」
フワフワ金髪の美人さんが、抱きついて肩をバンバン叩いてくる。人を小さい呼ばわりする程、本人の身長は高くない。僕より僅かに高い程度だ。
勿論彼女の事は知っている。元同級生である。
彼女の名前はエトワール・ヴァロワ・モロゾフ・オリッサ。
彼女を一言で説明するとすれば、天才と言う言葉が相応しい。
僕の中の認識では、彼女は友達では無く、単なる知り合いである。
だが学生時代、何故か僕の行く何処、行く何処彼女は現れるのだ。
あー、多分、腐れ縁…と言う言葉が思い浮かぶ。
卒業してからは、会う事が無かったので安心していたのだけれども。
…実は、僕、彼女が少し苦手…である。
悪い人では無いと思う。
ただ学生時代、僕自身が彼女の側にいると落ち着かなかったのだ。何やら息苦しさを覚えたのである。だから割と意識して避けていた。
でも、何故かかち合ってしまうのだ。
食堂、風呂、本屋、喫茶店、レストラン、etc
あげれば枚挙に暇もない。
もしかして、僕達行動パターンが似てるのかな?一緒なのかなと思ったこともあったり。
寮の同室の子に話したら、「ん〜。任せて。」と言って、しばらく出てってから戻って来て「もう大丈夫よ。」と言ってからは、エトワールとは、かち合わ無くなった。
なんだったのだろう。
でも同じ学校、同学級なので授業中は必ず会うし、僕が飛び級すれば彼女も同時期に飛び級した。
彼女の手がアチコチ触って来たので、無理矢理引き離す。
「やーん、あとちょっと、せっかく久しぶりなのに…。」
見ると、眼を開けて爛々と輝いている。
息遣いが荒い。
うっ、やっぱり、僕、…ちょっと苦手かも。
そもそも、何故彼女は、ここにいるのだろうか。
彼女が冒険者になった話は聞かない。
彼女の実家は、ちょっと桁が違うほどのお金持ちですし。
彼女自身も学生時代の時から投資で成功しており、働く必要は無い。卒業時は、確か自分で会社を興して経営していたはず。経済、学術、芸術、発明、全てに通ずる万能の天才、それがエトワール・ヴァロワ・モロゾフ・オリッサだ。
階級章を見る。
僕と同じ赤の星一つ、少尉だ。
「そうそう、お揃いにしたの。私もアルと同じなのよ。」
ニコニコと笑うエトワール。
変わらない、これがエトワールだ。
彼女と話していると、側に居るだけで、全てを見透かされているような気分になって落ち着かないのだ。
僕の一挙手一投足を見られている気がする。
そして、それを隠そうともしない礼儀知らず。
ああ、…そうか。僕はこの子の事、嫌いなんだ。
久しぶりに会って、認識してしまった。
もう同室の親友は、ここには居ない。
僕自身が対応しなければ。
アリさんが来た。
彼の名前はアリ・ロッポ。
測量技能職のレッドだ。今回の隊長。
階級は、…赤の星二つになっている。
階級が上がってますね。おめでとうございます。
お久しぶりです、この度はご指名ありがとうございますと挨拶を交わす。
年配のおじさんではあるが、ギルドに所属しているだけあって、身体は鍛えて引き締まっている。
山でも海でも測量するならば、その身体は何処でも踏破可能だそうだ。
体力だけは自信ありますとガハハと笑っている。
体力半端ないなぁ、山男ですね。
「君への指名は、実は、まあ私では無くてね。彼女からの指名なんだよ。スポンサーのご意向には逆らえなくてね。勿論、私も反対ではないよ。前回一緒に仕事したからね。」
アリさんは、エトワールを示しながら話す。
えっ、そうなんですか。依頼主なんですか?
「そうなんだよ。私が依頼主だから。ちゃんと接待するんだよ。」
エトワールの自慢そうな顔が鼻につきます。
断ろうかしら…。
「嘘、嘘だから。普通に対応してくれるだけで良いから。」
まあ、それならば、仕事だものね。
「そうそう、仕事だから。アルのそういうシッカリとした四角四面な考え方好きよ。」
その物言いも、ムカつくけど…許容範囲かな。
でも、エトワールには遠慮は無用であると、僕は決めた。
アリさんを隊長にして、僕とエトワールが副隊長。
測量自体は、エトワールも参加するらしく、あとブルー二人が補助につく。すると護衛は僕と残りのブルー5人ですね。
山の麓までは、車で行くらしい。
今日は資材の積み込みだけで、明日出発だ。
エトワールという予想外の出会いがあったけど、明日は山登りに出発だよ。楽しみだ。
今日は、装備品を合わせて、足りない物を買い出しに行こう。