新月
ラプさんと奥様にお礼を言って、邸宅を後にする。
あと、テライさん、ご馳走様でした。
今度、ペンペン様と料理店にお邪魔しますから。
急ぎ、可愛い子の後をつける。
気分は、ストーカーだ。
いささか背徳的な気分だけれども、仕方のないことだ。
子供が大切にしている思いを曲げて欲しくない。
[蜘蛛]のアジトを無理矢理聞き出す事はしたくない。
それは子供に育ての親を売らせる行為だ。
きっとテミ君は傷つく。だから…
悪役は、大人がなるべきだ。
ピーターパンのフック船長のように。
「テンペスト様、私、なんだか悪い事してるような、ドキドキしてしまいます。」
僕の後ろから、追てきてるファーちゃんがのたまう。
振り返って見ると、ファーちゃんの表情がワクワクしてるかのように見えてしまう…あれれ?
なんだか僕の思惑とはズレてるけど結果オーライで、いいのかな?良く分からない。
テミ君には印を付けてみた。
僕印です。
瞼を閉じれば、暗闇にボゥッと光って位置が分かる優れものです。
陽が落ちれば、辺りは暗闇だ。
住宅街を離れて、閑散とした雑木林の中へ。
そこは、原初の闇。
入るのに一瞬躊躇する。
前世でも、夜、もし山の中に一人でいれば、こんな気持ちになるかも知れない。
想像してみて。
何も見えない闇の中なのに、生き物の気配がする。
樹々の間から夜空を見上げればグレイ。
樹々の葉が、ガサつく音。
遥か先に、闇の中を、ボゥッと光る印が…宙に舞うように移動していく。
それを追う僕達。
息遣いが聞こえる。
自分の呼吸か、ファーちゃんの呼吸音が分からない。
ふと、ファーちゃんが付いてきてるか心配になる。
でも振り返らない。
古今東西の慣わしで、振り返ってはならない。
大抵の物語では、振り返って、碌な話しを聞かないから。
僕は、迷信は、一つの定跡ではないかと思うので、今日は従う。…正直に話すと振り返るのが怖かったからです。
時間と距離の感覚が麻痺していく。
暗闇に神経が摩耗していく。
そんな折、遥か先を動いていた灯りが消えた。
…見つけた。
あそこがアジトだ。