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アールグレイの日常  作者: さくら
東方見聞録
104/615

シェフ

 …暗い。

 話しが暗いよ、ファーちゃん。

 たとえれば、月も霞んで見えない程の暗さです。


 ファーちゃんは、辛いとか苦しいとか一言も言わないけれども、話しの内容から、阿鼻叫喚の嘆き苦しみ、この世の地獄を味わった事は想像に難くない。

 だからこそだ。

 だからこそ、苦しみ悲しみ辛さ怒りは、明るく話さなくてはいけない。無理があるのは承知の上です。

 ファーちゃんの苦しみは、僕の苦しみ。

 ファーちゃんの悲しみは、僕の悲しみ。

 そして、ファーちゃんの怒りは、僕の怒りだ。


 子供は、やはり笑っていた方が良い。

 後の事は、大人である火猿さんと、名前の分からないお弟子さんに任せたまえよ。

 僕は、ファーちゃんの肩を、安心するようにポンポンと叩く。

 「それで、どうしましょう?火猿師匠。」

 僕はクルッと回って火猿さんに、問題の行く末をトスする。

 ああ、自分より歳上の人がいる時は、気楽です。

 今世は、なるべくストレスフリーで行く事を目指しているので、出来る人にドンドン、パスして行く方針なのです。

 イメージとしては、前世で見た映画のスーダラなんちゃら節みたいな感じで。


 「師匠だぁ?う〜ん、お前さんとは確かに同門だが、師匠と呼ばれるほどの間柄ではあるまい。それに、さっきから火猿、火猿と呼んでいるが、わしにも名前くらいあるわい。シン・ラプサンスーチョンと言うから覚えておきなさい。名前はカミさんが付けてくれてのう。わしは婿養子なんじゃよ。」

 ホッホッホッと笑う火猿さん。


 …じゃあ、これからは、火猿さんのことはラプさんと呼びます。

 ラプさんは、言葉を続ける。

 「そうじゃのう…考えてもしょうがあるまい。こんな時は、美味しいものを沢山食べて、たっぷり睡眠を取って元気になってから突撃じゃと、わしの中の心の師匠がおっしゃっておるわい。」

 おお!…グットでグレイトです。ラプさんの心の師匠最高です。僕と気が合いそう。


 そんなわけで、今日の夕飯は、ラプさんが奢ってくれるとか。食材はあるらしいので、お弟子のテライさんが作ってくれるらしいです。

 なんとこの人、表の職業は料理人だとか。名前も今知りました。テライシェフは台所に入って行く。

 「女なんだから、料理くらいしろよ。」とかブツクサ言ってましたけど、作ってくれるなら全然気になりません。

 僕の心は、海のように広いですから。



 …



 料理は、美味しかったです。

 さすが料理人です。

 感想を言ったら、テライさん凄い喜んでました。


 うん、うん、そうなんだよね。

 作った料理を褒められたりすると、とても嬉しいものなんだよね、分かる、わかる。

 逆に、出来立てを食べてくれないと、ドンドン冷めて美味しさのバロメーターも下がっていって悲しくなるんだよね。

 分かってるかな?



 さて、お腹一杯になって元気になった所で本題です。

 僕は、テミ君の隣に座る。

 「テミ君、今日はもう帰りなさいな。きっと心配している。」

 「テンペスト様、それは…。」

 言いかけたファーちゃんの言葉を手でストップを掛ける。

 テミ君が僕を見上げる。不安そうな顔だ。

 「約束する。…[苔蜘蛛]さんを酷い目には合わせない。」

 テミ君の眼を見つめる。


 テミ君は、しばらくすると小さく頷いた。

 良い子ですね。

 頭を撫でて、…思わず頭から抱きしめたりする。

 「やーの。…テンペスト様、僕のこと好きなの?」

 真っ赤になって、僕に尋ねるテミ君。

 ニッコリ笑う。

 「もちろん、大好きですよ。」

 「そーなんだ、ふーん、そう…。」


 テミ君は、心なしか元気になって帰って行った。

 手を振っている。


 「テンペスト様、一人で帰らして良かったんですか?」

 一緒にテミ君を見送ったファーちゃんが聞いてきた。

 「あの子、歳の割にしっかりしてるから大丈夫だよ。自衛手段もあるのは、さっき抱きしめた際に確認したから。」

 「そういう意味ではありません。その…テミ君の今の保護者は、私達の敵…。」


 「大丈夫。さっき抱きしめた時に、仕掛けを一つ着けといたから、居場所は分かるよ。テミ君は敏感だからね。1キロ以上離れてから追跡しよう。」

 テライさんが、後ろの方で、「女、怖い、テミ君が可哀想だ。」とか、何やら言っているが気にしない。


 何しろテライシェフの料理美味しかったから。

 僕の心は、この夜空のように広いのだ。


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