陽は又昇る
朝、目覚める。
瞼をパチリと開くと、木目の天井が見えた。
いつもの天井です。
僕の日常が又始まる…そう、一日が始まるのだ。
ありがとうございます。
喜ばしい朝、またこの世界に帰ってくることができた。
瞼を一旦閉じ…祈りを捧げる。
…この世界に感謝を。
深呼吸して、酸素を体内の隅々にまで行き渡らせるイメージで、自分の身体が生きていることを感じる。
起きあがり、未だ覚醒せぬままヨロヨロと洗面所に向かう。
蛇口を捻り、出て来た水で顔を洗う。
ん…少し冷たい。
けど…心地良い目覚めです。
時間は、朝の午前5時。
この時間に起きると、年の押し迫ったこの時期では、辺りはまだ暗く、寒い…。
足踏みするように板間の廊下を歩き戻る。
リビングを見ると、未だペンペン様が、お布団の上でクゥクゥ寝息を立てて寝ていました。
…
なんて幸せそうに寝ているのだろう…。
ペンペン様とは、太って丸い黄緑色のヌイグルミの様な、このペンギンの事です。
実はペンペン様は、ヌイグルミでは無く、形態がペンギンな謎生物で、ある時、押しかけてきて、気にいったのかそのまま、ここに住み着いてしまったのです。
さすが、異世界!
でも…ちょっと吃驚。
そう…改めて言うと、ここは異世界なのです。
そして、僕は転生者なのです。
此処までは、了解でしょうか?
まあ、僕の事は追々話す事として、異世界ならば、こんなペンギンがいても不思議ではないのかもしれませんね。
今ではそう思えましたが、当初遭遇した時、はたして異世界だとしても、こんなケースがあるのだろうか?と疑問に思ってしまった。
よし、調べてみよう!
凄い気になるしと、その時、調べてみた結果、ペンペン様は魔法生物の一種であるらしいのが分かりました。
なるほど、なるほど…人間の僕の思惑など関係無しに、部屋をウロつき回り、冷蔵庫の扉を勝手に開け、食糧をあさるペンギン型不思議生物。
何?この生き物は?!
最初その傍若無人な行動を僕は止めること能わず、ただただ呆然と見ていることしか出来ませんでした。
でも、よくよく考えてみれば、まあ、確かに人間の取り決めなど、所有権を含め、他の生物にはまるで関係ないと気づきました。
それでも自由自在に好き勝手している、このペンギン型謎生物は知能が有るらしく、お願いすると野放図に食べたり散らかすのは止めてくれた。
…ん?!
これって、このペンギン型謎生物、人の言葉を理解してるってことだよね?
驚きを隠せない。
何故なら、僕はペンギン語など解さない。
それなのに、このペンギンは人類の一言語を解しているのです。
だとしたら、見た目に反して人類より知能は上なのですか?
僕んちに断りもなく侵入して、食べ物を漁っているこのペンギンが…?
モグモグして幸せそうに食べてる姿は太々しく可愛いけど、とても知能が上だとは思えない。
しかも気に入ったのか、その日以来、住みつかれてしまった。
…やれやれ、なにこれ?
なるほど、コレが魔法生物と言われるものなのですか?
常識を著しく逸脱している。
しかしながら、これが異世界の流儀ならば、仕方がない。
郷に入っては郷に従えである。
…
僕は、幸せそうに寝てるペンペン様を起こさないように着替えて…そっと外に出る。
寒い住宅街を、ゆっくりと1時間ほど走る。
辺りは薄暗く、吐く息が白い。
身体が暖まったら、筋トレをする。
本当は、逆の方が良いらしい。
その後、街中では、剣を振ることは出来ぬので、エア素振りを軽く300回ほど、一振りごと真剣になぞる。
…
うっすらと、汗をかいて、多少息荒くして自宅に戻ると、室内は、まだ薄暗かった。
…そしてペンペン様は、まだ寝ていた。
…
冬眠かな?と顔を覗いてみると、クココッと寝息を立てて幸せそうに寝ている。
うんうん…良く寝ている。
幸せそうなペンペン様を見てると、僕も幸せな気分になる。
…よし。
軽く汗をかいたので、シャワーを浴びてスッキリしたい。
けど、僕が、住んでる所は賃貸マンションだけれでも、シャワーが水漏れしてて、使えない。
管理会社には、だいぶ前に言ってあるのになぁ。
しかたなく、湯船のぬるま湯を使って汗を流す。
上がった後、タオルを当てて水分を取る。
あー、スッキリ。
次に、お湯を沸かしつつ、珈琲豆を挽く。
挽くだけで、辺りに珈琲の匂いが漂う。
そして、珈琲を入れて飲むのです。
朝に飲む珈琲は格別で、湯気に漂う香りが好き。
珈琲を堪能した後、お握りを2個握る。
これは僕のお昼ご飯なのです。
水筒にお茶を入れて、さあ、出陣でござる。
ふと見ると、ペンペン様は、まだ寝ていた。
心なしか部屋に漂う珈琲の香りに鼻の辺りがヒクヒクしている…そう言えば、ペンペン様は珈琲が好きでしたね。
火の元、戸締まりをしっかりと確認する。大事です。
確認、確認と。
さあ、まだ外は暗いけど出発です。
辺りは未だ薄暗い。
今日これから僕の一日が始まる。
さあ、袖擦り合うも他生の縁。
皆さんとは、せっかく僕と縁があって出会ったのだから、もう少し僕の異世界生活にお付き合い願いたいもの。
だって、ここの異世界は、前世よりも格段に面白いから。
少なくとも、焚き火の前で珈琲を飲みながら、暇つぶしに聞く、ちょっと面白い雑談程度の暇つぶしくらいにはなると思う。