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死神の少女と無名の探偵  作者: 初岡龍
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一流の情報屋ー2

俺とカリアは佳奈の用意してくれた寝床で体をゆっくりと休めた。

そして翌朝を迎える。

出発の日に最適な晴れ晴れとした快晴で、中々覚めない眠気を一瞬で吹き飛ばしてくれる朝だ。

俺は佳奈の手配してくれた電車用のチケットをもらい、いよいよ東京に向けた身支度を終える。


「準備できたか~? 最終確認やけど、東京に滞在する期間はとりあえず2週間。犯人を見つけ出す見つけ出せないに関わらず期間は2週間やで! 東京に向かったらまず依頼主の神崎と合流。そこからは帝明会の人たちと動くってことでええな?」

「あぁ。それで問題ない」

「後、相手は犯罪組織で何してくるかわからない上に、死神を使ってくる可能性もあるから極力、カリアちゃんと共に動くことを優先してな」


佳奈の言う通り、死神を利用した殺人の可能性が高い以上は同じ死神であるカリアと一緒に動いた方がリスクは下がる。予測が困難な限りは用心しておいた方がいいのは生き残る上で大切になってくる。

佳奈は徹夜で調べ上げた狼角に関する情報を印刷したプリントをクリアファイルに閉じた状態で俺に手渡す。


「それじゃあ、行ってくるよ。佳奈」

「行ってらっしゃい! 気を付けてな! 無事に帰ってくれること祈ってるで!」


佳奈が笑顔で手を振るのを自分の目でしっかりと確認し、佳奈の家を出た。俺とカリアの姿が見えなくなると、手を振るのをやめて青い空に目を移す。


「頑張ってな………神武羅!」


佳奈の言葉は静かに青い空へと消えていった。


佳奈の手配した電車に乗り、しばらくの間電車に揺られていた。佳奈が手配した電車はガチものの貸し切り電車となっていて、俺とカリア以外は誰一人いない不思議な感覚だった。


「何か慣れねえな。東京にいた時は電車ががら空きなんてこと滅多になかったな」

「東京にいた時は毎日電車に乗ってたの?」

「毎日でもないがたまにな。東京じゃ満員電車が普通だったからこんなに誰一人いない電車に乗るのはある意味、異空間世界みたいに感じるよ」

「だね~」


俺とカリアのたわいもない会話すらが、誰にも聞かれていないということに新鮮味を感じる。佳奈の用意してくれた狼角に関する資料に目を通しながら、静かに揺れる電車での時間を過ごす。

そうこうしている内に、電車が無事に東京へと到着していた。一般の人が使っている電車のルートとは違った完全な隠しルートで、当然人は一人もいない地下だ。


「もう着いたか。にしても、佳奈はすげぇな。よくこんな隠しルートを知っていたとは」


一体どうやればこんな場所があると知れるのか。

佳奈の末降ろしい情報収集力と経済力に感服と感謝が溢れ出る。


「佳奈が言うには、ここの階段をずっと登って行けば佳奈の知り合いがいるお店の裏口に繋がっていると言ってたな。知り合いのお店の人にも既に話は通してあるって言ってたし、本当に手際がいいな」

「だね~。佳奈さん、準備が本当に早いよね。花巻君が佳奈さんを天才と認めるだけのことはある」

「依頼が終わったら飯でも奢ってやらないとな」


俺とカリアが軽く雑談しながら長い階段を登っていく。中々先の見えない暗く長い階段で油断するとすぐに足を踏み外しそうになる。隠し道ということだけはあってか、階段等の手入れはほとんどされていない。

そんな階段を登りきると、そこには錆びれたはしごとその先には蓋のようなものが被さっている。俺ははしごにゆっくりと手をかけ、その足で慎重かつ確実に登っていく。そのすぐ後ろを追いかけるようにカリアもはしごを登っていく。

そして、蓋をゆっくりと開けると、そこには隠し部屋のような場所に着いた。辺りを見渡すと、人はいないようだ。誰かが近くで見張っている様子もない。

俺とカリアは危険がないことを確認し、蓋をゆっくりと閉める。その直後、隠し部屋の扉から誰かがこちらに近づいてくる足音が、かすかではあるがそれでもはっきりと聞こえてきた。


「誰かこっちに来てるな____。カリア、念のために戦闘の用意をしておけ」

「了解!」


カリアは瞬時に自分の鎌を手に持ち、音のするドアの方への警戒心を強める。直後、足音がパタリとやみ、ガチャッとドアがゆっくりと開く。

俺とカリアは警戒心を解かずに慎重かつ少しずつ距離を離していく。ドアを完全に開くと、きれいな正装の恰好をしたお店のオーナーが姿を見せた。


「お待ちしておりましたよ。花巻さん。カリアさん」


優しい声でこちらを攻撃する素振りもないので俺はカリアに鎌をしまうように指示する。

おそらく、この人が佳奈と事前に連絡してくれたお店の人なのだろう。


「あんたがこの店のオーナーで、佳奈から話は聞かされているってことで問題ないな?」

「えぇ、私はこの店『ル・メイヤー・サキ』のオーナーを務めています真下寛郎(ましたかんろう)といいます。既に水宮様から話は聞いていますので早速店の方へとご案内いたします」


優しく、丁寧な言い方で俺たちを上にある店の方へと案内していく。

階段を登りきると、お店に明かりはまだついておらず、まだ開店していない様子だ。


「ここのお店、昼は営業していないんだな」

「えぇ。普段は夜にしか営業しませんから。しかし、今日は特別に例外ですよ」

「それってどういう………」


俺が意味を聞くまでもなく、閉店して誰も入るはずのない扉が豪快に開かれる。扉の方へと一斉に目を向けると、そこには例の男が姿を見せた。


「お前、神崎か____にしても何でここに?」


昨日会って依頼について話したばかりの神崎がもう東京に着いていて、しかも佳奈が手配してくれたお店で会うことになるとは。もしかすると、これも佳奈が用意してくれたのだろうか。


「俺はあんたに伝言を言いに来ただけだぜ。まぁ場所に関しては情報屋から聞かされたが」

「やっぱりか。で、俺たちに伝言って?」

「わざわざ店の閉店時間で誰も来ないこの場所に呼んだってことは大体重要な伝言だってことよ。俺から一つ、帝明会のトップである唐岡大総裁(からおかだいそうさい)がお呼びだぜ」

「大総裁自ら? なんでわざわざ?」

「んなこと俺が知るわけねぇだろ。詳しくは帝明会本部に行ってから聞くしかねえな。俺は言伝を頼まれたに過ぎねえからよ」


東京について早々、いきなり帝明会のトップに会うことになるとはずいぶん展開が早い。まだ久しぶりに帰ってきた東京をまともに満喫すらしていないのに。まだ今日から2週間の猶予はあるとはいえ、初日からこれだと休む暇すらなさそうだ。


「悪いが俺も本部に呼ばれてるから先に失礼するぜ。後、言い忘れてたがここのマスターの用意してくれるワインはマジで美味いから飲んでいくといいぞ。じゃあな!」


神崎はドタバタした様子でお店を足早に出ていった。

本当に伝言だけをしていってまともに内容を聞けなかった。


「本当に嵐のように去っていたな。まぁ今日中に本部に行けばいいと言ってたから少し一杯、ワインを飲んでから行くか。マスター、一番のワインを頼む」

「そうくると思ってちゃんと用意していましたよ。はい、こちらがこの店一番のワインです。こうして出会ったのも何かの縁ですのでお題は結構です。良かったらそこのカリアさんも飲んでいきますか?」

「ワインか~。そういえば飲んだことないかも! じゃあお願いしちゃおうかな! マスター!」


カリアも初めて見るワインにどことなくワクワクした様子で椅子に座る。俺とカリアは、共に初めてとなるワインに舌先でゆっくりと味わう。今までワインのような高級なものを飲んだりしたことがなかった俺にとってはワインの風味も含めて全てが新鮮だ。無論、それは死神のカリアも一緒だった。

ワインを最後まで味わいながら飲み終えると、俺とカリアはそのまま休憩することなく出発の準備を始める。


「もう行くのですか?」

「あぁ。あんまり待たせても帝明会の人たちに失礼だからな。俺はそろそろ行くよ。ありがとな、マスター。また時間があったらここに寄らせてもらうよ」

「同じく! マスターの用意したワインめちゃくちゃ美味しかった! また飲みたいな! それじゃあまたね!」


俺とカリアが手を振りながら店を後にした。マスターは軽く手を振りながら微笑んだ顔をしながら


「行ってらっしゃい」


と一言だけ静かな声で呟いた。




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