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パーティーを追放された…けども?




「ユリィ!君には失望した!パーティーを抜けてもらうぞ!」




「はい?」


 いつものパーティー皆で打ち上げをする酒場。


 様々な人達が料理を食べ、酒を飲み、ワイワイと活気溢れる周囲とは反対に静かなパーティーメンバー達。


 そこでテーブルに拳を叩き付けながらそう告げられた私は、遅れてやって来た事も相俟って素っ頓狂な返事をする事しか出来なかった。




 ―――子供の頃からの憧れは、一冊の絵本から始まった。




 幼少期。母が寝物語に聞かせてもらった話がある。


 この国には魔族・亜人・人間が暮らしているが、何千年と言う前から魔族の頂点に立つ者である魔王と言う存在が、世界の全てを支配しようとしていた。


 そんな中、とある勇者のパーティーが魔王を討伐する為に立ち上がる。


 圧倒的な力の前に魔王は消え去り、世界に平和が訪れた。………そんな、ありふれたストーリー。


 それでもそれを寝物語に育った子供達にとって、強くてかっこいい勇者は憧れの職業となった。


 でも、私が憧れたのは………勇者の相棒である魔法使い。


 『最強の魔術師』と呼ばれた彼は、全ての魔法を操り、時には天変地異さえも引き起こしたとされている。


(かっこいい………!)


 そうだ、私は!


『さいこーのまじょになってやる!』




「はあああぁぁ―――………」


 どうも。回想から帰ってきました。昨日今までいたパーティーからクビにされた職業(ジョブ)・治癒師のユリィです。重めの溜め息と共にこんにちは!


 今は一通り感情の整理とかその他諸々を済ませて、冒険者ギルドでいざ!新たなパーティー入り!って張り切って来たんだけど…。


「パーティーに入れてくれ?嫌だよ」


「あんた、勇者様に捨てられたんでしょ?」


「そんな役立たず入れたところでな!」


 まさかの 全 敗 。


 ギルドにあるパーティーメンバー募集掲示板に『治癒師募集中!』って書いてあったパーティーに、声を片っ端から掛けていったけど…私が前パーティーからクビにされた事実の所為で全く了承してもらえなかった…。


 あああ!前のパーティーが有名なパーティーだったから!私がクビにされた話の広まりが早い!1日でこの知れ渡り様!!最悪!!事実だからしょうがないけどさ!!


 そんな私は今、ギルドの隅にあるテーブル席で項垂れていた。さっきの重い溜め息はこちらです。


 この先、どうすれば良いのか分かんなくなってきちゃったな…。


 ………―――そもそもの発端と言えば。




 思い出したくもない昨日の事が、まるで魔法によって再生されるかの様に色鮮やかに思い出される。


 私が所属していたパーティーは、メンバー全員がAランク。この辺では知らない奴はモグリだとも言われる勇者・リギア率いる『閃光の稲妻』だ。


 勇者とは、この世界の創生神話に出てくる女神・アレキリアから授けられる『職業(ジョブ)』の事。


 この世界の人達は、誰もが等しく10歳の時に国から定められた神殿で職業(ジョブ)を授かるのだ。


 当然職業(ジョブ)はその人のこれから歩むであろう人生をサポートする、強力なもの。リギアも勇者の職業(ジョブ)を持っているからこそ、強力な剣技と光魔法を得られたと言っても過言じゃない。


 職業(ジョブ)・勇者のお蔭で成長スピードも他の職業(ジョブ)とは違い速く、あっという間にAランクへと上り詰めてしまったリギア。


 …その彼に着いていけず、全く成長出来なかった私。


 テーブルを拳で叩いたリギアを見ていた他のパーティーメンバーも、事を理解すると冷ややかな視線を私に向ける。槍使いでスキンヘッドのジョイマンなんて嘲笑してた。


「俺は賛成だぜ?弱い奴はこのパーティーに必要無いしな」


 筋骨粒々とは彼の為にある言葉か。両肩剥き出しの茶色くて少し汚れてる服を着てる彼は、私にはないゴツい腕でビールジョッキでテーブルを叩いきながらそう言った。他の食事が少し浮いてたけどそこには誰も突っ込まないの?


 「そうだな。僕ももういい加減彼女を庇うのに必要性を感じなかったんだ。抜けてくれると助かるよ」


 茶髪のショートカットに柔和な笑顔を浮かべて、私に毒を吐く大盾持ちのルーカス。確かに彼は私を守ってくれる事があったけど、最近はその褐色の鎧を纏った背中を見る機会がとんと減っていた。何を今更感が凄い。


「そうねぇ。同じ魔法使いとして悲しくなる程雑魚だもんねぇあんた。報酬分配が勿体無いわぁ」


 大人の色気を態とらしく醸し出して血の様に赤く緩いウェーブの付いた長髪を弄る魔法使いのエリス。こっちは胸元があっぴろげに強調されてる上、ギリギリまでスリットの入ったスカートで素足を惜し気無く晒してるあんたを見てる度に『冒険者とは…?』ってなってたけどね。


「良いっすねェ!これで報酬も増えるし、厄介払いも出来る!俺等にとっては良い事尽くめでっさァ!」


 モスグリーンのボサボサ頭を引き千切ってやろうか?


 そう思わせる程人をイラッとさせるニヤつき顔でこっちを見てるのは狩人風な衣装を身に纏った弓使い、ケルリ。あんた偶に私の方に態と弓放ってたし、本当に私の事嫌ってたみたいね。


「すまないな、ユリィ。私も君の無能さにはほとほと呆れ果ててしまったんだ。このパーティーを去ってくれると助かる」


 一応礼儀正しく酷い事言ってるのは剣士であるアシアナ。戦場で目立つピンク色のポニテが今日も静かに揺れていた。銀の鎧に映えて何より。


「本当に…すみませんね、ユリィさん。私が貴女の出番を奪ってしまって…!」


 態とらしいしょんぼり顔を見せ付けてくるのは先月加入した聖女のフェリス。長くて綺麗な銀髪に白い聖女然とした衣装を身に纏ってる彼女は、誰が見ても美しいと思う。


 私?言ってるのが勇者の膝の上って時点で駄目かな!


 って言うか酒場の椅子の上でそれキツくない?絵面的には金髪碧眼の王子様面した勇者と銀髪の聖女だから良いとして。


 ………そんな事どうでも良いか。


 明らかに影で嘲笑ってるフェリスは見ててウザいけど、私がこのパーティーの中で1番役に立ってない事も事実。


 こうして私は、一言も言い返す事もせずアッサリとパーティーを抜けた。無駄な労力だと思ったから。


 ………只、少しの虚しさを抱えて。




 最初は良かった。皆私の話を聞いてくれていたし、治癒魔法を頼りにしてくれていた。


 でもそれだけ。


 私には攻撃の術が無い。


 10段階ある魔法レベルも2と低く、5段階しかない火・水・風・地・光・闇とある魔法属性のレベルも光属性以外1。


 唯一高いレベル3である光魔法も防御・支援・治癒魔法しか使えず、攻撃魔法が使えない。私の職業(ジョブ)は『治癒師』だから、別に問題は無い、と思ってたけど………。


「問題があるからこうなってるんだよなぁ」


 またまたギルドのテーブルに突っ伏して溜め息を吐く。そろそろ溜め息と共に重さでテーブルにめり込みそう。色々問題しかない現実に目が潤んできたや…。


 攻撃の術が無いから、治癒専門として募集の紙を貼っても誰も声を掛けてくれない。ならばと治癒師募集パーティーに声を掛ければ…この様である。


 心なしか私の尖り魔女帽子も萎びてるよ…。可笑しいな?これ安物しか置いてない雑貨屋で買った魔女帽子なんだけど、偶に私の感情を反映してるんじゃないの?って位の動きを見せるんだよね…。


 いや、今はそんな事どうでも良っか。今後の私の行動方針を固めなくちゃ、たけど………。


「っよし!」


 ちょっと休んだから気力が回復したし!それに当たり前だけど良い事も思い付いた!


 とりあえず漸くは私に見合う依頼を1人でこなして、地道に報酬で稼ぐ!元メンバー達に迷惑料とか何とかで折角稼いだお金半分以上持ってかれたしね!今思うと腹立つな殴りたい。


 で!合間で私を入れてくれるパーティーを探しつつ、修行修行!これで決まりね!


 ―――私には、叶えたい夢があるんだから!


 こう見えて立ち直りの早い私は、意気揚々と即行動を開始した。ギルドの依頼が貼られてる掲示板に向かったのだ。


 私の背より少し高目な大きさのコルクボードには様々な依頼が貼り付けられている。1枚1枚に依頼内容と報酬、対応出来るランクが記載されているんだ。


 因みに冒険者ランクはEから順に最高ランクのSまである。Sランクなんて国の英雄とかが付けられる伝説のランクだ。私なんかは到底及ばない。


 そんな中、私のランクは奇跡のD。どの辺が奇跡って?攻撃魔法が無いのにEより上な点よ!


 ………まあ、あのパーティーに所属してたから、実際はお零れで上がったようなもんだけどね。オマケ扱いと言っても過言では無い辺りが悲しい………。


 つ、つまり!私の実力をイコールで表してる訳では無いって事。


 さあ、ここで。Dランクの依頼を見てみましょう!


【スライムの討伐】

【ゴブリンの討伐】

【ワーウルフの討伐】


 死ぬわっ!!控え目に言っても死ぬわ!!


 精々私なんて防御魔法でバリア張って、隠遁魔法で姿を消すのが関の山。討伐依頼?無理無理無理無理!!


 因みに属性レベルが1しかない私の魔法は本当にちゃちくて。


 小さい火を付ける(マッチか)。


 指から一直線にチョロチョロした水を出す(水鉄砲の方がまし)。


 そよ風が一瞬吹く(夏の暑い時にも役に立たない)。


 地面が少し盛り上がる(躓いたら痛い石レベル)。


 暗闇で目が見える(これちょっと便利)。


 このレベルである。笑いたければ笑ってほしい。


 私個人のステータスレベルも駆け出し冒険者と同じ位の14だ。魔法使いの中でも超貴重な全属性持ちが聞いて呆れる。


 幾ら修行したところでステータスレベルが上がらないと魔法レベルも属性レベルも上がらない。唯一高い光属性の攻撃魔法も頑張って修行してるとこだけど…。


(杖から出た光がキラキラ光って終了するんだよね…)


 センスが無いのか、魔法使いとしての才能が無いのか。職業(ジョブ)は治癒師だしなぁ。


 まあそんな事、生涯の課題だけど今は置いといて。私が出来るEランクの依頼をチョイスしないと!


「あ、マルイスの森で薬草採集。ポリポリ草1つにつき1ゴールドかぁ」


 しょっぱい依頼だけど、安全且つ数に応じて報酬が上がる今の私にはこの上無い良依頼だ!これにしよ!


 依頼の紙を剥いで受付へ提出する。金髪でエルフの受付嬢は私の顔と依頼書を見て一瞬鼻で笑ったものの、直ぐ様にこやかな表情を浮かべて対応した。


 この受付嬢は私の事を以前から馬鹿にしていて、今更気になったりはしない。只明日の朝には天から生卵が降ってきて、そのお綺麗な顔を実装してる頭に直撃すれば良いのにと思うだけだ。


 天気も快晴。気分も多少は晴れやか!受付嬢から受け取った採集袋も片手に装備して、いざ!近くの森に薬草採集へ!




 やっぱり現実ってやつは甘くないのだ。


「あれ………ポリポリ草少な過ぎない…?」


 ポーションの材料にもなるひょろっと細長い見た目で緑色の葉っぱを揺らしてるポリポリ草は、常にギルドが求めている物。特に貴重でも無く、その辺の森にも多々生えてるからお手軽な依頼の筈なのに…!


 鬱蒼と木々の茂るマルイスの森に入ってすぐ20本程度見掛けた後、そこから全然見えなくなってしまった。な、何で…?


 魔物が少ない森とは言え、余り奥に入り過ぎると魔物以外の動物に遭遇したとしても可笑しくない。熊とか大きめの動物に遭遇するだけで私はアウトだ。


 だから、なるべく入口から近い所で採集をしてたんだけど、冒頭の通り全く見掛けなくなってしまった。


(これ…奥まで入ってみた方が良いのかな…?)


 でも万が一があったら…。


(お金と命を天秤に掛けても本当なら命大事なんだけど…どっちにしろ今の状態だと早々にお金が尽きて食べる物も買えなくなっちゃう!結局命の危機だ!)


 最悪お金が無くなれば森でサバイバルって言う手もあるけど、さっきも言った通り森で生き残れる気がしないので却下!スライムですら倒せない女だからね!


 ………あ、自分で言ってて悲しくなってきた。


 下らない自虐は止めて、森の奥へ進みますか…。どうか、熊とか猪とかに出会いませんようにっ!!私は美味しくありませんよー!!




「いやだからって、こんな事ある?」


 目の前には、私が跨げる程小さく綺麗な小川。


 …の、とても透き通って底まで見える水面に片手を浸けて側で倒れてる1人の子供。


 黒いフード付きローブを頭まですっぽり被ってるから、容姿は分からないけど…そのローブがボロボロで汚れてるから何か合って倒れてるんだと理解出来る。


 助けないと!


 すぐに意識を確認する為に声を掛けるけど、返事は無し。本当は動かしちゃ駄目かもしれないけど、生死の確認をしたかったから浸かってた片手を持ってゆっくり仰向けにした。


(………わ)


 顔に掛かる程長い前髪から覗く顔立ちはとても端正で、男の子か女の子か判別出来ない。ざっくり言えばすっごく可愛い!!


 フードの隙間から少しボサボサになってる短髪の黒髪が見える。黒髪ってこの辺だと珍しいな…。私初めて見たかも。


(息は…してる。気絶してるだけなんだ)


 でもローブからはみ出てる手足や頬も傷だらけで、魔物か何かに襲われたのかもしれない。急いでこの場から離れないと…!


 あ、その前に。


 収納魔法で消していた、大きな赤い魔石が付いている木で出来た私の身長と同じ位の杖を召喚する。そして。


「『ヒール』」


 魔力を込めて、地面をトンっと叩く。すると、魔石から白く柔らかい光が溢れ出てきて、子供に降り注いだ。


 光は子供の体に次々と吸い込まれ、みるみる内に傷を治していく。私の光魔法『ヒール』に掛かれば擦り傷切り傷何でもござれ!だ。


 自慢じゃないけど、欠損した傷だって治せちゃうんだからね!えっへん!


 じゃなかった!この子!早く宿で休ませてあげないと!


 闇魔法『浮遊』を使って私の背中に背負う。う、ちょっと重い…。ずっと『浮遊』を使っていればこんな思いしなくても良いんだけど、魔法レベルの低い私の『浮遊』だとすぐに切れちゃうんだよなぁ。


「頑張れユリィ…!ファイトおんどりゃっ!!」


 ここで根性見せないでいつ見せんのよ!見る人いないけどね!




「………んぅ………?」

「あ!気が付いた?」


 ベッドの縁に凭れ掛かって転た寝をしていた私は、そのベッドに眠る主が目を覚ました事に気付いて声を掛ける。


 すると、ゆっくり目を開けた子供は、窓から入ってる光が眩しい様に目をシパシパ瞬かせて、声を掛けた私の方を視線だけ動かして見た。


「おねえさん…だれ…?」

「私?私はユリィ!冒険者『治癒師』のユリィよ!貴方は?」

「ぼく…?ぼくは………クロ。あとは………わかんない」


 分かんない?分かんないって何が?


 まさかこの子、記憶喪失だったりする!?


 嘘でしょ!?魔物(仮)に襲われた上、記憶を失くしてんの!?悲劇の二重掛け!?どころかサンドイッチ!?


 予想してなかった事態に冷や汗ダラダラな私だったけど、目の前の子…クロちゃんにここは何処なのか?と尋ねられたから慌てて答える。


 ここはマルシナ王国の西側に位置する町、イージョア。


 冒険者ギルドを持つこの町は立ち寄る冒険者達によって栄えてきた町だ。だから商店は勿論の事、宿屋も色んな種類がとてもあって冒険者達には有り難い。


 今いる宿屋は市場のど真ん中に合って素泊まり限定だけど、冒険者なら格安で泊まれる宿だ。


 昨日急に来て一ヶ月部屋を取った私を不審に思わず、快く部屋を貸してくれた時には久々に人の優しさに触れて泣きそうになった。…あっちは商売だけどね。


 合わせてここまで来た経緯も話すけど、その間クロちゃんの視線は私に固定されたままだ。こういう時って普通天井とか眺めない!?こういう時の普通って知らないけど!!


 うぅ…あんまり人に顔をじっと見られるのは慣れてないんだ…。だって私、髪も瞳も茶色で、髪型ですらパッとしなくて腰までの髪を首元で括ってるだけ。


 服装だって魔女を意識した黒い尖り帽子に、冒険者達がよく来てる白いシャツと茶色いズボン。その上に魔女っぽい黒い長目のローブを着て、茶色いブーツを履いてさっきの杖を携帯してるんだ…。


 何が言いたいかって…?


 地味。


 圧倒的に!地味!なのよ!!同じ年頃の女の子達に比べたら!!


 良いのよ!魔女だから地味で!お洒落なんてしてる暇も無いしね!


 だけど、いくら開き直っててもそんなに見詰めないで欲しいのが心情なんです…。慣れてないから!


 何となく視線を泳がせてると、クロちゃんが悲しそうな顔をしたから再び目を合わせる。子供の悲し気な表情に弱いのでそれほんと止めて下さい!!


「そうなんだ…。ぼく、これからどうしよう………」

「と、とりあえずギルドで捜索願出してみる?心当たりのある人探してます的な感じで」


 自分を知っている人を探す逆捜索願になる訳だけど。まあ何とかいけるでしょ!人探しは冒険者達の十八番だしね!


 けど私の提案にクロちゃんは再び暗い表情になった。え!?何で!?何かあった!?


「でも………ぼくがして、だいじょうぶかなぁ…?」

「え?何で?」

「だってぼく………




 まぞくだよ?」




 それは知ってる。


 この宿に運んでベッドに寝かせた時、被ってたフードが取れたから…見えてしまったんだ。


 魔族、亜人の証である尖った耳を。


 確かに昔から魔族の印象は悪い。他の亜人と比べて人を襲う種が多いからだ。


 でもそうじゃない魔族も多々いて、その人達は人間や他の種族に混じって普通に生活している。だから魔族に偏見と恐怖を持つ者は限られてると思うけど…それでも0じゃない。


 そこを懸念してる訳か。納得。


 ………過去に酷い扱いを受けてたのかも。自分を魔族だって明かした時、少し震えてた。


 大丈夫。


「ギルドは『どんな種族でも平等に』を経営理念として掲げてるから、依頼主が魔族だからって突っぱねたりはしないよ」

「ほんと?」

「ほんとほんと!一応これでもギルドに登録してる冒険者である私が保証するから!」


 レベルと地位的には最底辺だけどね!保証するだけは出来るから!


 そうやって自分でも悲しくなる位無い胸を張って言うと、クロちゃんは目をパチパチ瞬かせてから、すっと細めて。


「………ありがとう、おねえさん」


 ふんわり、と。


 花が綻ぶ様な………優しくて、柔らかい笑顔で微笑んだ。


(美少年(?)の笑顔、浄化されてしまう………)


 眩し過ぎて見えない…成程、これが噂の最上級光魔法、か………(違うと思う)。




 ギルドにはクロちゃんの体調が調ってから行く事になった。当然と言えば当然だけども。


 病み上がりの今日はゆっくり休みなさいって伝えた後、昼食に用意してたジャガイモのスープを美味しそうに飲ませた。小さめのスプーンを使ってチビチビ飲んでる姿は大変可愛らしかったとここに記載しとく。


 飲み終わった後は、ベッドにゆっくり横にして柔らかい髪質の頭をつい撫でてしまった。はっ!嫌がられてないかな!?


 勢いよくクロちゃんの表情を見ると、また嬉しそうに微笑んで、すっと眠りに落ちてくれた。お疲れだったらしい。


 私はその笑顔が可愛くて可愛くて思わず自分の胸が締め付けられる感覚に襲われてしまった。ぐっ!こ、これがもしや『ときめき』………!?


 宿屋の3階から1階へ下りて、食堂に食器一式を返す。素泊まり限定だけど、自分で材料を持ち込んで料理を作る分には食堂にある厨房を借りて良いんだ。


 旅をしてる時、私が野宿するパーティーに簡易的な料理を振る舞っていた事を思い出す。最初は凄く感謝されたけど、途中からは出して当然みたいな態度になってたな…。技術だけは磨かれたからそこだけは良かったけど。


「女将さん。お皿とスプーンありがとうございました。洗って拭いておきますね」

「ああ、良いよ。あたしがやっとくから、あんたはあの子の側にいてやんな」

「お、女将さん…!ありがとうございます!」


 茶髪を高く結い上げ、布巾で纏めている女将さん。恰幅の良い体型と白いエプロンがまた似合ってる。肝っ玉お母ちゃんって感じがして良いなぁ。


 ご厚意に甘えて、食器類を女将さんに渡す。何だかお母さんに頼ってるみたいで、少しの申し訳無さとほっとする安心感があるや。


 宿屋の食堂は夕方に近いこの時間には誰もいなくて、女将さんがテーブルを拭いてるだけだ。昼間は色んなお客さんが来てて繁盛してた分、雑音が無いと少し寂しい。


 何だか物悲しい気分になったけど、切り替えてクロちゃんのとこに戻らないと!今は私しか頼りになれる人がいないんだから、しっかり支えてあげないとね!


 胸の前で両手の拳を握って改めて決意した。


 その時だった。




「キャアアアアアアアアアアアア!!」




 宿屋の表通りから耳を劈く様な悲鳴が木霊する。


 咄嗟に冒険者としての反応が出たのか、一階を駆け抜け表通りに飛び出す私。すると、そこで目にしたのは地面にお尻を付けて座り込み、恐怖で震えながら空中の何かを指差す女性が。


(さっきの悲鳴は彼女か)


 周りの他の人達も冷や汗を流したり体を震わせたりと、目に見えて何かに恐怖している。明らかに市場には異質な何かがいる。


(一体何が………っ!)


 女性や皆の視線の先を急いで辿ると、そこにいたのは………!


「ワイバーン………っ!」


 最悪だ。Aランクモンスターであり、Sランクモンスターであるドラゴンの系統とも呼べるワイバーンが街を襲おうとしてるのか!


 黒々としたトカゲの様な質感の肌とそこからニョキリと伸びている手と連なる翼。ドラゴンと違い長く伸びた首とそこにある蛇の様な顔でこちらのをじっと睨み付けている。


 まだ攻撃の意思は無いけど、あれは平時の状態じゃない。ワイバーンの機嫌は分かりやすく、通常だと目の色は黄色なんだ。


 でも今のワイバーンの目の色は赤。


 赤は………攻撃の意思がある程、怒ってる。


「キュエアアアアアアアアアアアア!!」


 ワイバーンが女性に向かって降下してくる。ブレスや火攻撃を行わないワイバーンは、接近戦が得意だ。


(マズイ!)


「『ホーリーシールド!』」


 女性の前へ躍り出て光の防御魔法を展開する。杖の魔石が白く光り、薄い膜の様なバリアが私達を覆った。


 急降下して来たワイバーンは急に止まれず、大きく振り上げられた右腕はバリアに当たり、攻撃を僅かに跳ね返した。…まあワイバーンの体は岩に例えられる程丈夫だと言うし、余り効いて無さそうだけど。


 案の定、今のバリアにイラッとしたのか、耳障りな雄叫びを上げて何度もバリアに攻撃してくる。引っ掻いてみたり、噛み付いてみたり。


 でも私のパリアの耐久力を舐めないでほしい。これ位の攻撃なら暫く持つな。


 チラッと庇ったお姉さんを見ると、さっきの座った状態のまま、頭を地面に付けて気絶してる。頭打ってるよねこれ?終わったら『ヒール』しとこ…。


 周囲も見渡すけど、ワイバーンを恐れて逃げたのかさっきまで沢山いた人達が誰もいない。皆逃げ足が速いなぁ。


 宿屋に滞在してる冒険者も高レベルモンスターの出現に逃げ出したみたいで、新たな冒険者が来る気配も無いから………討伐出来るのは私しかいない。


 そう、『()()()()()()()』私しか。


 だから、まあ。


(………するしか、無いか)


 ほんとは不本意だけど…仕方無い。


 魔術はそのまま維持して、掲げていた杖を私の前に戻す。そして、それを逆さかにした。


 すると、先端の魔石からキラキラした白い星の様な光が出てきたかと思えば、それが私の頭上へと辿り着き、大量の光がシャワーの様に降り注ぐ。


 ………この『力』は未だ嘗て一度しか使ってないから、全く慣れないな………。


 光が消え去った後には………私の装いは一変。


 髪はポニーテールで一括りにされ、髪留めにはオレンジのリボン。


 胸囲を守る金色に光る軽装備の鎧に、水色の半袖ワンピースと、茶色い剣を腰に装備出来るベルトがぐるりと一周してる。


 下着の見えない様配慮なのか下には黒いスパッツと、純白でシンプルな装飾のジョッキーブーツ。首元を覆い背にはためくマントは深海を思わせる様な紺色だ。


 更に杖は…剣にその形を変えていた。


 中央を赤い魔石がダイヤの形で彩っており、柄頭や両鍔先にも散り散りに配置されている。


 金に輝く柄も然る事ながらその刃は…天空をも切り裂くと語られる程鋭い。


 聖剣『イクシリール』。


 そう、『()()』としての私が…そこに立っていた。


「ごめんね、ワイバーン」


 剣先を片手持ちの状態で下げて構える。私の変貌に身の危険を感じたのか、ワイバーンはバリアを攻撃する事を止め、空中に飛び立とうとしていた。


 ―――でも、それは無意味な事。


「『神速剣』」


 勇者が使用出来る支援魔法『神速剣』は、相手の懐や願った場所に瞬時に移動出来る。つまり。


 ワイバーンの喉元の横、なんて。一瞬で可能だ。


 一閃。


 光が差すのと同じ刹那、私の斬撃によりワイバーンの首は意図も容易く離れていった。


 降下していくワイバーンの体を蹴って、難無く私は地面に着地。落下した体を背に、剣に付いている血を地面に振って払うと浄化魔法である『エクストラリフレッシュ』を発動して清めておく。


 …因みにこの魔法。光属性浄化魔法の中でも最上級である事は余り直視しない。してはいけない。


 聖剣を鞘に納めて再び逆さにすれば、いつもの冴えない私に早変わり。あー、久し振りにああなると疲れたなぁ…疲労感が凄いや…。


 宿に戻って私もゆっくり休もう。後は駆け着けて来るであろう冒険者達がどうにかしてくれるでしょ。


 大きく伸びをして、さっき出てきた宿の方を向く。女将さん達やクロちゃんは避難してるかな?




「おねえさん」




 ぅえ?


 今…聞いちゃいけない声が聞こえた様な気が…!


 伸びをした姿勢のまま固まり、宿の入口に視線だけ動かして見る。そこにいたのは………やっぱり、フードを被ったクロちゃんだった。


 見、見られた!?もしかして見られた!?


 待て待て待て待て!!落ち着け私っっっ!!見られてない可能性だって0じゃない!ほら見て!あの子の顔を!


 ほらあんなに!あん、なに………憧れの戦士を見る様な目で輝いてますね―――。


 キラキラです。キラッキラ!です!!満点の星空よりキラッキラです!!


 こ、これは、まさか………!?


「…おねえさん、ゆうしゃだったんだね!」

「やっぱり見てたああああああああああああ!!」


 目撃者がいた事実に只私は絶叫した。頭も抱えた。ちゃんと周囲を確認したのに!!何てこったい!!




 最高の魔女になりたい私ですが、実は『勇者』です!だなんて。




「とんでもない悪夢だから否定させてぇ!!」




 初めまして、こんにちは!井ノ原咲と申します!


 人生初のオリジナル小説です!楽しんで頂けると幸いです!

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