#6 恋の矢印
「ねぇ荒井さん。ちょっといい?」
例の弟が私に話しかけてきた。
今は昼休み。ちょうどやることが終わって、とりあえず次の教科の用意をして、廊下にでようと思ったところだった。
というかなんで葛城弟さんが私にまた…?
「佐藤先輩のことで話がある」
「え?」
何を言ってるのかと思ったけど、相手は何やらいつも通りに真剣な顔をしていたので、「何?」と聞いてみた。
「ここじゃあれだから、ちょっとついてきて」
「う、うん」
私は急いで葛城を追いかけた。廊下にはいつも一緒におしゃべりしているメンバーはいなかった。少しゴメンと思いながらも、何事もなく目的地であろう屋上の入り口についた。
ここの屋上は特別な時意外は閉鎖されている。よって屋上の入り口はただの踊り場である。
「とりあえず、座りな」
葛城はよいしょと階段から見えないところに座った。私は一番葛城から離れている場所に座ろうとしたが、それだで嫌な雰囲気になったら気まずいので、気持ち予想よりも葛城に近いところに座った。よく分からないと思うが、簡単にいえば、葛城が左斜め前の位置に座ったということだ。
ちなみに私は初めてくるところだ。こういうところは、不良と呼ばれる人たちが集まる場だと思ってるから。
「あ~、安心して。俺ほぼ毎日ここで昼寝してるけど、誰も来たことないから」
…寝てるんじゃ分んなくない?
「それに兄貴いるから、先輩たちも手ぇだしてこないし」
うわっ…。
そういうのはどうだと思うよ。
というか睦月先輩の話は…。
「で、睦月さんの話なんだけど」
「睦月さん?」
その呼び方は初めて聞いた。
「…なんか普段はそう呼んでるからさ。気にしないで」
普段は睦月さんなのか。
「俺さ。近所だし、幼馴染の中で一番年下って事もあってよく睦月さんに相談されるんだよね」
あの睦月先輩が…?
珍しい。ってか羨ましい。
そういえば、葛城兄弟と生徒会長と睦月先輩は幼馴染だっけ。
「…それで、このことは他には漏らさないで欲しいんだけど」
「……わかった」
なんだか嫌な予感がした。
「睦月さんは、浜内先輩のことが好きなんだ」
え?
空気が止まった。
それを、
「…なんで私に…――?」
「だってお前、睦月さんに惚れてるんだろ?」
「…え?―…えっ!?…と、な、んんで知ってっ…?」
私はこれまで以上にテンパってしまった。
なんで知ってるの?葛城弟。
顔が真っ赤なのは自覚していた。
「は?そんなのわかるだろ」
「…そんなにわかりやすかった…?」
だとしたら友達にバレてるかもしれない。
「だーかーらー。夏祭りの時に、お前があの二人見てたのを俺が見てただろ」
葛城が続ける。
「その時に、すげぇわかりやすい目で見てたから」
「わかりやすい…?」
「ん。なんか絶対に惚れてるな。って感じの…だからてっきり兄貴に惚れてるのかと思って…――」
そこまで言うと、葛城はハッとなって、少し居心地の悪そうに目を泳がせた。
これは珍しい光景だな。
もしかして、
「…お兄さんのこと…結構好きなんじゃ」
「う、うるさい…っ」
葛城はうつむきがちに言った。すこし可愛く思えてくる。
あ、これがツンデレか。それとブラコン。
私がクスっと笑うと、葛城も笑いだした。
意外と優しくて馴染みやすいなと私は思った。
だから、睦月先輩はあれこれ葛城弟に相談していたのかもしれない。
◆
私はその日の部活で、昼に葛城と話したとき以上に現実を実感していた。
睦月先輩は本当にいつも通りだった。もちろん浜内先輩と話すときも。ずっと。
それを見ていると、ずっと気持ちを秘めていたのか。いつから好きだったのか。
どのくらい、好きなのか。
そして浜内先輩の方も気になる。
浜内先輩は女のひとを好きになったりするのかな。
浜内先輩の好きなひとは誰なのか。
もしかして、睦月先輩だったりするのかな。
ドキドキして仕方がなかった。
そして同時に、自分がどんどん惨めに感じてきた。
こんな私が、睦月先輩を好きでいいの…―?
もし浜内先輩が睦月先輩を拒否したら?
睦月先輩はどうなるんだろう?
こっちが心臓が潰れそうになる。
結局、その一週間、このもやもやした気持ちに悩まされたのであった。
久々でスイマセンっ!!待ってくださった方、ありがとうございます。
これだけ期間があいていたので、書き方とか変わってて読みにくくなってたら…どうしましょうね。続きは早めに更新するつもりです。