#4 葛城海斗
昨日の夜はとても晴れたというのに、今日の雲行きは怪しかった。
昨日は少しショックを受けて、眠れなかった。
睦月先輩が、まさか…、付き合っている男の人がいたなんて…。
今でも胸が苦しい。
「ったくもぉ〜。昨日はもう眞由と会えないのかと思ったよぉ〜」
「……え、…あっ、ゴメンごめんっ!」
美恵の会話に、私は反応するのが遅れた。
「でも、合流できたんだから、よかったよね」
優佳が会話に入る。
「まぁね、そう言えば、今日体育で卓球やるんだよっ」
卓球部の美恵は嬉しそうにいった。美恵は卓球部の中でも、強い方で、シングルスでも、ダブルスでも、いい成績を残していた。
「美恵ちゃんは得意だからね。私はダメダメだと思うけど」
「そんなことないって〜」
2組の美恵と1組の優佳は体育は合同授業である。
「私はいいもん。沙紀ちゃんに教えてもらうから」
沙紀とは、美恵とダブルスを組んでいる仔のことで、3組である。沙紀も美恵に負けず劣らず、卓球がうまいのだ。
そこで、美恵が反論してくる。
「ちょっと、冷たいこと言わないでよぉ〜」
皆の笑い声が飛び交う。このままなら、私の胸のモヤモヤも忘れるかもしれない。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムがなった。もう着席しろという先生の声が廊下に響く。私達は廊下での井戸端会議を中断してそれぞれのクラスに戻った。クラスの中にも仲のいい人はいるのだが、この朝の井戸端会議ははずせない日常だった。
私は教室に入る間際、昇降口がある方の廊下を見た。
あの、葛城海斗が先生にいつものように注意されながら、数人と小走りでこちらに向かっている。
……楽しそうだな…。
そんな印象だった。一応、チャイムが鳴り終わるまで教室に入らないと遅刻扱いになるのだが、あんな満面の笑みだと、そう思うしかなかったのだ。
基本的に、私は男子には興味を示さないのだ。でも、昨日のことは少し気になった。
…そんなことどうでもいいかと自分に言い聞かせ、静かに着席した。
チャイムが鳴り終わる丁度に、葛城が無言で入ってきた。そのさっきとは違う表情に、私はなぜだか親近感を感じた。
――――なんでだろう?
◆
「昨日花火大会にいってた?」
「え?」
HR直後、葛城は友達のところに行こうとした私の元にきて、突然話しかけてきた。
「…うん、いったけど?」
「そっか、…なんであの2人を見てたの?」
気づかれていた。先輩を見ていることに…。私は少し焦って、うつむきがちになってしまう。
どう言えばいいのだろう。えぇっと―――――
「…部活の先輩、だから?」
「……は…?お前…」
葛城は質問してきた時の冷静さを少し欠いていた。どうやら私が言った答えは的外れだったのかも知れない。
「ご、ごめんっ!なんか違った?」
「…あ、いや……」
葛城が少しもごりながらいった。
「つまり、お前は、佐藤先輩をみていたんだな?」
「え?…そうだよ」
「ならいいや」
葛城がそのまま立ち去ろうとした。
――――もしかして、この人、睦月先輩の隣にいた人を知ってるの?
「待って!!」
そう思うと、すぐに言葉を発してしまった。葛城が再びこちらを向く。
「…何?」
「うんと…、あの時、睦月先輩といた人って…だれ?」
私は答えに少し緊張しながら聞いた。葛城の「知らなかったの?」という問いに、私が小さく頷くと、葛城は口を開いた。
「3年4組の葛城陸斗…―――」
葛城…?
「――俺の、兄貴だ」
兄貴!?
そっか、お兄ちゃんだったのか…
それさえも知らない私には少し驚きだった。でも、それを知って、何かが変わるわけでもなかった。
葛城が黙っている私をみて、もう一つ付け加えた。
「ちなみに、兄貴と佐藤って女の先輩はつきあったりはしてねぇーよ」
「!?」
私は驚いた。
「だから、荒井は安心しろよ」
葛城が私に向かって優しく言った。
驚いたあまりにいままで溜まっていた涙があふれてきた。
少しホっとした気持ちにもなったのかも知れない。
「…うそっ……ホント、に…?」
涙で視界が揺れた。
「お前、何泣いてんの!?」
さすがに、葛城も今まで以上に焦ったみたいで、私は「なんでもない」といいながら、とりあえず保健室につれてってもらった。
でも、なんで葛城は安心しろなんていったんだろう。
……あんな顔で。
いつもの葛城には考えられない表情だったのかも知れない。
それには、私がさっき感じた親近感に関係あるのかもしれない。
その後、私は2時限目からの授業参加となった。
空に浮かぶ雲は、今にも泣きそうだった。
更新遅くなってすいません!
次回をお楽しみに♪