#3 花火と浴衣
辺りはもう暗闇で、小さい灯りたちがぼんやりと照らしてくれるのがわかる。
夏の、ムシの鳴き声も聞こえないくらいの人混みだ。
やはり、夏の祭りとなると、こんなにも大勢集まるものなのか…と、確か去年も思ったようなことをまた思う。
「二人とも待って…ッ!!」
優佳が突然声を上げた。
「どうしたの、優佳」
美恵が返事返す。
「あの、ちょっとやってってもいいかな?」
みると、優佳の目線の先には『金魚すくい』の屋台があった。祭りの定番中の定番である。
「あ、私もやりたいな」
美恵もやる気まんまんらしい。
「…私はいいや。家で飼えないからね」
「そっか…、じゃあ早速やろうぜ、優佳!!」
「うん」
祭りということもあって、二人ともテンションが上がっている。
私のテンションが上がらないのは、たぶん…。
着慣れない浴衣を少し直しながら、私はあたりを見まわした。
自分でもわかってる。
探してるんだ、先輩を。
早く浴衣姿の先輩を見たい。
見たい。
先輩を。
「おじさん、もう一回!」
美恵がもう一回金魚すくいをするようだ。
◆
パァン、パァンと、花火がなっている。
熱い祭りも、いよいよ終わりに近付いていた。
その時、
ふと、見えたような気がした。
そのまま私は歩みを遅くする。
前の2人はそのことに気づいていない。
すぐに2人の姿は人の壁で見えなくなっているのに、私は気が付かなかった。
睦月先輩がいた。
いつもと違う髪形をしていて、浴衣もきていて、きれいだった。
胸がときめく。
そして、隣に目がいく。
先輩の隣に……少し見たことがある男の人がいた。きっと、同じ学校の先輩だろう。
2人とも笑顔で、
幸せそうだった。
こちら気づいていない。2人とも。
気付いて、先輩。
ホントは気付いてほしい。
いつも気付かれないようにしてるくせに。
そのまま、先輩たちが通り過ぎていく。
すると、反対側にいた男子と一瞬、目が合ってしまった。
見覚えがある顔だ。ちゃらちゃらしいて、パッと見ると、絶好の美少年なのに、口を開くと、絶対に印象が悪くなるんだ。
そうだ。
あれが、葛城海斗だ。同じクラスの。
パァン、パァンと、花火がなっている。
美恵と優佳を見失ったことに、私は気づいた。
つづきます