#2 先輩
先輩の名前は、 佐藤 睦月。
先輩は自己紹介などでよく、「下の名前で呼んでくださいね。」と笑顔で言うので、私も気軽に「睦月先輩」と呼べるのは、本当にうれしいことだ。
先輩は、私よりも背が低い。一見、わんぱくそうに見える外観だが、声を聞くと大人しいのがよくわかる。ピアノも上手だし。
一年生の初めのころはあまり意識していなかった存在だった。同じパートの先輩というだけだった。でも、毎日、先輩の声を聞き、先輩の横で歌って、先輩の事を知ってしまった。
今はもう、たまらないくらいの 大好き なのだ。
◆
「そう言えばさぁ、皆、今度の花火大会何でいくのぉ?」
パート練習中に、ふいにパートリーダーの浜内先輩が聞いてきた。そう言えば、今週末に近くの大きな公園で花火大会があるんだった。そう言えば、美恵が誘ってくれたような気がする。
その時、音取りのためにピアノのところにいた睦月先輩が少しピアノに触れながら、口を開いた。
「私は浴衣だよ」
「そっか、むっつ〜は浴衣なんだ」
むっつ〜というのは睦月先輩のことで、浜内先輩だけの特殊な呼び方だった。
睦月先輩の浴衣姿を見てみたい気がする。
「じゃあ荒井ちゃんは?」
浜内先輩が私に直接質問してきた。
「…えぇと、浴衣ですかね」
「浴衣2票!!じゃあ次は…ゆーは浴衣だから……めぐちゃん!!」
「はい…、私も浴衣です」
「おっと、浴衣人気だねぇ。これじゃ、わしも浴衣かしらねぇ」
どうやら順々に聞くようである。ゆー先輩は浜内先輩と仲がから、きっと一緒に行くんだろう。
睦月先輩は誰と行くんだろう。浴衣で。
違うパートの人かな?同じクラスの人かな?それとも、もっと別の。
私は知らない。
睦月先輩に彼氏がいるはいないかということを。
だって、聞けないし。
話題にも出ないし。
もしかしたら、恐いのかもしれない。
女の私を拒否されたみたいだから
◆
結局、私は先輩のことが気になって、美恵たちと一緒に浴衣で花火大会に行くことになった。
次はちょっと展開がありますっ!