世界に混乱を齎すモノ
人間という生き物は非常に興味深い。
太古の昔から人間は幾度も繁栄と衰退を繰り返してきた。
繁栄の裏には無欲な人間の積み重ねがあり、衰退の裏には強欲な人間の愚かな所業がある。
私は様々な時代の人間を観察してきたが、今回目に留まった少年は非常に面白い存在だった。
――もし自分に力があれば不幸なことは起こらなかったのではないか? と、そんなことを真面目に考えていたのだ。
馬鹿らしい。有り得ない話だ。あまりにも馬鹿らしい。
歴代の英雄や勇者でも考え付かないようなことだ。
少年は英雄でも勇者でもない。
実に愚かだ。自身の立場を弁えていない、分不相応な思考だ。
しかし、これだから人間は面白い。
自身の身の丈に合わない分不相応な欲。
まさに――《強欲》だ。
私の思いが漏れ出たのか、少年の“中”に《強欲》が芽生える。
おっと……久々にやってしまった。
私の思いから芽生えた《強欲》は、少々質が悪い。
“器”となった宿主が魂に掛かる負担に耐え切れず、死んでしまうのだ。
しかし――少年は死ななかった。
私は予想外の結果に魂の高揚を感じる
「適応者か……」
いったい何百年ぶりだろう。最後に《強欲》によって文明が滅んだのは大体三百年前だから……三百年ぶりくらいか。
三百年ぶりに現れた“器”を注意深く観察する。
その魂には幾つもの綻びがあり、かなり歪な形状をしている。
「稀にいる神の造った欠陥品かな」
神の造った欠陥品とは、不完全な状態で生み出された人間の総称だ。
そういえば……神の造った欠陥品の結末は実に面白いものだ。
ある者は勇者と呼ばれるイレギュラーになり、ある者は魔王と呼ばれるイレギュラーになった。
これらの人間に共通している点は、世界に大きな混乱を齎したという点だ。
文化の繁栄や衰退。新たな種族の誕生、既存の種族の絶滅。
神の造った欠陥品が世界に齎す変化は非常に面白い。
もしかして……この少年も世界にナニカ変化を齎す存在に成り得るのではないか?
例えば、そう。私の《強欲》を継承させることで、世界を大いに混乱を齎す存在に。
「……良い」
《強欲》によって掻き乱される世界。面白そうじゃないか。うん、最高だ!
私は少年の中で肥大化し続けている《強欲》を確認し、ニヤリと嗤う。
「……素晴らしいッ! 永い間、退屈だったんだ。どうか私を楽しませてくれよ」
醜く愚かなニンゲンよ。
毎日更新。完。……気分で続き書くかも?