誅殺
少年――否、マモンは時が動き出すと同時に違和感を覚えた。
――ゲスファーが自分よりも小さいのだ。時が止まる前は自分の倍以上の身長があったはずのゲスファーが自分よりも小さいという現状に、マモンは首を傾げた。
「テ、テメェッ! 何者だッ!」
「? お前いったい何を……」
ゲスファーの言っていることが理解出来なかったマモンは、しかし自分の声を聞き言葉を止める。
自分の発した声が自分の知っている声と違ったのだ。その声は寧ろ、先ほどの暗黒空間で出会った天使のような存在の声。
視線をゲスファーから自分の手へと移すと、マモンの視界に入ってきたのは自分の知っているものとは違う大きな手だった。
「クソがぁッ!」
ゲスファーが落ちていた斧をマモンに投擲する。斧は真っ直ぐにマモンへと飛んでいき――マモンに到達する前に弾かれた。
「は…………」
間の抜けた声がゲスファーの口から漏れる。大男の呆けた様は実にみっともないものだ。
一方マモンは、平然とした様子で結界に弾かれた斧を眺めていた。
マモンは首を傾げる。結界によって物理攻撃が自分に効かないという事実は広く知れ渡っている……常識のはずだ。
「……?」
自分の知らない知識が脳裏に溢れてくる。自分の知らない力が内から溢れ出てくる。
全ての願いを力尽くで叶えられそうな全能感に――マモンの顔が歪んだ。
マモンがゲスファーに向かって一歩踏み出す。
ゲスファーは目の前の化け物から一歩後退る。
「来るなッ!」
ゲスファーが足元に落ちていたナイフの刃をマモンへと投げつけるが、その刃もマモンの結界に弾かれてしまう。
「……化け物がッ」
ゲスファーがマモンに背を向け走り出す。
マモンは為す術もなく自分に背を向けたゲスファーに向かって手を伸ばした。そして伸ばした手をギュッと握る。
次の瞬間――ゲスファーが血を吹いて倒れた。
マモンは倒れて動かないゲスファーにゆっくりと近づいていく。ゲスファーの目の前で止まったマモンは躊躇なくゲスファーの顔面を殴りつけた。
何度も、何度も、何度も。。一発殴ると、ゲスファーの顔が剝き出しの地面に陥没する。骨が折れて顔の形が変わっても、マモンはゲスファーの顔を殴り続けた
地面に陥没し、顔の潰れた死体を見下しながらマモンはポツリと呟く。
「……あの子は喜んでくれたかな」
死にかけていた自分に太陽のような笑みを向けて助けてくれた命の恩人。
彼女の無念が少しでも晴れたなら……。
マモンは明るくなってきた空を見上げながら、少女が向けてくれた太陽のような笑みを思い浮かべていた。
毎日更新。完結っぽい? そんな雰囲気が漂っている……。