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犬と尻尾

作者: 青水

 最近、姉夫婦が引っ越したらしい。彼らが住んでいたのは、3LDKの小綺麗な賃貸マンションだ。そこで姉と夫と娘の三人で暮らしていた。私も何度か訪れたことがある。なかなかに良い立地だと思う。マンションが建っているのは閑静な住宅街で、そこから一〇分強歩けば繁華街につく。三人で済むには十分すぎる広さの家だ。

 どうして引っ越したのだろう? 姉や夫が転勤というわけでもないのだ。

 私は姉に尋ねてみた。

「犬を飼いたかったからよ」

 犬?

 彼らが住んでいたマンションでは、ペットを飼うのは禁止されている。犬や猫はワンワンニャーニャーと騒がしく鳴くのだから、近隣住民に迷惑がかかる。ゆえに、ペットが飼えるマンションはそう多くはない。

 私はペットを飼おうと思ったことがないので、犬を飼うために引っ越した姉一家の気持ちはわからない。別に人間以外の動物が嫌いというわけではなく、動物を飼うのはとても大変だろうから、私は飼わないというだけの話だ。

 彼らが引っ越したのは、住んでいたマンションからそう離れていない一軒家だ。間取りは同じく3LDKで、前のマンションよりかはほんの少しだけ面積が広い。家賃も少しだけ高い。雑草が茫々と茂った小さな庭がおまけとしてついている。

 飼い始めた犬は、トイプードルのオスだった。オスのほうがメスより面倒が少ないだとか。私にはよくわからない。トイプードルはトップクラスに人気な犬種らしい。もさもさと生えた茶色い毛はあまり抜けず、部屋を頻繁に掃除しなくても済む。犬種によっては毛が大量に抜けるものもいるらしい。

 私はある日、彼らの家にお邪魔した。

 呼び鈴を押すと、犬が訪問者に対して警戒からか吠えた。姉がドアを開け、私は家の中に入った。犬は当初、私に対して強い警戒心を抱いていたが、そのうち姉一家と近しい関係にあると気がついたようで、私に対して少し気を許した。

 犬はポーカーフェイスだった。姉の娘のように、ころころと表情を変えない。ずっとむっつりとどこか不機嫌そうな顔をしている。もしかしたら、私が犬の表所の変化を読み取れないだけの可能性もある。

 犬をみていると、彼は尻尾を振った。尻尾を振っているのは、喜びなどポジティブな感情を持っているのだろう。それを見て、私はなんだか不思議な気持ちになった。

 私には――人間には尻尾という器官が存在しない。だから、どういうメカニズムなのか――自らの意志で動かしているのか、それとも勝手に自動的に動いてしまうものなのか、実に不思議だ。

 もしも人間に尻尾があったなら、などという想像を、私は一瞬だけしてみた。しかし、人間には多彩な表情があるし、声音もあるのだから、尻尾など必要ない。尻尾には感情を伝える以外の目的、意味があるのかもしれないが、人間には必要ないのだろう。だから、人間には尻尾が生えていない。

 私は家に帰ってからも、犬と尻尾の相関性について考え続けた。そのうち、私も犬を飼ってみたくなった。しかし、私の住むマンションはやはりペット禁止である。なので、私は自分の脳内で犬を飼うことに決めた。

 妄想である。

 犬と戯れる妄想を一週間ほど続けると、満足した。その程度で満足してしまうので、私は犬を飼わなくでいいのだと思う。犬と一〇年、二〇年も一緒に生活していくのは、きっと私には無理だ。

 たまに姉一家の家に赴いて、犬と戯れて、彼の尻尾を観察するくらいがちょうどいいのだ。


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