真実
しばらく時間をあけ彼はポツポツ話し出す。
「最初に謝っておきます。私は記憶喪失ではありません」
「あぁ、知っていたさ。最初は事情があると思ってなにも言わなかった。名前があるなら教えてくれないか?」
マスターの言葉に彼は驚く。
「さすがですね。ですが、私に名前はありません。強いていうならばあなたたちの言葉でいう『化け物』です」
さすがにこの言葉を受けたマスターは驚くが平静に戻す。
「続きを聞かせてくれ」
「はい。私が言った『使命』とは人間の滅亡です。遙か昔に起こった災厄は私がもたらしたもの。当時の人間達は傲慢で破壊することしかできなかった。そしてなにより許せなかったのは生きることをあきらめていたことです。そして災厄をもたらしました。ですが6回目の災厄で私は力を使いすぎて倒れてしまった。それを介抱してくれたのは紛れもないあなた達の祖先でした。彼等は災厄の絶望を受けても生きることをあきらめなかった。私は人間を信じることを考え休眠にはいりました」
彼は一息に話すといすにもたれ掛かる。
「続きを聞かせてくれ」
「はい。私はつい最近目覚め、コロニーに向かいました。そこにいた人間は災厄前のままでした…」
「それで、殺したんだな…」
彼はうなずきもせずに話を続けた。
「滅ぼした後の情景を見て私は後悔しました」
「後悔?」
彼はうなずく。
「人間を信じようと決めたのに、怠慢な人間を殺してしまったことをです」
彼の頬を一筋の涙がこぼれる。
「だから私は次のコロニーで人間達を1日観察して、活力あふれる人々に会えば私自身を滅し、そうでなければ最後の災厄を起こそうと決めました」
「それで今回は前者だったと…」
彼は静かにうなずく。
「ここの人たちは暖かく活力あふれる人々ばかりでした。だからもう自分がいなくても大丈夫と思いました」
「おごり…だな」
「そう思ってくれてもかまいません。ですが私は『化け物』です。私自身を滅するのは罪を犯した私に対しての私なりの罰です」
彼はそう言うと扉まで移動する。
「もう、行くんだな…」
「はい、長い話につき合わせて申し訳ありません」
彼はマスターに頭を下げる。
「最後に一つ言わせてくれないか?」
彼は振り向いた。
「人の温かさを感じるのは人だけだ。それを感じたおまえは人間なんだよ」
「…昔、同じことを聞きました…。ありがとうございます」
彼はそう言い残し外に出た。
「おまえは優しすぎたんだよ…」
マスターは誰に言うでもなくつぶやいた。