異変
その後も案内を続けるエーリカ。しかしエーリカは忘れれなかった。彼が時折みせる寂しさを。町で買い物したときに二人の関係を冷やかされた時も、迷子を無事に親元に帰したときも、笑顔をしたと思えば彼は寂しげな表情をしていた。
夕方になり、店に戻ることにした。
「ただいま戻りました」
エーリカの元気な声を聞いたマスターは優しく出迎える。
「おぅ、おかえり。デートはどうだったか?」
「ちょ、ちょっとそういう冷やかしはやめてよ。彼だって困るわよ」
エーリカは顔を真っ赤にしながら訴える。
「はっはっは。そう照れるな。兄ちゃんもどうだった?」
「へ…、あ、あぁ。とてもいいコロニーでした。なんだか久しぶりに暖かくなりました」
「そうか、そりゃよかった」
「ですけど、私は明日旅立たないといけません」
彼の告白にエーリカは驚く。
「え、どうして?このコロニーが気に入ったんじゃないの?」
「兄ちゃん、もしかして隣のコロニーに出た化け物と関係あるのか?」
「え?」
エーリカには初耳だった。
一昨日隣といっても砂漠を挟んで数十キロにあるコロニーに化け物が出たらしい。それは人だけを襲い、食べていった。この町にもくるのではないかという話をこの店に持ち込んだ人がいたのであった。
「私には『使命』がある。もしこの町にその化け物がきたら私は『使命』を果たせなくなる。私も自分の命が大事ですから」
「あなたは、あなたって人は…。あの時折見せていた寂しげな表情はなんだったの?」
「そんなのはあなたの思いこみです」
彼は冷たく言い放つ。
「そう…。そうよね。あなたがそういう人って知らなかった」
エーリカはそのまま外に走り出した。
「おい、エーリカ…。はぁまったく。今日は店じまいかな…」
マスターはそういいながら扉のプレートを
「close」に変える。
「さて、1対1で話だ。嘘はなし。すべてを話せとは言わん。だが、明日出発する理由を教えてはくれないか?」
「嘘だと気づいてたのですね。久しぶりだ、こんな優しい人間と出会えたのは…。あなたにはすべてをお話します」