使命
「すると、あんたは記憶喪失なのかい?」
マスターはコーヒーを飲みながら彼に聞いてみる。
「おそらくは…。でも何かしなければいけない、そんな気がするんです。『使命』ってやつですか。そんなのが」
その場に沈黙が走る。
「いくら『使命』があっても記憶をなくしたら意味ないですね」
エーリカの言葉に彼は苦笑する。
「明日このコロニーを回ってみます。そうすれば思い出せそうです」
「泊まるとこはあるのか?なかったらこの店に泊まりな」
「本当ですか。わぁ助かります」
こういう気さくで寛大なところがマスターの人徳である。
「そん代わり泊まっている間午前中と夜間はきっちり働いてもらうからな」
「はい、よろしくお願いします」
次の日。
「エーリカ、この兄ちゃんの案内をしてやってくれ」
「え、店の方は?」
「俺一人でも大丈夫だ。そっちの兄ちゃんは危なっかしそうだからな」
「わかりました。なるべく早くもどりますね」
彼を案内すること1時間。彼は何事においても関心するばかりであった。
「どう?このコロニーは?」
エーリカは誇るように彼に問いかける。
「平和です。そして活気があり明日を生きようとがんばっている。他のコロニーではこんなことはなかったです」
「他の?記憶は無くしているのに変ね」
「はい、記憶を無くして旅をしていますからね。無くした後のことは覚えています」
苦笑混じりの声に潜む寂しさをエーリカはみた。