記憶喪失
試作品ですけど読んでみてください。
力を合わせれば生きてゆける。
彼女はそう教えられて生きてきた。そして両親が疫病で死んでもその考えは捨てなかった。
「いらっしゃいませ〜」
元気よくお客を迎えたのはウェイトレス姿の一人の女の子だ。
砂漠化が進んだ現代。人々は強く生きていた。町を作り、家を立て、生活を営めるまでになった。時間はかかったが、平和な世界であると言えよう。
「注文は何にしましょう?」
「―――――」玄関に付けてあったカウベルが反響してよく聞こえなかった。
「すいません、もう一度お願いします〜」
彼女は失礼と思いつつ、もう一度伺う。だが、客としていた男は彼女の問いに答えることは出来なかった。
「お客様?」
彼女が彼の顔を覗き込む。
「!!」
なんと白目をむいて寝ていた・・・。
「エーリカ、そろそろ上がっていいよ〜」
気安く声をかけてきたのはこの喫茶店兼酒場のマスターである。腕っ節は強く寛容な性格で皆から信頼されている。
「あ、はいマスター。お皿が洗えたら上がります」
「そうかい?じゃあ、頼めるかな。こっちは俺がやっておくから」
そういうと、昼間に来た?客のほうに向かって行った。その客は今の時間までその体勢で眠り続けていた。
「お客さん?店閉めるよ?起きてくんないかな?」
マスターが揺さぶってみる。起きない。
「お客さん、お客さん?」
肩を叩いてみる。起きない。
「お客さん、お客さん!」
背中を叩く。起きない。
「お・客・さ・ん!!」
頭をコツコツ叩く。起きない。
「マスター、その・・・、あまり強くしないほうが・・・」
しかし、エーリカの言葉はむなしくマスターには届かなかった。無言の鉄拳制裁。脳天を真上から襲うこぶし。所謂「げんこつ」だ。一応力は抑えていたみたいだが、彼の顔はカウンター席の机に打ち付けられた。彼はうめきながら顔を上げる。
「痛たたた・・・。ってここはどこです?と言うか私は誰なんですか!!」
「寝ぼけないでくださいよ、お客さん」
マスターのこめかみの血管は浮き出ている。
「ここは、このコロニー1の喫茶店『サンド・カフェ』。そこに寝に来る客はあんたが初めてだ。寝ぼけた頭をすっきりさせてやろうか?」
マスターの怒りは頂点に達していた。そのことを知ってか知らずか彼は飄々とした表情をしていた。
「いや〜そんなに怒らないでください。本当にわからないんですか・・・へぶぁ」
彼が言い終わる前に玄関先まで転がっていった。マスターのパンチだ。
「マスター、店が壊れますよ・・・」
エーリカの心配そうな言葉に我に返る。
「おっと、いけねぇ。また壊すところだった。おい、お客さん、いい加減目ぇ覚めたかえ?」
男は起きあがると二人に向かって話はじめた。
「やっぱり思い出せないです。すいません」