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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第肆幕【敵】
9/57

壱ノ其

「いやぁ、面白い。実に面白いぞ、大和や」

 メカニック統括の津久井(つくい)は、大和の私室に入るなり大声で笑いながら自慢のスキンヘッドをぺちぺちと叩いた。

「んー、何が面白いんだね?」

 アポもなしに津久井が乱入してくる光景に慣れている大和は、彼を無視して書類に目を通しながら質問した。

「あの青年だよ、草薙正義。いやぁ、アレは実に面白い」

「草薙君が面白い?」

 応接用ソファにどっかりと腰を下ろした津久井に、大和は視線を向ける。“機械馬鹿”といっていい程メカニック以外の物事に興味がない津久井が、珍しく他人に興味を示している事に驚いてしまったのだ。

「それがな、大和。あの青年な『ミツルギに関する今迄のデータを全部見せてくれ』って、三時間画面とにらめっこよ」

 メカニックルームにやってきた正義は、津久井を見付けると過去の戦闘でミツルギにどの様なダメージがあったか、どの部分に負荷がかかったのか、自分が把握している武装以外に隠し武器は存在しないか等、モニターを眺めながら次々と津久井に疑問を投げつけた。

“機械馬鹿”は、自分の頭の中に叩き込んであるミツルギに関する全てを披露していったが、中には津久井が考えもつかなかった疑問迄ぶつけられ「これは研究対象だな」と一緒になってノートに走り書きをさせる事になってしまう。

「今迄の資格者なんざ、損傷した所をとっとと直せぐらいしか言ってこなかったが…ありゃ、戦闘員じゃなく研究者向けの男だな」

 自分がいじるGMを纏っている側の者と語り合えたのが余程嬉しかったのか、満面の笑みで津久井は煙草を吹かしながらスキンヘッドを何度も叩く。確かに、大和が知っている限りでも今迄の守護者は戦闘以外の行動といえば好きな事をして羽を伸ばそうとするか、部屋に篭って自分の死を恐れているかのどちらかくらいしか思いつかなかった。そうでなくとも、守護者は戦いを好む者かそうでないかの二極であったから、そのどちらでもない行動をする正義には色んな意味で面喰うだろう。

 津久井の報告に書類を捌く手を休めていると、部屋の扉がノックされた。

「古澤です、少しよろしいでしょうか」

 津久井に続いて、今度はアーキアラジー統括の古澤(ふるさわ)がやってきた。今日はいやに来客が多い日だ、と大和は苦笑いしながら「入りたまえ」と声をかける。

「おや、津久井主任もご一緒でしたか」

「おう、考古学馬鹿。元気にしてたか」

 津久井の口の悪さに慣れていた彼女は、彼の言葉に動じる事なくソファに腰を下ろす。そのまま「失礼します」と大和の言葉を待つ前に煙草に火を着けると肺に入れた紫煙をゆっくりと吐き出した。

「それで、何かあったのかね?」

「いえ、草薙君の事で報告しておこうかと」

「お前さんもか! こりゃ愉快愉快」

 正義の名前が出た瞬間、津久井が大声で笑い出した。それはそうだろう、今しがた自分がその名前を大和に投げつけたばかりで他から投げつけられる等思いもしなかったのだから。当然、大和もタイミングのよさについ目を丸くさせてしまう。

「古澤君は、彼にどんな?」

「組織に残されている、守護者についてのデータを全て閲覧したいと」

 津久井とのやり取りを終えた正義は、次に古澤のラボへと向かい守護者についての情報を漁り出す。年齢、性別、守護者としての活動期間、考古学分野から見るGMについての見解。

 次々と「何故?」「どうして?」と小学生並のはてなを投げかけられるも、古澤にしてみれば“疑問を解明させる姿勢”が小気味よく、正義と議論していく内に自分自身でも『そういえば、どうしてそうなったのだろう?』という疑問が浮かび上がる事もしばしばあった。

「それで、彼は?」

「まだ、ラボでデータを閲覧中です」

 納得がいく迄調べようとする姿は、研究者としていい刺激になる。自分も、今以上にこれ迄あった事を見直し更なる研究にうち込めそうだ。

古澤の言葉に、津久井も深くうなずく。それは、今迄なかった“戦う者とサポートする者との深い繋がり”を意味している様にも見えた。戦う者は非戦闘側の者を見下す傾向があり、サポートする者は戦闘側の者の乱雑さに苛立つ姿をいくつも見てきた。それが、草薙正義という男を介して一転するかもしれない可能性がある。

「確かに…面白い男だな、彼は」

 大和はデスクチェアに深々と体を預けると、コインデックに現れた“イレギュラー”がこれからどう周囲を変えていくのかを想像し、静かに微笑んだ。

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