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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第参幕【決】
6/57

壱ノ其

「お、お前は…今、何をした!?」


 川崎市川崎区殿町(とのまち)──早朝。


“車輌事故による緊急通行止め”と称し、首都高速神奈川六号川崎線、湾岸線、東京アクアラインと周辺の一般道を全て閉鎖している中、正義達は首都高速のアスファルトの上に立っていた。

 多摩川を挟んだ対岸には羽田空港が見え、高速の真下には大手企業の石油コンビナートが連なっている。戦闘をするには非常に立地状況が悪かったが、そんな事は目の前にいるエソラムには何ら関係のない話だ。

 そして、それは初陣である正義にとっても同じだった。

 ミカガミを(まと)った加賀の背をカバーする様に立つと、正義は左足を前に腰を落として身構える。その先には、正義が拳撃で派手に吹き飛ばしたエソラムと数匹がいた。少し離れた所では、茜がミタマの固有武器で二匹のエソラムを拘束している。

 敵の数は全部で八体。三人で対処すればどうという事のない数の様に見えるが、その三人の空気は険悪なものであった。

「お前は! ブリーフィングで言われた事を忘れたのか!」

 敵の攻撃を避けながら、加賀が正義に向かって怒りの声を上げる。

「加賀君、彼は貴方を守ろうと──」

「そんな事はどうでもいい! 指示を無視した事を言っているんだ!」

 正式な任務参加という形では正義にとっては初めての戦いの場であった為、開始前のブリーフィングでは加賀が先頭に立って敵の殲滅(せんめつ)、茜は加賀のバックアップ、正義は前線には極力立たずにフォローとの指示が出されていた。しかし、正義はそれを無視する形で加賀の背後の敵を相手にした。

「俺はフォローに回っただけです」

 加賀の怒声とは対照的に、正義は極力冷静な声で反論した。無論、彼にも指示を無視した行動である事は判っていたが、

「加賀さんは、目の前の敵に集中する余り背後を取られ易い気がします。曲木さんが離れてる状況だったら、俺が背後のフォローをすべきでは?」

 いきなり自分の欠点を指摘され、加賀は思い切り舌打ちをする。

「そんないい訳が──」

 正面からの敵の襲撃に、加賀は言葉を詰らせつつ左に交わすと右足刀を敵の脇腹に叩き込む。そのまま敵を踏み台にしてジャンプすると、同じ様に跳躍していた二匹のエソラムに向かって両手に溜め込んだエネルギーの光弾を次々と放った。それが直撃すると、加賀が地面に着地すると同時に空中に二つの爆煙と破裂音が生まれる。

「だから!」

 加賀が立ち上がった瞬間、彼の背後を狙っていたエソラムに正義が飛び掛っていた。正義とエソラムは、掴み合いの状態で加賀の右横を転がっていく。

「素人の戦闘参加が気に入らないなら、もう少し背後に気を使って下さい!」

 巴投げの要領で敵を投げ飛ばした正義は、ついカッとなって加賀に怒鳴りつけてしまう。例え、加賀が認めていないとしたって、今は戦闘を終わらせる為に自分がやれそうな事をこなしていくだけだ。チームワークが上手く取れなくても、出来るだけ冷静に状況を見てひとつひとつ片付けていけば何とかなる。

 正義は加賀の背後を敵に捕られない様再び彼の背に立つと、そのままの体勢で茜の方に目線を配らせる。彼女はすでに拘束していた二匹の敵を倒し終え、新たなエソラムと対峙している状態だった。

「──ッ!」

 正義に背後を守られるのが気に入らないのか、加賀は舌打ちをするとそのまま地面を蹴って敵陣に突入する。その行動は、正義を完全に拒絶している様だった。

「草薙君!」 

 マスクの中のスピーカーから、茜の心配の声が聴こえてくる。

「貴方は無理をしなくていいから、下がっても大丈夫だからね!」

 ミタマの肩に備え付けられていた勾玉が茜の念動制御(テレパス)で勢いよく動き出し、正義の近くにいたエソラムに攻撃を加えていった。恐らく、彼女は加賀と違い正義を受け入れた上で前線から引く事を勧めているのだろう。

 それは、正義にとって本来であれば有難い話であった筈だが、彼は小さな声でぽつりと「そうじゃない」と呟いた。

「え? 何て言ったの?」

 敵の攻撃を交わしていた茜は、正義の言葉を上手く拾えなかった為に思わず聞き返してしまう。ゆっくりと話を聞こうにも、敵との攻防が正義の言葉を拾うのを邪魔する。

「曲木さん、俺は“戦う事”を否定した訳じゃないんですよ…」

「え? 草薙君?」

 正義の言葉を理解出来ずに半ば混乱している茜をよそに、正義は地面を蹴って加賀とは反対の敵陣に突っ込んでいった。

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