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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第弐幕【悩】
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参ノ其

 古い時代から、幽霊や妖怪、怪物といった類の話は後を絶たない。

 しかし、そのどれもが書物だったりTVや映画の作り物でしか見た事のない人々は、いつしかそれを“非現実=存在しない物体”と思う様になっていた。

 確かに、普段の生活では見る事は有り得ないか、あったとしても稀な話でしかない。ただ、それは『見ない』のではなく組織が意図的に『見せない』様にしていただけの事であった。

 その組織の名はコインデック。

 内閣府独立防衛対策委員会(Cabinet Office Independent Defense Committee)という一般市民には全く知られていない隠されたその組織は、遥か古の世より皇族を始めとした全ての民を魔の手から救っていた。

 古き頃は『守護スル者』と呼ばれ、人知れず魔の者達と戦っていたのが時代の流れと共に組織化され、大和が司令官として就任する頃には古の武器と現代テクノロジーを融合させ強大な敵に立ち向かえる様に発展されていった。

『守護スル者』が纏っていた鎧装備は、現代科学で微調整を繰り返した後ガーディアン・メイルと呼ばれる戦闘用特殊スーツへと変貌を遂げ、又、敵の出現位置も”歪界域(わいかいいき)”という特殊波長を掴み取れるレーダーの開発により、その周辺に規制をかけ一般市民を遠ざける事により被害を最小限に抑えられる様になった。

 コインデックの指令は大和だが彼は代理権力者であり、その権限は彼ではなく内閣総理大臣、果ては天皇陛下その方であり、情報や交通の規制といった所から人員管理に至る迄の全てが国の最高権力者の下にある以上いかなる権力者にも拒否権はない。

 何故なら、コインデックが相手をする敵は『天人(てんじん)』と呼ばれる者達──いわゆる神とされる者達だからであった。

『天人』が魑魅魍魎(ちみもうりょう)を操り人々の生命を脅かそうとするのに対し、『天子(てんし)』いわゆる皇族は『守護スル者』の力を借りてそれを撃退させていった。その二千年近くもの間繰り広げられる戦いは、『守護スル者』が組織化されコインデックへと変化するにつれて徐々に人間側が優位に立つ様になった。

「ただ、未だ『天人』が何の為に戦いを続けるのかは謎ではあるがね」

 大和の説明に、正義はただ唖然とするばかりだった。

 実際に目にしたとはいえ、化け物が実在してそれを倒す組織があるなんて考えてもみなかったし、ましてやそれが国が管理する組織だとはにわかには受け入れ難い。

しかし、目の前にいる男性は堂々とした姿でそれを語り、周りにいる人達も笑う事なく黙って話を聞いているのだから、これが盛大なドッキリとかそういったものではないんだろうな…と、正義は力の抜けた状態で大和の話を聞いていた。

「あ、あの、さっきの化け物って、あれが『天人』とかいう神なんですか?」

「いや、君が見た…というより戦ったと言った方が正しいか。あれはエソラムだ」

「エソ…?」

 コインデックでは『天人』が作り出す雑兵や敵対者を、魑魅魍魎(Evil spirits of rivers and mountains)の略称を用いてエソラムとした。そのほとんどは、『守護スル者』や協力者達が残した記述を元に”Es(エス)”という記号表記で分類され、そのデータは組織のマザーコンピューターに保管されている。

 エソラムは歪界域を利用して出現はするが、『天人』を始めとした全てのエソラムの拠点は掴めておらず、又、出現場所も特定されている訳ではなくそのほとんどが謎に包まれている状態だ、と大和は口にした。

「謎、といえばGMにも謎はあるんだが」

「GMって、ガーディアン何とか…っていう、俺が着たアレですか?」

 正確な名前が出ずに頭を悩ませる正義の姿に、大和は笑みを浮かべながら「うむ」と答えた。

「GMは我々が管理しているといっても、元は『守護スル者』の所有物でね。解明されていない部分が色々とあるのだよ」

 その言葉に、正義は加賀の言っていた事を思い出した。 

「守護者の資格、とかですか?」

 彼の一言に、大和の眉が動く。GMの正式名称も言えない様な青年が、まさかそこをピンポイントに攻めてくるとは驚きだ。

「加賀という人が言っていました。彼は、どうも守護者でもない俺がGMを着たのが気に入らなかったみたいなので」

 なる程、加賀君がね…彼は潔癖な部分があるから、草薙君みたいな部外者が資格を得るのは気に入らないか。

 大和は、苦笑いしながら肩をすくめると正義の疑問に答えた。

「GMは特殊な金属で出来ているんだが、まるで意思があるみたいに資格者を選ぶ──君を選んだ様にね」

「君を選んだ様にね」という言葉が、正義の体に電撃を走らせる。

 加賀や曲木の時同様、まるで遠回しにそうさせるといった感がひしひしと伝わってくるのが判る。 

「それって、もしかして今後俺に守護者として戦えって事じゃないでしょうね?」

 内心、返ってくる言葉を予想しつつも大和に問い質すと、案の定彼は「その通り」と正義に返した。

「俺は単なる一般市民ですよ? いきなり戦うなんて、そんなの戦争の道具みたいで嫌ですよ!」

「だが、君は実際にミツルギを着て戦った。違うかね?」

 まるで正義がGMを着たのが悪い、と言わんばかりに大和が釘を刺した。そこには、先程の温和そうな表情はなく、笑みを浮かべてはいるが鋭い眼光が威嚇している“組織の権力者”の姿があった。

「拒否権…は、なさそうですね」

 正義は、うなだれた状態で椅子に腰を落とした。

 恐らく、バンに乗った時点で運命は決まってしまっていたのだろう。それに気付かなかった時点で逃げ場はなかったんだ…

「申し訳ないが、組織の守秘義務がある以上、君には我々に従ってもらう」

「で、でも、大学とかバイトとか…」

「それについては、こちらで操作しよう。然るべき機関から正式な通達ともなれば、誰も君に文句を言えまい」

 八方塞がりという言葉が、正義の脳裏に浮かんだ。

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