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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第弐幕【悩】
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弐ノ其

 無機質な会議室、といった感じの部屋に通され「少しここで待っていてくれ」と言われて独りにされてから有に一時間が経とうとしていた。

 最初は『総司令』なる人物がどんな風貌か想像したり、どういう事を話せばいいのか頭の中でシミュレートしたりと色々と時間を潰していたものの、いい加減限界と苛立ちとが体を支配していくのが判った。

 例え、自分の心象が悪くなろうが知った事か。こんだけ待たされたんだから、文句のひとつ言ったっておかしくないだろ。

 さて、どんな文句を並べ立ててやろう…と再び頭の中でシミュレートを始めた時、部屋の自動扉が音を立てて開いた。

「いやー、大変遅くなって申し訳ない!」

 部屋に響き渡るのではないかというくらいの声量で謝罪の言葉を口にされ、正義は頭の中に並べていた文句の羅列を一気に失ってしまった。そのまま、ぽかんと間の抜けた顔で振り返ると、そこには黒いマオカラーの服を着た白髪の男性が立っていた。

 ロマンスグレーという言葉が似合う白髪は後ろで縛っているのか、男性の息遣いに合わせてその先端が腰元で揺れている。

 彼の後ろには、曲木茜と千葉、それ以外に見知らぬ顔の女性がいた。

「草薙正義君、でよろしいかな?」

「あ…はい」

「本当に、こんな長い事待たせて申し訳ない。私は、ここの統括司令官を務める大和健造(やまとけんぞう)だ、よろしく頼むよ」

 そう言うと、大和はすっと右手を正義に差し伸べる。恐らく握手を求めているのだろうが、突然現れた見ず知らずの人間と握手する気にはなれなかった。

 その警戒心がすぐに理解出来たのか、大和は右手を胸ポケットに忍ばせると今度は四角いケースから一枚の紙を取り出し正義に差し出した。

「突然握手しようとした私が馬鹿だった。改めて、コインデック統括司令官の大和健造と申します」

 差し出された紙は彼の名刺だった。

 今度は受け取らない訳にはいかず、正義は両手でそれを受け取ると穴が空くかの勢いでそこに書かれている文字を読んだ。そこには、大和の名前の上に『内閣府独立防衛対策委員会』と太字で印字されており、

「内閣府…って、俺の勘違いじゃなかったら、政治とか国会とかの内閣府…ですか?」

 見慣れない単語に、思わず大学生らしかぬ質問を投げかけてしまう。それが千葉には妙に受けてしまったのか、周囲に気付かれない様に口元を手で隠して笑いを堪えていたが、肩を震わせているのを茜に気付かれ軽い肘鉄を喰らってしまう。

「勿論、君の勘違いでも何でもなく、政治とか国会の内閣府だよ。ここにいる者は、全員内閣府管轄職員になる」

 大和の言葉に、正義の頭の中は現実離れした現状を理解出来ず混乱の渦が急加速していた。

 砧公園で寝てしまったかと思えば化け物に襲われ、怪我人から石を託されて呪文を唱えたらヒーローみたいな姿になって、その上化け物と戦う羽目になって、それが終わったかと思えばいきなり連れてこられた場所が内閣府のひとつ…

「済みません、少し頭の整理をしてからでいいですか…」

 混乱が収まらず、誰に断る訳でもなく手身近な椅子に腰を下ろしてしまう。だが、誰もそれに文句を言う訳でもなく各々近くにある椅子に腰掛け正義が落ち着くのを待とうといった姿勢になった。

「私は今日は何も予定が入らない筈だから、草薙君が落ち着く迄ゆっくり付き合おう。もし、急用がはいったら…あ、そうだ。姫城(ひめじょう)君」

 大和は、入り口付近で座っていた女性を呼び付ける。その言葉に、女性は静かに立ち上がるとヒールの音を静かに立てながら彼の横に立った。

「彼女は姫城弥生(ひめじょうやよい)君。私の秘書で、ここのオペレート全権を管理している。もし、私が急用で出なきゃいけなくなったら彼女に色々聞いてもらいたい」

「姫城です、よろしくお願いします」

 年の頃はそんなに変わらない顔つきだったが、全権管理という事はかなりのキャリアを持つ女性なんだろうか、と混乱している頭を落ち着かせながら正義は彼女の顔を見た。

 そういえば、あの曲木って子もそんなに変わらないんじゃないか? ここにはいないけど、加賀とかって奴も大して変わらない感じだった気がする。もしかして、自分が大学で適当にしている間、世界は知らない間にどんどんと変わっていってるのだろうか…?

 現実離れの状況が、正義の思考を狂わせ余計に混乱させてしまう。

 首を思い切り横に振り、頬を両手ではたいて気持ちを切り替える。

「済みません、もう大丈夫です」

 本当は混乱は収まっていない。だが、いつ迄経とうが更なる混乱が続きそうな予感がして、だったら質問なり議論なり始めて喋っている方がまだマシだと判断しての事だった。

「本当に大丈夫かい?」

 大和が心配そうに正義に声をかける。

「ええ、問題はないんですが…」

「問題はないが?」

「まず、一体何が起こってるのか教えてもらえませんか?」

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