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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第漆幕【心】
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伍ノ其

 戦闘管理の書類整理を終えた石川が遅めの昼食を摂ろうと食堂に足を運ぶと、長テーブルのひとつに正義が難しい顔をして座っているのを見かけた。

「草薙さん、こんな所でどうしたんですか?」

 きつねうどんを注文し丼を抱えて正義の所へ向かうと、彼は難しい顔から一転して明るい顔を石川に見せる。

「お! 丁度いい所に石川さんだよ!」

「え、僕ですか?」

 正義の前には一冊の分厚い本が置かれていた。恐らく、彼は本の内容に苦戦していたのだろう。

「本を片手に悩んでるって、まるで試験勉強みたいですね」

「あー、似た様なもんかな。古典と日本史のごった煮みたいな状態」

 正義の例えが理解し難かった石川は、おもむろに本のタイトルを眺めた。

「日本神話、ですか…確かに、本の選び方を間違えるとさっぱり判らない内容ですよね」

 彼は大学生だった筈だが、専門課程が違っていればその手の分野には精通しないから判らなくても致し方ない部分はあるだろう。それ以前に、学業で学ぶ内容ではないので全く話を知らないまま生活していたとしてもおかしくはない。

「書店で店員に『一番判り易いので!』って注文したんだけど、それでも全然頭に入らなくて」

 苦笑いをしながら、正義は本を突いた。それ迄全く縁のなかった世界ではあったが、タケミカヅチを始めとした『天人』が関わってくる以上少しでも自分なりに情報を集めようと考えた事だった。

「名前や地名なんかの固有名詞が漢字の羅列で、しかも当て字の様に並べられているから尚更読み手を敬遠させてしまうきらいはありますね」

 自分も学生時代にかなり苦戦したな、と石川は昔を思い出し苦笑いをしてしまう。

「石川さんって、確か大学時代に神話関係を専攻してたって聞きましたけど」

 正義は、自分にも判り易い様に石川に解説を願い出た。 

「そう、ですねぇ…国造りからだと五柱神の下りだろうから…」


 まだこの世が形を成していない頃、天之御中主神アメノミナカヌシノカミを筆頭とした五柱神こと別天津神(コトアマツカミ)が誕生する。その最後に生まれたのが伊邪那岐(イザナギ)伊邪那美イザナミの二柱神で、別天津神は伊邪那岐達に国を造る様命ずる。

 伊邪那岐と伊邪那美は天の浮き橋に経つと天沼矛(あめのぬぼこ)を用いて陸地を形成し、淤能碁呂(オノゴロ)島(一説には淡路島北端にある絵島であるとされる)を誕生させた。

 淤能碁呂島に降り立った二柱神は婚姻の儀を交わし八つの島を次々と生み出した後性交するが、伊邪那美の方から婚姻の誘いを行った為に生まれた子神は奇形であった。

 奇形の子神を処分し、改めて伊邪那岐から婚姻の誘いを執り行い大山津見神(オオヤマツミノカミ)を始めとした国津神を次々と生み出すも、最後に火迦具土神(ホノカグツチノカミ)を産み落とした際伊邪那美は陰部を焼かれ命を落としてしまう。

 伊邪那美を死なせた事に怒りを感じた伊邪那岐は火迦具土神を切り殺すと、伊邪那美を追って黄泉の国に向かい連れて帰ろうとするが「地上に出る迄決して後ろを振り向かないで欲しい」という伊邪那美との約束を破り伊邪那岐は途中で振り返り、醜悪な姿の伊邪那美を見て余りの恐怖に伊邪那美を捨て逃げ帰ってしまう。

黄泉比良坂(よもつひらさか)迄逃げ帰った伊邪那岐が近場にあった大岩で黄泉比良坂を塞いでしまうと、

「愛しい人からのこの様な仕打ち、ならばそなたの国の人間を日に千人殺して差し上げましょう」

恨みを込めた伊邪那美の声が岩戸の向こう側から聴こえ、それに恐れた伊邪那岐は、

「ならば、私は日に千五百の産屋を建てて建て進ぜましょう」

と言い返し、阿波岐原(アワギハラ)で身を清め穢れを祓った。その際、清めた左目から天照大神(アマテラスオオミカミ)が、右目から月読命(ツクヨミノミコト)、鼻から素戔男尊(スサノオノミコト)が生まれた。

 その後、高天原(たかまがはら)を治めた天照大神は伊邪那岐と伊邪那美の造った葦原中国(あしはらのなかつくに)(日本大陸)の統治は天津神が行うものだと宣言。大国主神(オオクニヌシノカミ)を始めとした国津神(クニツカミ)葦原中国平定あしはらのなかつくにへいてい(国譲り条約)を結んだ。


「簡単に言えば、こんな感じですかね」

 石川が自分なりに内容を簡素に整理して説明すると、正義は目を丸くさせて感心していた。

「それじゃ、タケミカヅチとかはどっちの神に位置するんですか?」

「タケミカヅチは天津神側の神です。基本的に、『天人』に分類される神は天津神がメインになりますね」

 コインデックのデータベースには、天津神、国津神を始めとして数多くの神話関係情報がインプットされている。そのほとんどは必要に値するのか疑わしいが、それでもエソラムに関係がありそうな妖怪や物の怪に分類させている。

「んじゃ、『天人』のラスボスはアメノミナ…なんとかっていう神なのかな?」

「天之御中主神ですか? 流石にそれはないと思いますが…」

 五柱の神々の内、造化の三神の一人高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)は征服・統治の神とされている。征服という言葉に注目すれば、確かに五柱の神々が背後に控えていてもおかしくはない。もし、正義の言う様に五柱神もしくは伊邪那岐達を含めた七柱神の存在を考慮するなら更なる対策を検討した方がいい。

「草薙さん、ちょっとこの本借りていいですか?」

「別に構わないですけど?」

「この本を元に、少し戦闘管理室の方で対策を練ってみます」

 仕事が増えるのは嬉しくはないが、ガーゴイルの一件もある。

 ここは、自分の立ち位置を見極めて慎重に行動するのが戦闘管理補佐の仕事だ。草薙、曲木両名の負担を軽減させる為に、自分のやれる事をやろう。

 千葉と違ってフォローしか出来ないが、だったらそのフォローを完璧なものにしてやろうじゃないか。

「もう、金魚の糞なんて言わせませんよ」

 久々に熱くなれる、そう感じた石川は心の奥から沸々と湧き上がるものに興奮を抱いた。 

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