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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第伍幕【舞】
16/57

肆ノ其

 地面に叩き付けられると、急激に血が全身を通っていくのが判り体中が熱くなる。同時に、空気が一気に喉に入り込み急な呼吸のせいで激しくむせ返ってしまう。

「カハッ…グッ、グホッ…」

 爆発音は自分の魂の糸が切れた音だと錯覚していたが、意識が徐々にはっきりしてくるとそれは射撃物によるものだという事が判った。苦痛に目を細めながらアメノウズメを見ると、顔の左半分から煙が上がっていてそこに着弾したのが目に見えて明らかだった。

 千葉は銃の携帯を認められているが、ハンドガン如きではこんな爆煙は上がらない。という事は──

「いやに遅いと思ったら、二人揃って何やられてんだよ」

 背後から加賀の声が聞こえてくる。ふらつく頭を無理矢理向けると、ミカガミを纏った状態で肩を回しながら近付いてくるのが見えた。

「加賀ぁッ! お前、今頃きてよくそんな事──」

「ハイハイ、お叱りはアレを倒してからゆうぅぅぅっくり聞きますよ」

 相手を小馬鹿にした様な加賀の物言いに、千葉は軽く舌打ちする。とはいえ、ミツルギもミタマも戦闘不能に追い込まれた現状では、最早頼みの綱はミカガミしかいなかった。

「あ、そうだ」

 そんな千葉の気持ちも知らず、加賀は更に彼を追い詰める様に、

「千葉さんさぁ、周囲の損害無視してやるからそのつもりでヨロシク」

「おいおい、勘弁してくれよ…」

 加賀は、真っ直ぐ『天人』に向かって歩みを進めると目の前で立ち上がろうと膝を起こす正義に向かって「邪魔だ」と力一杯蹴りを入れる。突然の事に力の入っていない正義は、そのまま一度バウンドしながら勢いよく吹き飛んだ。

「か…がさん、何…を…」

「素人はそこで寝転がってろ。そして、テメェが倒せなかった『天人』を俺が倒す様をしっかり焼き付けておけ」

 蔑んだ口調で正義に言葉を投げ付けると、加賀はそのままアメノウズメを見る。背中でひらひらと揺れる六反の羽衣が、まるで挑発しているかの様に見え思わずニヤリとほくそ笑んでしまう。

「乗ってやるから、こいよ」

 加賀も負けじと、右手の人差し指で「おいで」と挑発する。それに触発されたのか、『天人』の背中で揺れていた羽衣は一気に加賀に向かって襲い掛かってきた。

 加賀はミカガミの手首に装備された光弾発射口(E‐ガン)からエネルギーを放出させ、それを掌に纏わせると素早い動きで羽衣を次々と弾き返し、隙が出来てがら空きになった本体に向かってイレディミラーを容赦なく発射させた。

「着弾確認するも損傷軽微、か」

 ならば、と『天人』を軸に時計回りに走り出すと肩の光弾をマシンガンの様に小出しに発射させる。着弾の度にアメノウズメは小刻みに揺れ、反撃するタイミングを逃していた。

「お次は、火力アップで蜂の巣だ」

 加賀の攻撃の隙を狙ってアメノウズメは羽衣を勢いよく突き出すが、寸での所で交わすと熱量を上げた光弾をお見舞いする。慌てて羽衣を引き寄せて光弾を弾き返そうとするが、熱量の違いで焼け落ちてしまう。

「火力調整完了~…死にな」

 走り回らなくても『天人』の攻撃に意味がなくなったと判断した加賀は、わざとらしくアメノウズメの正面に立ち再びイレディミラーの連弾を浴びせる。アメノウズメは続け様に発射される光弾を防ごうと羽衣を重ね合わせて盾にするもそれは最早脅威ではなく、次々と穴が開けられると高熱源の弾が何発も本体を貫いた。

「何だよ…加賀のヤツ、その気になったら『天人』も余裕で倒せるんじゃねえか」

 蜂の巣にされていく天神を見て、千葉は呆れながらも笑ってしまう。正義も、自分達が太刀打ち出来なかった天神がいとも簡単に倒されていくのを見て思わず「凄ぇ…」と言葉を漏らした。

「おっと、これじゃ曲木の時と一緒だ…加賀ぁっ! 気ぃ抜いて襲われる可能性を考慮しておけ!」

 千葉が言うのとほぼ同時に、崩れ落ちた『天人』の欠片から新たな羽衣が放出されミカガミに巻き付いた。それは、正義に対して行ったのと同様に加賀の体をぎりぎりと締め付けていく。

「ハッ…これで反撃したつもりなのかよ!」

 しかし、ミカガミの右手首が輝き出すと瞬時にエネルギー光がバーナーの炎の様に羽衣を焼き払う。

 加賀にとって、すでにアメノウズメは敵ではなかった。欠片から次々と伸びる羽衣は手首のバーナーで焼き尽くし、まだかろうじて残っている本体に容赦なく光弾を発射する。

「ほらほら、とっととタマハガネを差し出しなよ」

 アメノウズメの至近距離でイレディミラーを連射させながら、加賀は原型を留めていない踊り子の顔を眺めた。やがて、頭部の奥で鈍い輝きを見付けると握り拳を叩き込み、顔面を崩しながらタマハガネを掴み取る。

「じゃぁな、か・み・さ・ま」

 手首からのエネルギー弾が炎と化して、『天人』の鎧装内部を走っていく。それは至る所に開いた穴から噴出し、やがて全体を覆う頃には人の形をした炎の柱となっていた。加賀は、火柱をしばらく眺めると踵を返して千葉の元に戻ってきた。

「討伐完了だ。これで、さっきのサボりは帳消しだろ」

「全く…これじゃ、説教も出来ねーだろが」

 千葉はミカガミを解いた加賀の肩を叩くと、そのまま肩を抱いて大笑いした。そんな千葉には目もくれず、加賀は正義を見下ろすと、

「これが()()()()だ。覚えておくんだな」

 その冷徹な笑みに、正義は小馬鹿にされた怒りよりも何となくではあるが恐怖を感じ自分の胸を握り締めてしまった。

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