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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第伍幕【舞】
15/57

参ノ其

「関係者以外の人影ありません」

「よし、各通用口に工事用バリケードで偽装。突撃部隊四班と五班は警備制服に着替えて付近の巡回に回せ」

 石川の計測通り、観光客が完全に姿を消すのに二時間が経過した。その間、アメノウズメは延々と踊り続け、正義達は付近の木にもたれかかりながらその姿を眺めていた。

 今迄の敵と違い、目の前にいる『天人』は敵意を全く見せずに唯踊っているだけだった。それだけに、討伐対象として捉える事に一瞬躊躇してしまう。

「草薙君、最初は私に任せてもらってもいいかな?」

 少し離れた所で様子を伺っていた茜は、正義の元へ近寄るとアメノウズメを一瞥しながら呟いた。

「どんな敵か判らないから、貴方は少し様子を見ていてほしいんだけど」

「だったら、アタッカーの俺が先陣切って曲木さんが様子見の方が──」

 正義の反論に首を横に振ると、彼女は静かに笑いながら、

「元医療関係者として、あの『天人』が個人的に気に入らないってだけ」

そう答えると、正義の返答を聞く事なくアメノウズメの元へと歩いていく。

 右手に握り締められていたミタマのタマハガネは、茜の怒りに同調してか炎の様に輝いている。その輝きは「神鎧装纏」の声と共に、右手から激しい渦となって彼女を包み込んだ。

 一瞬にしてミタマを纏った茜が『天人』に向けて右手を静かに伸ばすと、ミタマの右の手元から紫色に鈍く輝く勾玉連珠(ジェムウィップ)が無尽蔵に伸び、アメノウズメの左腕に絡み付いてその動きを拘束する。

 左腕の動きを封じられたアメノウズメはそれを振り解こうとするが、茜が右腕を力一杯外に振り払うと連珠に左腕を引っ張られ膝を崩してしまった。その隙をついて、茜は続け様に左腕の勾玉連珠をアメノウズメの顔めがけ勢いよく放出した。

 それは、後わずかという所で『天人』の右手に握られていた羽衣に阻止され弾き返されるが、今度は右腕を内側に力一杯払う事でアメノウズメの膝を地に付け、その勢いに乗って左の逆回し蹴りを背中に叩き付けた。

『天人』は勢い余って顔面を地面にめり込ませた。だが、瞬時に上体を起こすと羽衣を振り回してミタマの左足首に巻き付け、自分がされたと同じ様に右腕を内側に力一杯払ってミタマを地面に叩き付ける。

 互いに、敵に巻き付けた武器を解くと即座に距離を取り身構える。そして、ほぼ同時に鞭の様にしならせた武器は相手の武器と宙で激しくぶつかり合い鋭い金属音を立て続けた。

「拘束出来ないなら」

 茜は、ジェムウィップをしまうと同時にテレジェムを一気に放出させ、十六の閃光は瞬時に『天人』に襲い掛かる。空中で独楽の如く激しい回転を見せながら、宝玉は次々と『天人』にダメージを与えていく。

「これなら…曲木がやってくれるんじゃねぇか?」

 ミタマの激しい動きに、千葉は思わず勝利の笑みをこぼす。しかし、正義は千葉とは違い、以前『天人』と相対した者だからこそ感じる違和感に体を支配されていた。

 女性型だからパワー不足なのか、タケミカヅチが強かったのか、それとも、何か他に隠し玉を持ち合わせているのか──

「曲木さん、一旦下がって下さい!」

 石川の声がスピーカーに響いた。その声で緊張の糸が解けたかの様に、突如茜が地面に膝を付けた。

「あれ? 何で?」

「遅かったか…草薙さん! 急いで彼女をそいつから引き離して下さい!」

 石川の声が焦りに満ちていると気付いた正義は、その場で武装展開すると地面を蹴って茜の元に駆け寄り彼女を抱え上げると再び地面を蹴って後退した。その動きに『天人』は攻撃の手を休めるが、正義には「何だ、つまらない」と言っている様に見えてしまう。

「石川、一体何があった?」

「言い方は悪いんですが…曲木さんは『天人』に弄ばれていただけです」

 石川の目の前で、モニターがミタマと『天人』の戦闘映像をループさせている。そこには、ミタマが攻撃を当てる毎にマナを吸収されているデータが映し出され、次々と吸収される毎に画面左上のアラートサインが危険信号を発していく。

「『天人』の割に弱いから、何となく気になって検証したんですが…僕が調べた時にはすでにアラートイエローで」

「チッ、何てこった…おい、そいつの弱点っぽい場所は特定出来ないのか?」

「今調べていますが、パワータイプではないといったくらいしか」

 スピーカー越しに、千葉と石川の会話が続く。それを聞いた正義は、茜を静かに横たわらせるとアメノウズメを見ながら戦い方を計算する。

 今の所、武器らしい武器といえば羽衣くらいで他は見当たらない。恐らく、羽衣を巻きつけられれば膨大なマナを吸い取られるだろう。だからといって、小刻みにダメージを当てるとしても同時にそこからもマナを吸い取られる。それを避けるには、一点集中で一気に仕留めなければいけない。

「くそぉ…いい感じだと思ったのになぁ…」

 何とか上体を起こそうとしながら茜が呟く。

「ごめんね、役立たずになっちゃった」

「何言ってるんすか。曲木さんの活躍で『天人』の特性が判ったんですから有難い事ですよ」

 お世辞でも何でもなく、彼女はきっちり仕事をやってくれた。次は、自分がきっちり仕事をこなす番だ。

 正義は深く一息吐くと、腰を落として両手甲のブレードを展開させた。そのまま摺り足で左に移動しながら、アメノウズメの出方を覗う。

「さぁ、どうくる?」

『天人』は、首だけをゆっくりと動かし正義の動きを追うものの羽衣を握っている右腕は微動だにしない。羽衣を動かそうとする瞬間を狙うか、羽衣を突き出した際の隙を突いて突撃するか、どちらを選ぶにしても勝負は一瞬で決めなければ。

 アメノウズメの右肩がわずかに揺れ、手首が持ち上がる。

「よし、このまま──」

『天人』の背中から、左右三対の羽衣が突如現れたかと思うと勢いよく正義に襲い掛かる。予想しなかった攻撃法に一瞬固まってしまうが、間一髪羽衣が地面を抉る直前に左に回避する事が出来た。

「チッ、やっぱり隠し玉を持ってやがったか!」

 アメノウズメが左足を一歩前に出し身構えると、背中の羽衣は更に意思を持った生物の様に縦横無尽に正義を襲う。その容赦のなさはミタマと違いミツルギが戦闘特化型と判断した為なのか、それ迄の優雅さが全く感じられなかった。

 マナを吸収されない様に羽衣を避けるだけで攻撃に転ずる事が出来ず、正義の動きは後手後手になってしまう。それでも隙を覗うが、攻防一体となっている羽衣は彼を本体に近付けさせる事なく距離を開けさせていく。

「だったら!」

 マナ吸収の犠牲覚悟で、正義は羽衣をブレードで次々弾くとそのまま一気に距離を縮めた。次に羽衣が自分を攻撃する場合、一旦膨らまないと焦点が定まらない筈だ。その隙を突いて一気にダメージを与える事が出来れば勝てると見込んだ。

「──!」

 だが、正義は三対の羽衣に気を取られすぎて右手に握られていた羽衣の存在を忘れていた。そのわずか一反が彼の首に巻き付き、アメノウズメの右手に力が込められるとギリギリと彼の首を締め付けていく。慌ててブレードで斬り付けるが、急激に硬くなった羽衣はいとも簡単に刃を弾き返してしまう。

「クッ…」

 意識が遠くなってきているのは、羽衣で首を絞められているからなのかマナを吸い取られているからなのか。もがけばもがく程、徐々に力が入らなくなっていく。

 スピーカーから千葉や石川の声が聞こえているが、意識が朦朧として何を言っているのか聴き取る事も出来なくなってくる。ああ、これが津久井さんの言っていた事なのかもな…中途半端に力に過信して、そこから油断が生じてこのザマだ…

 呼吸が出来ず、激しい耳鳴りが正義を襲う。腕を振る力もなくなり、そのままだらんと垂れ下げてしまう。

 ああ、これが死というものなのかな。

 失いかけた意識の中静かに目を閉じると、大きな爆音が耳に聴こえた。

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