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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界百合小説[短編集]

エルフさんとオークさん。

作者: 彩音

 エルフェンの集落-フォーレスタ。

 私が住んでいたその集落が襲われたのは、実に私が成人として扱われる15歳の誕生日を迎えたまさにその日でした。

 悲劇は突然起きました。

 耳をつんざく凄まじい音と共に突如集落をエルフェン族以外から遮断する結界が破られたかと思うと優に1万はいると思われるオークの軍が次々と雪崩れ込んできたのです。

 何故結界が破られたのかは詳しく調べてみないと分かりません。

 ですが憶測であれば幾つか可能性には思い当たります。

 その一つは結界を成す為の中核となっている世界樹に寿命が近づいて来ていて、そのせいで結界が弱まった可能性。

 ですがこれは限りなく無いと言えます。

 私はエルフェン族の中において中流家庭の出ですので世界樹に近づくことは許されていません。

 近づけるのは長老か、或いはそれに近い上流家庭のエルフェンだけです。

 この間世界樹の様子を見に行かれた長老が世界樹はまだまだ元気であると言っていました。

 ですのに結界が破られるということは不自然極まりありません。

 ですからこの説は恐らくあり得ないでしょう。

 ではその長老が嘘をついていたら? というのが第二の可能性となりますが、そのような嘘をついて長老に何の得があるのでしょうか?

 これも可能性として成り立ちません。

 最後に集落のエルフェンの誰かが集落を裏切った可能性。

 私はこれが一番高いと思っています。

 凡そ見当もついているのです。

 ですが証拠もなしに決めつけるのは良くありません。

 例え「こんな集落糞くらえだ」とか「オークにこの集落の場所を知らせたら金をもらえる。俺はその金を使ってこの集落を出てそれを元手に商人になるんだ」などという話を聞くともなしに聞いていたとしても証拠がなければ疑ってはいけないのです。


 オークの軍の強さは圧倒的でした。

 いいえ、こちらも戦闘準備が整っていれば例え数で劣ろうとも勝利することが出来たのかもしれません。

 エルフェン族は皆、魔法に長けていますから。

 その魔法が上手く機能していれば或いは。

 男性も女性も私達エルフェンは殆ど皆、オークに捕らえられてしまいました。

 巨大な鳥籠のようなものに私達は文字通り詰め込まれて生まれ育った集落から連れ出されます。

 

 泣き叫ぶ子供達。

 その子供達をあやす親エルフェン。

 不安に顔を曇らせる男性エルフェン。

 絶望に打ちひしがれる女性エルフェン。

 オークと言えば女性好きなことで有名です。

 私達は彼らの慰み者にされる為に彼らの里に連行されているのでしょう。

 

「風よ!」


 魔法を発動させてみますが、やはり籠の中では使用出来ないようです。

 オークの中にこのような高等技術を用いた籠を作れる存在がいるとは思えません。

 ではこれは誰が作ったのでしょう?

 私の脳裏にヒューエンスという存在が思い浮かびます。

 寿命が短い為か数だけは多い種族。この世界の一応の支配者。

 知能はそこそこに高く、しかしその知能を平和に生かすことはせず、自らの欲望にばかり傾ける種族。

 戦争を繰り返し、時には同胞を同胞と思わず拷問の末に殺すなどする愚かで卑しい連中。

 エルフェンを見世物か奴隷かとして捕らえる為に彼らが作った。

 それならあり得ないことではありません。

 オークが持っているのはヒューエンスの軍なり騎士団なりを襲った際に彼らが持っていたものをたまたま手に入れたというところでしょうか。

 オークにとっては棚から牡丹餅でしょうが、私達にとっては最悪です。

 成すすべもなく私達はオークの里に連行され、皆引き裂かれてしまいました。


「お前はこっちだ」


 私は槍を持ったオークにこれから私を隷属なりさせるのであろう存在がいる場所に連行されます。

 抵抗は出来ません。鳥籠と同じ性質の手錠を後ろ手に掛けられてしまっているからです。

 

「・・・・・」


 魔法の使えないエルフェンなど赤子同然。

 暴れたら何をされるか分からないので私は大人しくオークの後に続きます。

 20分ほど石の道を歩いて着いたのはまるでヒューエンスが建てたものかのような立派な屋敷でした。


「こっちだ」


 赤絨毯が敷かれた石畳の廊下を歩いて正面の階段を上って二階へ。

 廊下を歩き、三つ目の扉を数えたところでそのオークは止まります。


「エルフェンを連れてきました」

「入れ」


 声を掛け、中のオークに了承を得たら扉を槍を持ったオークは開けます。

 中に入るように促されて素直に従うとそこには女性がいました。



「初めましてだな。エルフェン」


 緑の双眸、ざんばらな緑の長髪、なかなかに凛々しい顔、豊満なバスト、筋肉質ですが抜群のプロポーションです。

 その方がじろじろ私を見ます。

 どうしてヒューエンス? の女性がこのようなところにいるのでしょう?

 この方も捕らわれてきたのでしょうか?

 だとしたら放ってはおけません。

 あまり気乗りはしませんが、一緒にここから脱出。


「エルフェン?」

「はい、すみません。少し考え事をしていたので。貴女はオークに捕まったのですか?」

「は? なんであたしが捕まらないといけないんだよ」

「...? このようなところにいらっしゃるので」

「このようなところって。オークがオークの里にいるのは当然だろ」


 .....? オークがオーク? それは当然ですが何処にオークがいるのでしょう?

 私はオークの姿を部屋内に探します。

 見回してみても何処にもいません。


「あの、何処にオークがいらっしゃるのでしょう?」

「目の前にいるだろう」


 いません。

 隠れ身の魔法ハイドを使えるオークがいるのでしょうか。

 だとしてもエルフェンに気付かせないのは大したものですね。

 あ! 手錠のせいでそういう能力も落ちてしまっているのかもしれませんね。


「お前さっきから何考えてんだ?」

「いえ、ハイドが使えるオークがいるのが珍しいので」

「え? まじで? 何処にいるんだ。あたしも初めて聞くぞ。そんなの」


 うん? 話が噛み合っていない気がしますね。

 貴女が言い出したことですよね?


「何処だ。何処にいる?」

「あのぉ」

「なんだ?」

「失礼ですけど、貴女が言い出したことですよね?」

「あたしが? 何を?」

「オークが私の目の前にいるって」

「いるだろ。ここに」


 その方はご自分を指差しました。

 頭でも打たれたのでしょうか。

 オークは豚鼻で全身緑色、もしくはそれに近い色で筋肉質と決まっています。

 私達の集落を襲撃したオークも皆、緑色に近い肌の持ち主で筋肉質でした。

 いえ、目の前の方も筋肉質ではありますが、肌の色が私達エルフェンやヒューエンスと同じ肌色なのでオークであることはありません。


「頭でも打ちましたか?」


 目の前の方の言い分に頭痛がしてきたので問うてみます。


「信じてないだろ?」


 言われて頷きます。信じられる筈ないではないですか。


「なら証拠を見せてやる」

「証拠ですか」


 その方は部屋に飾られている騎士の鎧に近づきます。

 手の甲でそれを叩き、とんでもないことを言い出しました。


「この鎧を素手で殴って穴が開くなり、凹んだりしたら認めるか?」


 私はその鎧をじっと見ます。

 材質は鋼でしょう。

 それを殴り、本当に穴が開くなら認めざるを得ません。

 そんなこと他種族には転んでも無理ですから。


「はい、本当に出来るなら認めます」

「そうか」


 その方は鎧を殴りました。

 穴が開きました。

 私は目を見開いて驚愕します。


「これで分かっただろ?」

「...えっと、はい」

「そうか。じゃあ分かったところでお前にはこれからのことを説明しないとな」

「・・・・・」

「まず...」


 オークの女性は私を奴隷にすると言いました。

 分かっていたことです。

 分かっていたことですが、たった15年だけ生きた身の上でこれから一生オークの奴隷。

 どうして私がこのような目に遭わないといけないのでしょう。

 もっと自由に生きたかったです。


「さて、そうと決まれば奴隷の証を身体に刻むことと服を着替えてもらわないとな」


 女性は私の手錠を外します。

 そして私の左手を取り、その甲に何かスタンプのようなものを押し当てました。

 聞くとヒューエンスがエルフェンを捕らえて開発させた隷属の証のスタンプだそうです。

 私の手の甲に魔法陣のような文様が浮かび上がります。

 これは一生消えることがないそうです。

 私はオークの奴隷になってしまいました。

 わが身がそんな身分に。

 いっそ――――死にたいです。


 俯き、絶望に身を染めます。

 私を奴隷にしたオークが私を殺してくれたらいいのにと思ってしまいます。


「服は....と」


 オークは部屋の奥にあるクローゼットへ歩いていきました。

 今なら逃げられるでしょうか。

 いいえ、逃げたとしてもこの奴隷の証がある限り私は何処に行っても最下層の存在として扱われます。

 手袋などで隠しても怪しまれるでしょう。

 取って見せろと言われたらおしまいです。

 私は何もかも諦めてオークを待ちます。

 5分程してオークは私の前に戻ってきました。


「これが今日からお前の服な」


 奴隷の服。

 私はそれを受け取って見ます。

 みすぼらし....。あれ? どう見ても素敵なワンピースです。

 これは高いのではないのでしょうか。

 一体何の材質で出来ているのでしょう?

 私はオークを見ます。

 何かの勘違いですよね?


「あの。こんな素敵な服を奴隷に?」

「ん? そうだけど?」

「もう一度聞きますけど、私は奴隷ですよね?」

「そうだな」

「この服は?」

「お前の服」


 おかしいです。

 私は夢でも見てるのでしょうか?

 頬を抓ってみます。痛いです。

 オークに何やってんだこいつ。っていう目で見られてしまいました。


「では着替えますね」

「ああ」


 私は今着ている服に手を掛けます。


「ちょっと待て」

「はい?」

「えっ? お前なんであたしの目の前で着替えようとしてるの?」

「奴隷だから身体を見せろとか言うのでは?」

「え? 見せたいの?」

「いえ、見せたくないですけど」

「じゃあなんでここで着替えるの? おかしいだろ?」

「えーっと。あれ?」


 頭が混乱してきました。

 私は一体何の奴隷になったんでしょう。


「隣の部屋で着替えてこい。続き間になってるからそこから行ける」

「はぁ...」


 私は納得出来ないながら従います。

 着替え、戻るとオークは上から下まで私をじろじろ眺めはじめました。

 私を貶す言葉が出てくるのでしょう。

 私は顔を伏せます。


「良く似合ってるな。うんうん、エルフェンはやっぱりあたし達より線が細くて顔も美人だから何着ても絵になるよなぁ」


 .............そうですよね。線が細くて。うん?

 全部褒め言葉に聴こえるのですが、気のせいでしょうか?

 私はポカンと口を開けてオークを見ます。

 

「なんだその顔。美人が台無しだぞ」

「おかしくないですか?」

「何がだ?」

「なんで褒めるんですか? 普通貶すでしょう。似合わないとか」

「似合っているのに似合わないっていうのか?」

「私、奴隷ですよね? 何度も聞きますけど」

「そうだな」

「おかしい」

「だから何がだ?」

「全部です。普通こき使ったり、貶したり、拷問したりするでしょう。なんですかこの扱い。これじゃあお客さんみたいじゃないですか」

「拷問するのか?」

「しますよ。爪の間に針差すとか」

「何それ怖い」

「貴女オークですよね?」

「見ての通りだ」

「見てもそう見えないんですが、さっき鎧に穴を空けたので信じます。で、オークとエルフェンって永遠の天敵なんですよ。だから普通オークはエルフェンをいたぶる筈なんですよ。そう言えば私の仲間達はどうなってるんですか。まさか今頃」

「お前と同じような生活してると思うが?」

「ほんとに?」

「ああ」

「おかしい....」


 なんですか、これ。

 どういうことですか?

 意味分かりません。

 私の中のオークのイメージがぼろぼろ崩れ落ちていきます。


「部屋はさっきの隣の部屋を自由に使ってくれていい。で、暇なんでたまに話し相手になってくれ。お前に望むのはそれくらいだな。仕事はどうする? あ、学生だったか? 学園行くか?」

「15歳なので働きます。この屋敷の侍女にでもさせてください」

「そうか。ではお嬢様に言っておくな。あたしはこれでもお嬢様からは信頼が厚いから大丈夫だろう」

「貴女の身分は?」

「あたしか? あたしはお嬢様の近衛騎士だ」

「一つ聞いていいですか?」

「なんだ」

「どうして私達を攫ったんですか?」

「そりゃお前、あのままだとトロールに襲われてたんだぞ。知った以上は助けるだろ。普通」

「トロール...」

「ああ、お前の里の男が外に出て来て妙な奴とそんなことを話してるのを聞いたからな」

「いろいろ気になることはありますけど、鳥籠に入れられた理由は?」

「魔法撃たれると死ぬかもだからに決まってるだろ。扱いが悪かったのはすまん。謝る」


 あれ~。私達は襲われたんじゃなかったんですね。

 でもまだ頭がこんがらがっています。

 では何故私達は奴隷にされたのでしょう?

 聞いたら教えてくれるでしょうか。

 ダメで元々問うてみます。


「助けてくれたのならどうして奴隷にしたのですか?」

「それは...」


 オークは顔を背けます。

 やっぱりそういう種族だからなんですね。


「一目惚れしちまったから。逃がしたくなくて、奴隷にしたらずっとここにいてくれるかなって」


 えっ? はい? 照れてるの可愛いんですけど。

 なんですか、これ。今の告白ですよね?


「勢いでやっちまった。その...責任は取るからずっとここにいてくれ」

「はい」

「ほんとか? ほんとにほんとだな?」

「こんなのつけられたら何処にも行けませんし」

「そうか。そうだよな。あたし、グッジョブ。今日から毎日一緒に寝よう」

「え..。あの、はい」

「風呂も一緒に入ろう」

「えっ」

「それから....」


 オークは私を置いていろいろ勝手に決めていきます。

 そのどれも私を拘束したり、尊厳を奪ったりするものではありません。

 おかしい。



 私、奴隷ですよね――――?

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