2話 異世界拉致
俺は普通の高校生だった。今日の出来事が起きるまでは……
いつもの自堕落な生活を送りながら、今日も明日も同じようなことを繰り返す毎日。
まともな友達もおらず、これならいっそニートになってしまったほうがいいかのように感じられる毎日。
足枷でもついているかのように重い足を引きずりながら今日も学校という名の地獄へと向かう……はずだった。
足枷がついてるせいで気づかなかったのかは知らないが、トラックにミンチのようにひき殺される。
そして俺は本当の地獄へと向か……わなかった。
俺は気づいたときは牢屋の中にいて、牢屋の前に白衣を着た背の丈ほど髪のある金髪幼女が俺に話しかけてきた。
「くvさgkすヴぁsヴyk」
金髪幼女の言ってることはわからないが、牢屋を空けてくれたので味方なんだろうとその時は思っていたが……
「ありがとう、助けてくれて」
そういって牢屋の中から出ようとしたとき、自分の体に電流が走り、気を失った。
次に気づいたときは手と足が縛られており、椅子に座らせられ金髪幼女に話しかけられる。
「フェルナ・パプスルックよ、わかるかしら」
さっきまで言語とは到底言いがたいような声を出している人間だったとは思えなかった。
「何を黙っているのかしらほかの転移人と同じなら殺すわよ、自分の名前ぐらい名乗ったらどう?」
殺されるという恐怖に耐えながら何とか声を出す。
「俺の名前は…………えっと思い出せません」
「やっぱりね、普通は異世界から転移してきたら記憶なんて何も残ってないどころか言語すらしゃべれないわ」
ほかの記憶はあるのに名前だけどれだけ考えても思い出せない。まるで名前がなかったかのように
「あなたは異常だわ、転移前の世界で何をしていたのかしら」
「普通に自堕落に無職に近い生活を過ごしてましたが……なにか?」
牢屋からスタートの異世界転移なんて最悪すぎるし、手足を縛られながら、何で生活態度までさらさなきゃいけないのだろうか。
「ありえないわ」
「私を余裕で超えれる、これだけの魔法量と魔法耐性を持っているのにそんな生活を送っていただなんて……」
といって彼女は黙り込んだ。
なんか転移したときにすごいチート能力がもらえたっぽいけど、よくある神とかに出会ってないんだが……
「えーと、もしかしてその能力って転移した際にもらえるんでしょうか」
「そんなわけないでしょう。とぼけないで、頭のよさが転移してよくなら私だって転移するわ!」
元の才能がよかったらしい。できれば前の世界で発揮したかったけど……
「あなたの世界には国がなかったとか?」
「ありましたよ」
「じゃあ、あなたは大悪人の息子とか?」
「親にそんな前科はないと思いますが……」
「目立ちたくないから、隠していたとか?」
「俺、目立つの好きですよ」
何か変な問答がこの後も続いた。
「不可解すぎるわ、あなた嘘をついてるでしょう」
嘘も何もついてないのに言われると心外である。
「そもそも俺の世界に魔法なんてないよ」
「…………嘘だわ、そんなことありえない」
「でもそうすればあなたの言ってることの辻褄が合うわ、魔法のない世界があるなんて興味深いわね……」
相手はすごい驚きながらも、納得している様子で何かを始めた。
「俺からも質問しても言いか?」
「いいわよ」
「どうやって俺を転移したんだ?」
「あなたの世界であなたを殺したように偽装してこっちの世界につれてくる、王宮の禁断の魔術よ」
俺はこいつに殺されたらしい。前の世界にうんざりしてたしそんなに文句はない。
「なんでそんな禁断の魔術が使えるんだ?」
「私は天才だからね、当然できるわ、変かしら?」
謎理論だが、変なことを言われるより納得できる言葉だった。
「ここはどこ?」
「いえないけど、都市からすごい離れた辺境の土地の地下だ、ということぐらい教えてあげる」
「何の目的で呼んだ?」
「他の異世界人と同じように、あなたを人体実験の道具に」
急な死刑宣告に冷や汗が出た。逃げようともがくが手や足は全く動かない。
「大丈夫よ、落ち着いて。あなたほどの魔力のある人物を人体実験に使うなんてもったいないわ」
「……そうなのか」
どちらにせよあっちの言葉を信じるしかない。嘘だといって怒ったところで相手の言葉が嘘ならどちらにせよ死ぬ。
「そもそもなんで禁断の魔術なんて使って人体実験やってんだ?」
「私の親はこの世界の住民を人体実験に用いて悪魔と呼ばれるようになったわ」
「でも異世界人なら法がないから何してもOK、まぁ生かしておいたら面倒だから最後は全員殺すんだけどね」
「なら俺は無関係なんだから、早く足と手の自由を開放しろ!」
とにかく逃げないとやばいと本能が伝える。むちゃくちゃなことを言ってるのはわかるが、もしかしたら一寸程度の可能性はあるかもしれない。
「どうやったら無関係ってことになるのかしら?あなたと話すことで時間が稼げたわ、魔力を持ちすぎる人間の処分は面倒なのよ」
「さようなら」
俺が次に目が覚めたとき、俺は杖になっていた。
目も見えるし言葉も話せ記憶もあるが、杖になっていた。
「よーし、これで処分終わりっと」
「……何てことしてくれるんだこのヤロー!元の姿に戻しやがれ!」
目の前にいる金髪幼女に怒鳴りつけた。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、杖がしゃべってるーーーーー」
「お前が俺を杖にしたんだろうがこの野郎!」
「普通杖にしたら記憶や意識すらも飛ぶんだよ、異常すぎる…………」
「早く戻せ!」
「これはもう売るのが最適解だわ、人を杖にしたのがばれないように口の堅い商人に売りましょう」
「きいてんのかコイツ!」
「うるさい!」
それから俺の意識はなかった。
次、俺の目が覚めたとき目の前には赤いスカートと白い服を着た女の子が座っていた。




