1話 出会い
きらきらと輝くシャンデリアの中、豪華な服装に似つかわしくない野獣のような目で獲物を捕えようと必死な有象無象の集合。
私はとある用事があってこんなところにきました。
その用事とは自我を持った杖を手に入れることです。
「次の品は世にも珍しき自我を持った杖!100万からスタート!」
私はこの掛け声とともに22番と書かれた札を上げ、次の商品の紹介が始まるまで下げる気は全くありませんでした。
彼女の威勢におびえた獣たちは獲物を捕らえることを諦め、次々と札をおろして行く。
ついに獲物を狙う獣はいなくなった。
「22番さん!8000万でお買い上げありがとうございます!」
「さて、次の商品は…………」
私は自分の望みの商品が購入出来たことを確認した後、欲望の渦巻く汚らしい会場を後にしました。
魔法で帰ることもできますが、私はいつも馬車で帰るようにしています。
だって、魔法で帰ってしまっては人間らしくないでしょう。
私を待っていてくれた馬車の使い手に声をかけました。
「いつもの家までお願いします」
「了解しました」
何気ない会話ですが、私にとってはとても重要なものなのです。
馬車での旅は決して快適なものではありませんでしたが、まわりのおだやかな風景を見るだけで私のたびは何倍も素敵なものになりました。
楽しみとは永遠ではなく、いつもの家が近づいてきました。
私ひとりで住むにはあまりにも広い、いつもの家に到着しました。
私はまず門を閉めたあと、倉庫のような狭い自室に直行し、それから紅茶を自分でいれ、机に座りながら今日購入した商品の梱包をはずしたのでした。
琥珀色をした眼球のようなものに棒に刺しただけの意味不明な杖を眺めていると、眼球のようなものの目が開きました。
「tあsうけtえkuれ、こkohあdこnaんdd!!!!!」
けたたましい声ではあったが何か意志のあるような声だした。
「これ、自我があるじゃない!いつものような偽者じゃない!やったわ」
とても高額だった分、嘘だったらこの商品を売ったやつを半殺しにしようと思っていたところだった。
「おrえwonいnんgEんにMおDSe」
怒りのこもった声ではあるがなにかを伝えんとしていることがなんとなくわかる。
「もしかして言語を話せる能力があるのかしら?」
私はこのときのために用意したといっても過言ではない超難解な万能翻訳魔法を試した。
「私はエルネスト・パプスルック、聞こえていますか」
「エルネスト・パプスルック?」
「やったわ!翻訳成功だわ」
未知の国にいった時、言語の通じる相手に出会えたことに歓喜するような気分だった。
「もしかしてだが、言語翻訳ができるといい、名前からしてあいつの仲間だな!早く俺を元の姿に戻して元の世界に返しやがれ!」
「どういうことかしら?、私は商品としてあなたを購入しただけで、誰の仲間でもないわ!まぁ、わたしには友達も仲間もいませんが…」
全く見に覚えのないことを言われ困惑しながら返答するが、杖は聞く耳を物理的にも持っていなかった。
「そんなことは知ったことじゃない、早くもとの世界に戻せ!」
沈静化魔法を使うのは気の進むことじゃないが、このままではどうしようもないので使わせてもらうことにした。
「何をするんだこのやろう!お前もあいつみたいに…………」
魔法が効いたようだった。
「落ち着きましたか?」
「はい」
「あなたの名前は?」
「我輩は人間である。名前はまだない……」
「…………」
翻訳ミスかしら?何を言ってるのかしら。
「ごめんなさい、ふざけるのはやめるとして」
「異世界から転移してからそれだけが思い出せないんだ」
私って感情が表情に出るタイプなのかしら。
「異世界からの転移魔法なんてまだ実現されてない魔法です」、
「でも俺はここにいる」
「…………」
「名前がないのは不便でしょうから、名前を授けましょう」
「ええっと……エスタなどはどうでしょうか?」
「……いい名前だな。ありがとう」
てきとうに考えていったので文句をいわれず安堵した。
「ところで」
「お前はあいつの仲間じゃないんだな」
「あいつは知りませんが、私の仲間になってくれる人がいるとは思いません。あえて言うなら、馬車を管理してる人くらいでしょうか。」
「ごめん……ところで言語翻訳魔法なんて、この世界では一般的なのか?」
「…………」
「一般的ではありませんね」
世界の誰一人として実現できないといわれていた魔法を、不完全ながら実用化させたものを一瞬で見破られ動揺が隠せずにいた。
「それにあんたの目的はなんなんだ、なぜ俺を買った」
「私は人じゃないんです。人形なんです。」
「この世界ならありえるのか?」
「ふつうはありえません。でも私はここにいます」
「…………」
「私は人形なので人の気持ちがわかりません、それで嫌われてきました」
「なので同じ意思を持つ人間でないものの中に、人の気持ちを理解するものがいるかもしれないと思い購入しました」
「あんたは俺を買うほどのお金をどこで仕入れてきた?」
「私はこの国の女王、通称魔女と呼ばれる人間から作られました」
「魔女は失踪した娘がいたにもかかわらず、死後の財産を私に引き渡すようにいってきました」
「それで私がお金をもらいうけたのです」
私は今まで誰にも話したことのない過去を杖に語った。杖は黙っていた。
「私からあなたに質問をします」
「あなたは元に戻せといっていましたが、それはどういうことですか?」
「俺は普通の高校生で断じて杖などではない、転移先で杖にさせられたから戻してほしい、ただそれだけ」
率直な意見だが、翻訳ミスなのかいろんな意味で、意味不明である
「高校生とはなんですか?」
高校生だったということから、なにかの身分のことなのだろうか
「えーと、高校生というのは9年間学業、武術を修めたものの中から選ばれしものたちが更なる高みへといくために通うものです」
「……」
「すいません!私はあなた様の身分も知らず無礼な態度をとってしまい、どう謝罪したらいいか……」
9年間も学業を修めるというだけでもエリートなのに、そこから選抜された人物とあらばとても高貴な人物なのだろう。
「えっと…あなたも女王に近い存在なのですよね?」
「今は隠居していて国の植民地領にいます。権力はないにも等しいんです」
「なるほど」
次に、一番聞き出したい情報を聞きだすことにした
「あなたは恐らく人だったのでしょう、何があったのか話してもらえませんか?」
「……わかりました」
そして杖はゆっくりと語りだした