表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

第三話

水野めいに取れかかったボタンを縫い付けてもらっている土田和男。その二人のやりとりを見つめるもう一人が…

「るかぁ~!ねぇ、るかってば!」

「あっ、えっ?あ、何っ?」

「え~っ!聞こえてなかったのぉ~?さっきから何回も呼んでたんだよぉ~!」

「えっ?そ、そうなの?ご、ごめん…ごめんね、ちょっとぼ~っとしてた…。」

「あははは、どしたのぉ~?具合でも悪いのぉ?」

「ううん、そういう訳じゃないんだけど…。」

不意に声をかけられた山形るかは、いつも一緒にいる永田ちかに気のない返事をしながら、もう一度土田和男と水野めいの方をちらっと見た。

「ん?ああ、何…るか、めい達のこと見てたん?」

「あ、んん…」

ちかに聞かれたけれど、るかははぐらかすような返事をした。

「めい、ソフトボールしかしたことないって顔してるけど、案外乙女ちっくだよねぇ…毎朝、自分でお弁当作るって言ってたし…。」

「えっ!そうなの?…そうなんだぁ…。」


めい…そうなんだぁ…2時間目と3時間目の間の休み時間に食べてるでっかい爆弾みたいなおにぎりも、お昼に食べてるおっさんみたいなでっかいお弁当も、全部自分で作ってるんだぁ…そっかぁ…めい…って、乙女なんだねぇ…あたしなんか、お弁当作ったことないもんなぁ…そっかぁ…そんで、ボタンつけとかささっとやってさ…土田…めいみたいな子が好きなのかなぁ…なんかやけに仲いいけど…そう…なんだぁ…土田って…ああいう子が好みなんだぁ…そっかぁ…そうなんだぁ…な~んだ…な~んだぁ…あたしも今度、早起きして自分でお弁当作ってみよっかなぁ…そしたら…そしたら、土田…あ、や、うそうそ…あ、や、でも…どうしよっかなぁ…あ、でも、一回ぐらい…作っても…お母さんに教えてもらおうかな…練習して上手になったら…土田に…いやいや…ないない…気味悪がられるに決まってるよね…うん…今日もワイシャツの中に変な赤いTシャツ着てるけど…あれ、どこで買ったのかな?あたしも…同じの…欲しい…かも…。


「ねぇ、それよか早く行かないと…。」

「あ、そだね…ごめん、ちかちゃん…行こ行こ!」

山形るかと永田ちかは慌てて教室を出ると、だだだと走って1階の購買部に向かった。


「はぁはぁはぁはぁ…大丈夫…セーフ…まだ、焼きっ…そば…パン…はぁはぁ…残ってるみたい…はぁはぁはぁ…。」

「あ、ホントだ…はぁはぁ…焼きっ…焼きそっ…はぁはぁはぁ…」

「いらっしゃい…焼きそばパン1つづつね…後は…あ、だいじょぶ?走って来るから…。」

学校の購買部にパンを売りに来ている業者の若い男性に、心配をかけてしまった。

「はぁ…もう、あの…だいじょぶです…すいません…あの…焼きそばパンと後…え~と…チョコクリームパンにします…えへへ…。」

「じゃあ、あたしは…あ、あの、この日本海サンドって…」

るかが尋ねると、パン屋の男は優しい笑顔で丁寧に「新作のサンドイッチでさ…中身はかにカマとレタスなんだけどね…。」なんて、少し照れたように説明してくれた。

「あ、じゃあ、あたし、焼きそばパンとこれ1つ。」

「はい、毎度!あ、そだ…これ、おまけ、良かったらどうぞ…じゃ、またよろしく!」

パン屋の男性は小さいビニール袋に入った、形があんまりよろしくないけれど美味しそうなきつね色の丸いパンを二人にくれた。


「あ~…疲れた…階段上るのしんどいねぇ…。」

「そだね…あ、あのさ…あの…。」

「えっ?何?ちかちゃん…。」

「あ…ううん…やっぱり何でもない…ごめん…行こ行こ!チャイム鳴っちゃう!」

「え~っ!何、ちかちゃん、言いかけてやめるのやだぁ~…もにゃもにゃするよぉ~!」

「そ…ごめん、たいしたことじゃないんだぁ…たださ…」

「ただ?」

「そう…あたしもるかと同じ、日本海サンドにすればよかったかなぁって…思っただけ…。」

「ホント?」

「うん…う…ん…そだよ…」

「ふ~ん…じゃさ、食べる時半分こしよう!2つ入ってるから、1こあげる…。」

「え~!いいのぉ~!じゃさ、あたしのチョコパンも半分あげるね!えへへ。」

「ふふふ…そうえばさ、あのお兄さん、いっつもおまけのパンくれるよね。」

「あ、うん…そ、そうだよね。」

「まさか…だけど…あたし達のこと気に入ってくれてんのかなぁ?あははは…な~んてね…そんなことあるわけないか…他の人にも失敗したっぽいパン、おまけであげてるもんね…あはは…。」

るかはちかの顔が急に真っ赤になっていることに気がついた。

「ちっ、ちかちゃん!大丈夫?顔、真っ赤だけど…苦しい?大丈夫?保健室行く?」

「大丈夫、大丈夫…ほら、さっき走ったし…階段…きっついなぁって…あたしは大丈夫だから…さっ…早く行かないと…授業始まっちゃう…。」

「そ…そうだけど…まだ、少し余裕あるから…ゆっくり行こうね…。」

「うん…ありがとね、るか…。」


あのパン屋のお兄さん…彼女とかいるのかなぁ?…あ、結婚してたりして…だったら…もう、駄目かぁ…でも…でも…今日会えたから…ちょっとだけど、話せたから…パン、受け取る時、ちょっとだけ指の先、触っちゃったから…今日は…いいや…いかったな…えへへ…えへへへへ…えへへへへ…。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

お話はまだまだ続きますので、どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ