第二十九話
お話の続きです。
どうぞよろしくお願いします。
チャコはとても頭のいい犬。
つまらな過ぎるショートコントの感想を求められ、困り果てているヤヤ・ンニャモがストレスできゅ~っとなった胃を手で押さえた瞬間、するりとヤヤの手元のリードから離れると、全速力で駆けて行った。
「あ~~~っ!チャコ~~~っ!ンニャモォ~!チャコが…。」
「ア~ア~ア~ア~…待ッテ下サ~~~イ!ア、ゴメンナサイ…アノ…ジャッ…。」
逃げたチャコを追いかけながら、ヤヤもみやことけんたも何故だか心がとても軽くなった。
「あ~、行っちゃった…まぁ、しゃあないしゃあないって…ワンちゃん、逃げちゃったからさ…。」
「そだな…じゃ、ま、気を取り直して…稽古すっか…。」
お笑いの頂点を夢見る「がっつりめし」の無駄とも思える稽古は、こういった形で再開された。
…あ~…もう!犬!なんで逃げるかなぁ…あ、でも、がっつりの二人、また稽古始めたみたい…頑張って!頑張ってね!
駐車場から木陰に移動した布施まりあは、両手の指をがっちり組んだまま、引き続き彼らの稽古を見守ったのだった。
…まさか…まさかとは思うけど…あいつら…あの外人さん達に…。
ハッと目を開けたまりあは、ヤヤ達がチャコを追いかけて行った方向を見て少し不安に陥った。
「ハァハァ、チャコ…アリガトウ…気ヲキカセテクレタンデスネ…アリガトウ、チャコ。」
がっつりめしの彼らの姿が見えなくなったあたりで、チャコはちょこんと待っていた。
ヤヤ達は3人でチャコを優しく撫でた。
「水…飲マセテアゲマショウ…。」
舌を出してはあはあしているチャコをひょいと抱きかかえると、ヤヤ達は公園の水場にやってきた。
すると、そこに先ほど見た様な光景が。
それは先ほどのひょろひょろとした若い男性二人ではなく、どちらかといえばぽっちゃりした体型の若い男性が二人、同じ方向を向いて大きな声で何かやっていたのだった。
「マ…マサカ…。」
ヤヤ達の予想は見事に的中。
今度もまたお笑い芸人、もしくはそれを目指しているらしい若者だった。
そして、デジャブの様にまた声をかけられ、半ば強引に彼らの「ネタ」を見る羽目になった。
ぽっちゃりした二人の若干背が高い方は高梨しげる、小さい方は間中かんと名乗った。
お互い芸名をつけようか、迷っているのだと聞いた。
「じゃあ、あの始めますんで…よろしくお願いしま~す!」
「ご飯より。」
「どっちかっつうと、パンが好き。」
「パンスキーでぇす、どうぞ、宜しくお願いしま~す!」
ご飯の次はパン。
何故だか炭水化物が続いた。
「パンスキーのわたくし、しげでぇす!」
「パンスキーのわたくし、かんでぇす!」
今度の二人はちゃんと名乗った。
「え~…わたくし、最近ですね…。」
先ほどの「がっつりめし」はショートコントばかりだったが、「パンスキー」の二人は自虐漫才。
何度も繰り出される「デブネタ」に、ヤヤ達は食傷気味になった。
けれども、彼らはこちらの気持ちなどまるでお構い無し。
詰め寄るように笑いを求めてくるのだった。
パチパチパチパチ。
やっとネタ見せが終わると、やはり二人は駆け寄り「面白かったです。」を求めてきた。
「アー…アハハ…アー…エート…。」
ヤヤの胃は、またもやキューっとなってきた。
そうなると、チャコの出番。
ヤヤが胃に手を当てたその隙に、ささ~っと駆けて逃げて行った。
「ああ、チャコ~ッ!ンニャモ、追っかけないと…。」
2回目となると、みやことけんたも要領よく動いた。
「アア、待ッテェ~!スミマセン!ゴメンナサイデス…。」
ヤヤが感想を求められる、胃に手を当てる、それを見てチャコが逃げる、それを追いかける形で全員逃げる。
この流れを再びやることになるなんて。
…イツモヨリ、チャコノ散歩、遅クナッチャッタカラ…コンナ目ニ合ウノデスカネ…今度カラ、気ヲツケナクテハ…。
一連の様子を観察している目があった。
…あ~、ちくしょ~!犬、なんで逃げちゃうかなぁ…くっそ~!絶対あの外人達、あっちでもネタ見てきたはず!そんで、あいつらのへたくそな、くそつまんないネタの感想聞かれたはずなんだけど…あ~あ…絶対こっちの、パンスキーの方が面白いって…わかってもらえたかなぁ…あんな、面白くも何ともないがっつりめしよりも…パンスキーのネタの方が断然面白いって、わかってくれたかなぁ…あ~…それにしても、まりあ、何であんなやつらのこと応援してんだろ?一緒にパンスキーの応援したいのになぁ…あ~あ…。
外灯の影から見ていた堀田ゆきの心は、モヤモヤしていたのだった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
お話はまだ続きますので、どうぞよろしくお願い致します。




